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薬剤は一時、構造は永久

構造の工夫こそシロアリ対策の根幹

 新築時のシロアリ対策でもっとも大切なことは、薬剤を散布することでもなければ、様々な関連資材を取り付けることでもありません。それはシロアリとの関係をうまく処理できる構造的な工夫です。
 どんなに「シロアリに強い」と主張する建物でも、シロアリの様々な適応にすべて対応できるものではありません。しかも、一旦できてしまった家屋の構造は二度と変更できないのです。

シロアリの排除よりも、シロアリがいても対処しやすい家を

 ヤマトシロアリは日本に昔から広く生息していましたが、かつての日本の家屋はヤマトシロアリとうまく付き合うことのできる家でした。それは、部材が露出し、被害が早期に見つかり、あるいは日常のメンテナンスが容易、しかも床下などの生物のバランスもありました。
 ヤマトシロアリは分散型のシロアリなので、一旦駆除された部分にわざわざ再びやってきて住み着く必要はありません。多くの場合、駆除は予防でもありました。そうしてシロアリが床下にいても人の住む民家は倒れなかったのです。
 今よく見られるのは、乾燥してはいても一旦シロアリの侵入を受けると対処できない家です。床下がない家、床下が低すぎる家、柱が密閉状態の家、土間周りが 複雑な家、デザインだけで無理なリフォームをした家などです。もちろん、家を建てるときには何らかの薬剤処理をするかもしれません。しかし、こういう建物 では二度と処理のできない部分が多くを占めます。そして薬剤は永遠に効くわけではないのです。ところが、居住者はこの構造と永遠に付き合うことになるので す。
 建てるときの判断はきわめて重要です。この点では数多くの現場を経験しているシロアリ技術者の判断は大いに参考になるものです。

イエシロアリ地域では建てる前から駆除型の対策を

 一部過密な地域を除けば、イエシロアリは集団が大きいだけに新築に際しては予防的な薬剤処理よりも駆除にこそ意味があります。
 とくに旧家屋にイエシロアリ被害がある場合、家屋の取り壊しの前に駆除を行うことこそ最も効果的な予防措置となります。
 これをせずに薬剤による予防を行った場合は、数年で新築家屋に被害が出やすくなります。駆除されてなければイエシロアリは強引に侵入してくるのです。
 駆除が成功していればあとは定期点検によってシロアリの動きを早めにキャッチして早めに対応すればいいのであり、この点でも家屋が点検しやすい構造、侵入が察知しやすい構造なら対応がより的確にできます。
 また、隣近所との良好な関係の維持も駆除に際しては大きな助けとなります。

乾材シロアリ地域では点検しやすい構造を

 アメリカカンザイシロアリやダイコクシロアリなどの乾材シロアリは、建物のどの部位に生息するかわかりません。柱や土台はもとより、障子の桟、羽目板、タンス類、装飾品、畳など多様で、しかもそれらに接するものは木材以外でも加害されます。
 羽アリは1年中飛び(コロニーによってまちまち)、しかも1頭1頭の営巣率はヤマトシロアリなど土壌性シロアリと比べて格段に高く、隣近所から飛んできていきなり木材に入り込みます。
 したがって乾材シロアリ地域では、侵入を阻止できないこと、一定の被害は覚悟すべきことを前提に家を建てなければなりません。そしてそのうえでいくつかの対策が考えられます。
 まず複雑な構造あるいは木質系の外壁やデッキは禁物です。そして各階の天井裏から床下まで点検可能にする工夫が必要です。吹き抜けや手の届かない開放型の天井は避け、容易に天井の部材に手が届くような構造とし、柱も露出型かまたは内壁材の取り外しや補修が容易な構造が必要です。
 万が一侵入された場合は、微量とはいえ薬剤を室内で使わざるを得なくなることもありますので、化学物質に過敏な方は建築地の選定や家具類の移動には慎重であるべきです。対策の多様性を束縛するような高気密住宅は建てるべきではありません。
 また、「塗料をしっかり塗ればいい」とか「薬剤処理されているから」という素人判断は禁物です。実際の現場では、塗膜の厚いピアノでも被害があるし、高濃度のホウ素系薬剤を塗った木材でも1年で羽アリが営巣しています。
 ただ、この種のシロアリの被害で家屋の強度が低下することはまずありません。定期駆除によって徐々に減らすことは可能ですので、新築時からこのシロアリに詳しい技術者に相談できる関係を作ることが大切です。
 一般に言われる乾材シロアリ生息地域は県単位でも市単位でもなく、ある一定の区域に生息しています。自分の居住地が県としては生息地域だとしても必ずしもこのシロアリが付近にいるわけではありませんので、具体的には技術者に相談すべきです。

