ではなく、と書いてという。

近ごろの家屋に異議あり


生き物に勝手気ままをさせるのも間違いだが、追い出すのも間違っている。


無生物の家は日本人をどうしようというのか

日本人の家屋は有史以来つい最近まで、他の民族の家屋同様生き物でできた家屋でした。
きわめて古い形式の土間床式の掘建て家屋では、床である土にも屋根である萱にも微生物から昆虫まで様々な生き物が住んでいました。
近 代に入って高床式の民家へと大きく変化してもその状況には変わりなく、瓦の下の土、壁土、床下の土とすべてが生き物の生息材料でした。そして、こうした生 き物は、あるものは互いの生息領分をめぐって生物バランスを保ち、あるものは人間の老廃物や廃棄物を分解したりして様々に入り組んだ有機的な生息環境を人 間に提供してきたのです。
た とえば、家屋内でカビが増えればカビが好きなチャタテムシのようなものが飛来し、ゴキブリが増えればアシダカグモのような徘徊性の大型のクモが住みつき、 ヒトの周囲ではダニがヒトのフケなどの老廃物を分解するなどして、家の内外で生き物によるバランスが維持されていたのです。
こうしたことはほんのつい最近まで途絶えることなく続いたのです。人間の体もそうした状況に合うようにできてもいたのです。
と ころが、戦後の清潔志向は際限なく肥大化し、寄生虫を撲滅することで、まず体内の生き物との共生関係を破棄しました。ついで体に異物の付着しない生活が 「清潔」だとされ、生き物からの刺激も極端に減少しました。汗をきらい、寒さを嫌い、土を嫌う生活が一般化しました。ハウスメーカーなどは人々のわがまま を最大限引き出して利用し「夏暑くなく、冬寒くない家」を売りつけました。
そ して、日本人はついに住環境全体から猛烈な速度で生き物を排除し始めたのです。すなわち、生き物の住めない人工物の家で生活をはじめたのです。生き物の側 からは一切考慮されない機能だけの積み木の家を理屈だけで競って建てる。たとえ「自然素材の家」であっても、床下の土が封殺され、天井裏もオール人工物。 セールスポイント的に土壁や漆喰を使ったり「木の良さ」を強調したりするのです。はては古民家の再生まで床下はコンクリートとは。
鳴り物入りで宣伝される「環境共生住宅」には、もはや丸裸の人間以外にいかなる生き物も生息できないようになっているのです。
これで日本人の体がおかしくならないほうが不思議でないではありませんか。体の異常をなんでも化学物質のせいにしている間に、日本人は化学物質以外のあらゆる物質にも異常反応してしまうような体になっているのではありませんか。
すなわち、二度と自然の中で生きられない自己家畜化の道を歩むか、自然と主体的に向き合う道を歩むかの選択です。

臭いや汚れを排除するな

生 き物が生活すれば必ず臭いが生まれ、「汚れ」が発生します。食べ物の臭い、炊事の臭い、汚物の臭い、木の香り、腐木の臭い、イヌの臭い、赤ん坊の臭い、化 学物質の臭いなど多種多様です。だから人間はこれらに対応する体質を獲得し、臭いの嗅ぎ分けを生活の力にもできるし、文化の種にもできるのです。
しかし、最近では無臭が至上のものとされ、消臭が抗菌といっしょにされて流布されています。近頃ではお父さんの臭いまで汚物扱いです。その結果焼き魚の香りが悪臭になったり、牧場の香りが悪臭になったりするのです。
いや、たまにしか宿泊しないホテルと毎日住む住まいとを取り違えた建築思想によって、民家として機能しない喫茶店のような家がもてはやされています。そのうち、「タバコは外で」と同じ感覚で「オナラは外で」というのが定着しそうです。
喫茶店のような家とは異なり、木の家の良さは歴史を経るにしたがって味わいが出るものなのに、どうして白木の美しさしか強調されないのでしょう。

