源一郎は、明治生まれの人にしては、偏屈さや武士道を引きずっている頑さがなく、とても自由に生きていると思います。もともと学者肌で、ジャズを聞いていたり、鉱物を集めるのが好きだったり、趣味も当時としては珍しかった。きっと、昔でいうお父さんや夫というイメージからはかけ離れているんじゃないかな。
そういう風に時代から外れた人物ではあるけれど、台本を読んでみると、源一郎は魅力的で本当にやさしいお父さんとして描かれていました。それに、描かれているほかのキャラクターがそれぞれ個性豊かで、脚本自体がとてもあたたかくてすてきでした。ですから、脚本家さん、演出家さんたちが求めている源一郎像がすぐに伝わってきて、僕自身、素直にそのまま役に入っていけばいいのかなと思いましたね。
普段から僕は、自分と重なりある部分がないと演技ができないと思っているのですが、今回は重なる部分が多くありました。現実には、自分には娘はいないので、娘に対する愛情はもしかすると理解できていないかもしれませんが、子供に対する愛情や思いは自分の中にもありますし、大いに理解できる部分でもあります。もう亡くなっていますが、妻のマサに対する愛情も、家族への愛情という意味で同じです。だから、源一郎役にはすんなり入っていけました。