『純情きらり』は、おれが子どもだった頃を描いた作品。昔の子どもは大人から「人の恩は必ず返せ」とか「お年寄りを大切にしろ」とか、大事なことを色々教わったもんだった。おじいちゃん、おばあちゃんにケガをさせちゃいけないって、小学生ながら防空壕も掘ったんだよ。今、そういう子いるかな?戦争はいかんけど、そういう気持は残していかなきゃいけないって思うね。
今の時代は、あんまりにも自由になりすぎて、子どもたちに悪いことは悪いって叱ることのできる人間がいなくなってしまった。だから、おれは徳治郎を演じながら「今の世の中にもこういうじいさんが居てもいいんじゃないかな」と思っていたんだ。よその子を自分の子と同じように叱っていく、自由にしていいこととダメなことの分別を教えていけるじいさんがね。そういうことを感じていただけたのか、ドラマをご覧になった方から、「昔はこういうおじいちゃんがいましたよね」って手紙をいただいたこともありました。そういうのを読むと、この役をやって本当に良かったなとうれしかったですね。
以前は、徳治郎の最期は味噌蔵で迎えたいなと思っていたんですよ。職人としてそれがふさわしいんじゃないかと…。でも、実際は桜子の幸せを見届けた後、書斎から『埴生の宿』が流れてきて、ふらっと入るとマサがいる。それで、娘に手を差し伸べるようにして亡くなるんですよね。気がかりだった孫娘全員の幸せを見届けて、安心してマサの元へ逝けたんでしょう。肩の荷を下ろして、徳治郎は幸せな最期を迎えたんじゃないかな。
実は、撮影中におふくろを亡くしました。悪役を演じ続けてきたこともあって、おふくろはおれが役者をやっていることは人には言わなかった。でも、最後は『純情きらり』を見ながら、いい顔をして亡くなったそうです。50年近く役者をやっていて、初めて親孝行できたなと思っています。
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