シロアリを呼び寄せてしまうのはおかしい

一部のハウスメーカーあたりが「シロアリには万全」といっている家の中で、実際にはシロアリを呼び寄せてしまうものがあります。
一つは、床下温度が相対的に高いもの。 もちろん構造にもよりますが、地下のシロアリは湿った家と乾いた家を区別できません。それは接触して始めてわかるものです。しかし、温度の違いは地下でも 分かるのです。当然冬場に暖かな場所に移動します。これまでの家屋でも冬場に暖かな南向き玄関の被害が多いのはこのためなのです。
二つには、外断熱のベタ基礎。 ヤマトシロアリなど多くの土壌性シロアリは目がないので何かに沿いながら進みます。ベタ基礎では家の内部のシロアリも外部のシロアリも、特別な条件がなけ れば、コンクリートの裏側に沿って進むと、やがて外断熱の断熱材に行き着いてしまいます。つまり、たった一つの垂直構造のところに断熱材があるのです。
三つには、布基礎・防湿コンクリートで布基礎内側に断熱材のあるもの。防湿コンクリートの家では築十年程度で蟻道ができることがよくあります。これは防湿コンクリートの形が布基礎という垂直構造にシロアリをよく導くからです。そしてそこに断熱材があればシロアリの蟻道を人工的に提供するようなものとなるのです。
四つには、土間床式の家。とくに布基礎内部にコンクリートを流し込んだもの。これも前項同様にシロアリに垂直構造を認知されやすいのと、多くの場合温水パイプによる床暖房があるので、二重に誘引しやすいのです。すでにこうした建物の被害が出ています。
断熱材がなぜシロアリの通路となるのでしょうか。それはシロアリが「好んで食べる」からではなく、硬さが適当だということによるのです。だから材質は関係ないのです。
さ らに、こうした家屋はいったんシロアリの被害が出た場合、家屋の相当部分を撤去することなしに、シロアリとの間でまともなやりとりができないという特徴が あります。断熱材を通過するシロアリの位置は外部からは認識できないし、多くの場合床下にももぐれないのです。シロアリのコロニーをきちっと把握して、こ れを適切に駆除でき、さらにすべての床下が点検可能であるなら、他の部分に薬剤処理する必要もないし、また、必要以上にシロアリを殺すこともなくなるので す。

メンテナンスできない家は明らかに欠陥だ

最近の家は再び床下が低くなったり、床下まで密閉してしまうものが出始めました。また、基礎パッキンなるものによって風が通るからとか、耐震上の目的で布基礎に通風孔を設置しない傾向も強まってきました。
基礎パッキンやネコ式土台がシロアリにまったく影響を与えないことは、すでに現場で証明されています。
し かし、メンテナンスを拒否する家は明らかに欠陥です。これまでもネズミ対策で対応できなかったり、水漏れで修理できなかったりしています。もしも、たとえ ば床下にスズメバチが巣を作ったりしたらどうするのでしょうか。なにかのひょうしにヘビなどが入り込んだらどうするのでしょうか。床板の劣化はどこで確認 するのでしょうか。フローリングの断熱材のはがれはどうするのでしょうか。
家のメンテナンスは住む人の義務でもあるし権利でもあります。これを奪う家というのはどんな家なのでしょうか。
この思想の延長で耐震をいうなら最後にはトーチカのような家になってしまいます。
震度6とか7への対応というような耐震への異常な執着は、家屋の倒壊に際しての社会的支援の貧弱さへの不安の裏返しなのでしょうか。

床下空間・天井裏空間・束石を勝手に省くな!

床 下空間は家屋の維持では決定的な構造であり、家屋の診断の最重要ポイントのひとつです。水漏れや基礎のゆがみ、木材の劣化、断熱材の剥離など目に見えない 様々な問題を発見する場所です。それを人間のわがままで省いたりもぐれないような構造にすると、なにかあった場合には家の機能全体が損なわれることもある のです。
天 井裏の空間もきわめて重要です。天井裏の丸太にはよく木材穿孔性の甲虫類が穿孔して木粉を出しますが、多くの場合家屋にそれほど大きな影響を与えません。 そのとき天井板がないと、いきなりクレームとなります。丸太が露出した民家風の構造は炊事などで燻されることを前提としていたのであって、とくに最近の木 材のように伐採から製材までの期間が短いものでは、とくにこうした問題が多くなるのです。天井板というのはただの飾りではないのです。そのうえ、ネズミな どが発生した場合、天井裏がないと、対処に困ることもしばしばです。
一 方、床下がコンクリートだからといって束石を省く工務店がありますが、とんでもないことです。水に浸かると、床下がコンクリートだからこそ水が浅く広く残 り、水害でなくとも、わずかな水漏れによって束が水を吸ってしまうのです。床下の水漏れや水の流れ込みは、結構目に付くものです。