構造的シロアリ対策の事例  新築時シロアリ対策のまとめ
基礎巾木は塗らない方がいい


わざわざシロアリを集めて
招き入れる家も

 乾いた家と湿った家が並んでいても、シロアリは必ずしも湿った家のほうに誘引されるわけではありません。なぜなら土の中ではどこでも湿気はあるし、現代のようにコンクリートが多用され地表が覆われていればなおさらです。
 しかし、シロアリは土の中でも温度の違いには敏感です。従来1軒の家でも、冬場に家族の集う暖房の効いた部屋や、日当たりのよい玄関周囲は被害の集中点になりやすかったのです。
 最近では、床下を暖めるタイプの家の床下ではシロアリが多数の蟻道を構築しているのに、近所ではその家以外にほとんどシロアリ被害の話が出ないという例もよく見られます。
 つまり、温度で集められたヤマトシロアリが、基礎の断熱材や不用意につくられたコンクリートの接合部あるいは剥離部から家屋に導きいれられているのです。
 しかも、こういう家に限って、作る側は「床下や木材が乾燥しているからシロアリが生息できない」などと無責任な言い方をするのです。

家屋自体に被害がなくても
シロアリ被害は起きます。

 ある家の居住者は鉄筋コンクリートだからシロアリに食われないと胸を張っていました。しかし、みごとにヤマトシロアリの被害にあいました。
 たしかに家屋にはまったく被害はありません。しかし、階段下の物置の本や段ボール箱、竹簾などが被害にあってしまったのです。さらに、和室の畳も被害を受けました。
 つまり、シロアリ対策は建物だけでなく生活全般が対象なのです。
 しかし、いまだに「木造はシロアリに弱く、RCや鉄骨はシロアリに強い」という思い込みが強いようです。

生き物に配慮のない現代住宅

 「環境共生」を主張する家も含めて、現代の住宅は生き物(つまり自然)との共生を憎悪し根底的に拒否しています。その結果、生き物の適応にうまく対処できず、本来無害な生き物をすべて敵にまわしています。
 例えば、天井板を安易に省いて天井裏をなくしたり極端に狭くすれば、ネズミやコウモリなどの適応にうまく対処できなくなります。基礎パッキンだけで空気を  通せば、そこは確実に生き物の通り道となり、クモが巣をかけ、やがては詰まってしまいます。同じことは吸排気ダクトについてもいえます。
 こうした生き物との関係で家を建てる風習は、長い歴史の中で形成され近年まで職人の間に受け継がれてきましたが、今ではまったくなくなり、法律とデザイン、建材と数値だけで家が建てられるようになりました。そしてその結果、居住者が後で困ることが多くなったのです。
 誰でもわかる明らかな手抜き工事を欠陥だと大騒ぎするのも必要かもしれませんが、生き物との関係、つまり自然との整合性という点での欠陥こそが問題とされるべきです。

現代住宅の最も典型的なシロアリ被害は玄関にあり

 特殊構造でないベタ基礎で、床下はもぐることのできる標準的な高さと構造が確保され、浴室はユニット、トイレや洗面も床式、こういう家ではもはや床下はシロアリ対策の重点ではありません。
 こういう家が増えてきた昨今では、シロアリ被害は一つの傾向を示しています。それは、玄関の被害です。ポーチの裏側に達したシロアリはコンクリートの形に  沿って活動するとどうしても玄関に侵入できてしまいます。しかも、空気に触れず、人間にも見つからずに侵入できるのです。
 床下から柱までしっかり薬剤処理した家でも玄関だけは無防備で、コンクリート土間や断熱材などによって家屋の内外がつながってしまい、現実に被害が出てい  ます。もちろんこうした部分の被害材はすべて乾燥した材であって、乾燥によってシロアリ被害が防止できるわけではありません。つまり、ここでは玄関周囲の  構造的な工夫(適切な薬剤の部分処理や物理バリアの併用も含む)こそがシロアリ対策上きわめて重要な要素となっているのです。
 いいかえれば、玄関での対策が充分であれば、もぐれる床下は一定間隔で点検し、シロアリ技術者の判断を受ければすむのであり、とくに何かの措置を前もって行う必要はありません。

新築時のシロアリ対策にベイト処理?