寒さ暑さは必要ないのか

おかしな現象です。真冬にTシャツ一枚で暮らす青年が目立ちます。夏場に部屋を閉め切ってクーラーなしでは生活できないのと表裏一体です。
一年中快適な温度を標榜する「健康住宅」は、こうした異常な状態に拍車をかけることになりはしないでしょうか。
「ヒー トショック(急激な温度変化による体の変調)」が怖いからと家全体の温度の均一が強調されますが、人間は裸で過ごす習慣はありません。夜トイレに行くとき は丹前の一枚も着込んでいくのが普通です。そういう動作ができない人のためにあらかじめ考えた設計をするなら、むしろ寝室や居住区の位置の問題こそ大切で す。「ヒートショック」で脅して一般的な人々の室内の生活習慣まで変えてしまうのは必ずしも健康的とはいえません。
また、人間は家の中でだけ生活しません。あらゆる場所で働きます。寒さや暑さは自然そのものであり、人間はこれに対応した生活習慣を本来持っています。
老人にとってのみ必要な温度環境を、子どもも含む家族全員に強制することがいいことかどうか、少し考えればわかりそうなものです。
寒さや暑さという自然を排除しておいて、家屋の部材だけ自然素材にしても、何一つ自然の住まいには近づかないのです。

地球の循環にさからった「省エネ」はインチキだ

いくら各家庭の生活で石油を燃やさずエネルギーを節約しても、そのために別の場所で大量にエネルギー消費したら意味がありません。
太 陽光発電パネルの場合、エネルギー転換効率は17%以下で、製造コストも含めれば石油などの10倍ものコストがかかり、そのうえ設置場所によっては鳥の糞 などによってメンテナンスにもかなりのコストがかかります。しかもその廃棄のコストや長期にわたって故障した場合の電気料金も考慮しなくてはなりません。 だから楽観的に永続的な売電が保証されるなどと思うのは大きな危険を伴います。
また、家屋の廃棄時に環境に負荷の大きなものも困ります。発泡ウレタンやプラスティックが組み込まれた建材はどこで処分するのでしょうか。
目先の「省エネ」の名のもとにじつは猛烈なエネルギー消費社会になっているのではないでしょうか。
地球にはもともと物質の循環が存在し、生物の活動によってできた廃棄物は他の生物によって消費され、最終的な廃棄物は熱として地球の外に廃棄されるのです。
つまり、地球のサイクルに基づいて正しく廃棄することは間違ったリサイクルよりも地球には優しいのです。
本当の省エネ住宅とは地元の木を使い、常にメンテナンス可能な家が地元の職人によって建てられ、最終的には地元に廃棄できる家です。そうすれば廃材は地元の土壌生物の栄養源となり、再び地元の木を育てるのです。
要 するに、日本においては木材を節約して木を使わないように心がけるのではなく、むしろ山の木をどんどん使用し、そうすることで山の活性化が図られるという ものです。外国の木は、本来その国の生物によって消費されるべき栄養なのだから、その木を日本に持ち込むのは、その国の土壌をますます貧困にし、日本をま すます富栄養状態に陥らせることになり、ひいては地球に大きな負担をかけることになるのです。
また、米でも木でも野菜でも、日本の国土に生ずるものを蔑ろにし、外国のものに頼るのは、日本の国土・先祖の遺産を侮辱することにならないでしょうか。

強制する家、許容する家

空気循環式の家のように、家の機能がモーターなどの機械類やいくつかの設備に頼っている場合、もしもこれらが壊れたらどうなるのでしょうか。これを修理する経済的余裕がない場合でも修理・維持が強制されるのではないでしょうか。
ホテルや旅館なら「泊まる」ということが目的であってもかまいませんが、家に住むということは人生の目的ではありません。外での活動の癒しとしての怠惰や放漫も包み込むのが家です。
どこかが壊れても、とりあえず応急処置をして、しばらく放っておいても許されるのが家です。白い壁が汚れたりカビが生えても、掃除したい時まで待ってくれるのが家です。家にあわせて住むことが強制されるのでなく、適当に妥協できるのが家です。
「あれば便利だが、なくても我慢できる」機能を捨てて、人間としての住まい方の選択肢が縛られないシンプルな構造こそ家としてふさわしくありませんか。
ホルムアルデヒトがないと声高に数値で証明する家より、ホルムアルデヒトや化学物質を無視できるような住まい方に導くような家のほうがすばらしくはありませんか。

これから家を建てようとする皆さんへ

「最新の技術+手の届く価格+快適さ」には要注意です。家というのは人間の都合にあわせたシステムや機能の寄せ集めではありません。その土地の生き物の環境に住まわせていただくための諸配慮なのです。
データや数値や設計上の構造がどんなに完璧でも、まだそれはすべて仮想世界です。施工の質も含めて、実際に家が建てられるときわめて多くの要素のバランスが形成され、予想もしない自然からの作用を受けるものです。
最新の技術は常にそのときだけのものであって、数年先には古い技術になってしまいます。そして居住者は常にモルモットです。「当時は問題があったが、今は大丈夫」、こんな言葉はうんざりです。なけなしのお金で建てた家にこんなことを言ってもらっては困ります。
データやシステムやコマーシャルにおどらされて、デザイン本位、機能本位の家を買ってしまうのではなく、あと一歩がんばって余裕のある資金を作り、昔から地元に根付いている技術者・工務店とともに、地元の木を使って自ら家を建てましょう
テレビの住宅紹介番組のように、安く手に入れたぎりぎりの土地に、アクロバットのような設計で家を建てる。これこそあとで大きなしっぺ返しを受けることになるのです。


わがままな住まい方の象徴
基礎断熱
シロアリのわがままも助長した

シロアリを呼び込む形状・その1
ベタ基礎+外断熱

眼のないシロアリは
コンクリートなどに伝って
トンネルや蟻道を延ばします。
ベタ基礎では多くの場合
家屋内部の垂直構造を
シロアリは認識できません。
そして、最後には
家屋の周縁部に行き着くのです。
また、家の外のシロアリも
家の外周の垂直部に
突き当たります。
そして、そこに食進しやすい
断熱材があるのです。
そのうえ、断熱材内部の蟻道は
人間には見つからないのです。

断熱材がなくても
仕上げモルタルと基礎との
わずかな隙間から
シロアリはしばしば侵入する。
外断熱とは、
この侵入路の提供を意味する。


シロアリを呼び込む形状・その2
布基礎+防湿コンクリート
+内断熱

防湿コンクリートが
シロアリに都合のよいもの
というのは実際の床下で
よく見られます。
このタイプは
シロアリにとって垂直構造が
認識しやすいだけでなく、
シロアリが蟻道をねじ込む
まさにその場所に
断熱材があるのです。

上の写真は空気循環型内断熱の
断熱材にできたシロアリの群飛孔
床下が低いことが
駆除を困難にしている


シロアリを呼び込む形状・その3
布基礎+土間床

布基礎内部にコンクリートを流し
直接フローリングを貼る方式。
これもシロアリは垂直構造に
導かれてしまう形です。


芯のある材と芯のない材
シロアリが強いのではない
材が弱いのだ

こんなことで、
いいのかなあ


ベタ基礎だからといって
束石を省いたので
最後の一滴まで
水漏れを吸い上げる
「システム」ができた。



床下の
水面に映るは
腐りに強いプラ束なりけり

雨水がたまったまま
施主に新築家屋を引き渡すときは
基礎の下にも
基礎パッキンが必要だ



断熱材を下に敷くのが
近頃の流行りか



ブロックの足元が
砂に変化している

自然素材ブームは
床下には及ばぬらしい。



基礎のすべてをビニールで覆うと
シロアリに密閉度を与えてしまう
(ビニールに沿って延びた蟻道)




コンクリート成分の滲出による
大規模な白華現象(上)と
土壌の押し上げ(下)



床下のホコリのたまり方
コンクリート土間の床下の場合

新築でも
ガーデニングでも

生き物との
整合性を設計に!


機能本位、デザイン本位では、後で必ず困ります。