 生態に合わない「防蟻防腐処理」は居住者にとっては過剰な出費ですが、シロアリがいるかどうかもわからないのに最初からアメリカ式ベイトシステムを採用するのも過剰処理、いえ無駄な処理といえます。
 また、生物多様性の維持がますます重要になっている時代に、家の外に住み、家に被害を与えないヤマトシロアリまで駆逐してしまうのは時代錯誤でもあります。
 たとえイエシロアリ地域でも、技術者がかかわってその土地のシロアリの生息を把握さえできれば、とりあえずの薬剤処理なしでも新築時の対応はできるし、駆除の場合も大量散布なしでできるのです。
 アメリカ式ベイトシステムは薬剤散布がないというだけが大量散布との区別点であり、アバウトな処理という点では大量散布と同じ地平に立つものです。
 アバウトでマニュアル的な発想からの脱皮こそが、本当の意味で大量散布からの決別といえるのです。
 それでも心配なら、庭先に何か木材でも埋めておき、それにシロアリがついてから専門の技術者に相談して最善の対策を施せば無駄な出費も抑えられるというものです。

メーカーチラシの「当社独自のシロアリ対策」の多くは根拠薄弱

 ハウスメーカーなどのチラシやパンフレットに書かれているシロアリ対策はそのまま信用できないものがほとんどです。
 「シロアリ被害にあわないと実証された材料だから」「空気が通るから」「乾燥状態が保たれるから」「有名な研究機関の試験データがあるから」というのは自然界のシロアリでは通用しません。
 これらはすべて人間の側の論理であって、シロアリの生態に基づくものではありません。
 自然界のシロアリはきわめて多様であり、実験によって再現されにくいものです。とくにヤマトシロアリは多様でいまだに不明な部分の多いシロアリです。
 試験では効果のあったはずの「炭の液」が実際には効果がなかったり、基礎断熱の実大試験と現場の被害がまったく異なったりしたのがそれを実証しています。にもかかわらず、一部ではいまだにわずかな数のシロアリによる通り一遍の試験も行われているようです。
 また、シロアリにとって一般には毒性物質であっても、条件によってはその物質に適応して生息できるのがシロアリです。ヒバ材の被害、クスノキへの営巣、ナフタレンの蓄積、コールタールを使った蟻道などがその実例です。

基礎パッキンの使用とシロアリ対策とは別物


 某ハウスメーカーではヒノキ土台と基礎パッキンを組み合わせることで「シロアリ対策は万全」とうたっていますが、シロアリとシロアリ対策への無知を証明しているようなものです。
 また、素人考えで「万全なシロアリ対策」を行うために過剰な対応にもなりがちで、施主は無駄な資金を使うことにもなるのです。
 たとえば、ベタ基礎なら基礎パッキンを組み合わせなくてもシロアリ対策上の効果に差はありません。どちらの場合も、イエシロアリなら侵入するときは侵入 する(すでにそうなっている)し、ヤマトシロアリなら床下への侵入に限れば、基礎パッキンよりもベタ基礎のほうに大きな意味があります。
 メーカーが「シロアリ対策の10年保証」を出すというなら出してもらえばいいのですが、それはシロアリ対策ではないので、シロアリ対策は別途に考える必要があります。
 そもそも、シロアリ対策は家屋全体、生活全体を対象とするものであって、あらゆる可能性が考慮されなくてはなりません。基礎パッキンを通らないで侵入す る場合はどうでしょう、配管経由の侵入はどうでしょう。羽アリによる侵入はどうでしょう。しかし、ハウスメーカーや建材メーカーにはそれを判断する能力は ありません。
 そして現実にそういうことが起きた場合は、「想定外」「ほんの一部の例外」といって責任を転嫁するのがビルダー側の常でした。
 大切なことは、現場ごとに経験あるシロアリ技術者がかかわって判断することです。