国債に抱かれた社会の税制の提言

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 1、問題の所在

日本の税制改革の問題で見逃せないのは、税と税以外の財政要因とりわけ国債・社会保障・税制が規模、内容に関して、マイナスの所得再分配の呈をますます強化しており、拡大傾向の所得格差を増大させていることである。特に財政赤字の結果として、国債が90年代に大量に発行されていることが、税をデザインする場合も、考慮されて良いのではないか。この場合の国債消化時の原資は、資産所得・相続税を中心とすることが公平である。高齢化社会の消費税依存度の上昇は避けられない。納税者・国民の観点からは、歳出の見直しとともに、今こそ国債に抱かれた格差拡大時の社会の税体系として、優遇されている資産性の所得・資産保有に対する課税を強化して、公平・中立・簡素な所得・資産税制を目指すことである。

2、未分配利潤追加後の所得格差

所得分配を規定するのは、資本主義に特有な「相対的過剰人口」の存在である。好況時には相対的過剰人口が吸い上げられるので、統計上平等化の相を呈する。不況時には掃き出されるので、所得分配が不平等化する。吸収と掃き出しの局面が繰り返されつつ、相対的過剰人口は増えるのであるから、所得分配も傾向的に不平等化せざるを得ない。しかしこの過程を繰り返すなかで、階級間の格差も傾向的に拡大される。戦後五十年の所得分配の動向をジニ係数の推移で見ると、高度成長期の大幅な平等化と七〇年代後半以後の不平等化を統計的に確かめることができる。九〇年代に限っては、家計調査の五分位で格差を測ると、第一分位に対する第五分位の収入の倍率が僅かに増加している。

所得分配研究では、法人未分配利潤等の所得階層別帰属を考慮する必要がある。国税庁の調べによると、平成一〇年については、最高三・七%の所得者が配当所得申告額計の三七・八%を占めている。最高一〇・三%では、五六・三%となる(平成一〇年)。但し株式の法人所有、相互持合、又源泉分離課税等により、個人の配当所得申告に流れる所得金額は僅かである。この他、巨額な法人間配当の額を考慮すると、最高の一〇%の層の株式保有構成比は八割を下ることはないと思われる。給与と申告分を合せた個人所得は合計ニ四六兆九一六ニ億円(平成一〇年、筆者推計)である。個人所得総額に対する法人未分配利潤の割合は、五・一六%である。この内八割が上位一〇%の所得階層に帰着すると思われる。配当収入基準により平成一〇年の法人未分配利潤一ニ兆七四三六億円を「家計調査」の十分位階級に配賦したところ、最高十%層の世帯の収入総額は約ニ三%増加した。この結果、最高一〇%層の分け前は約三%ポイント上昇して、ニ一%となった。(平成一〇年)。因みに平成三年では、法人未分配利潤は最高十%層の分け前を約五%上昇させていた。(1)

他方、利益を資本化したものである資産は企業収益拡大時には連動して増大する。日本ではバブルの過程で莫大なキャピタル・ゲインが発生して、資産格差が著しく拡大した。未分配利潤を即個人課税とすることはできない。むしろ、未分配利潤を現行の法人税・所得税・相続税の枠組みの中での総負担が問われる。

 3、累増する国債残高

国債発行は、後世の資産形成に結びつくものであればよいという議論もある。しかし利払分にかぎっては、労働性所得から高所得・高貯蓄の利子所得への移転で、多くは世代間移転を伴う。国債は利子支払が高所得にいくので、大衆の所得税で高所得層の利子を支払う部分については、所得格差は拡大される。平成123月末現在の内国債現在高は三四三兆円に達している。平成ニ年には、一六六兆円だったのであるから、最近十年間でニ倍以上に増えたことになる。平成九年度以後は、毎年三十兆円前後のペースで増えつづけている。国債の利払額はこの一〇年間決まって一〇兆円強である。他方この間、元本の返済は利払い額よりも少なかったので、借金は累増した。国債の所有者別内訳でみると、個人所有の割合は僅かニ〇・九%(平成一一年度)であって、残りの約八割は、資金運用部(ニ三・七%)、銀行(ニ一・八%)、日本銀行(一六・三%)、証券会社、簡保、国債整理基金、等で分け合っている。市中で流通せず、預金者の預金から強制的に買わされていることが分る(2)。発行後一年経過すると、銀行保有の国債は日本銀行に買い取ってもらえる。民間資金需要と競合するに至れば、通貨増発・インフレによる大衆収奪となる。だから国債費を資産性所得、相続税で負担するのは理に適っている。

 4、貧しい社会保障制度

社会保障制度の再分配効果があまり強くないまま、推移していることである。

生活保護の基準以下の層が全世帯の一五・五%ある(杉村宏国民生活実態調査一九九四年より推計、朝日新聞平成一ニ年九月一七日)。僅かな生活保護費の予算もけちらなければならないほど、公共投資他の支出が聖域化されていることである。

公的年金が厚生年金の報酬比例部分で社会保険方式を標榜しているので、公的年金の現金給付がいつの時代でも所得上位層ほど多くなる。このようなことから、日本の低所得層の所得に占める再分配所得の割合がヨーロッパ諸国に比較して低いものであることが知られている。石崎唯雄の研究により、移転所得の五分位階層別配分で見ると、欧米諸国は、最低第一分位層が四〇%前後、第五分位層への配分が一〇%前後である。これが日本では、第一分位層三〇・九%、第五分位層がニ五・七%で比例的である(3)。最近の別の研究によれば、報酬比例部分の公的年金給付の逆進性を反映して、移転所得の第五分位層への配分がニ五%前後に達する(4)。実際平成八年の厚生省の所得再分配調査で見ると、当初所得階級一〇〇〇万円以上の最高所得世帯では、社会保険料拠出九ニ万円、受給額一〇四・七万円で、差引一ニ・七万円の受益となっている(5) 少なくとも生活保護基準以下世帯であれば、生活は国費で救済されてしかるべきである。この分については、公共事業を減らして行なう以外にない。公的年金の実態は、「社会保険」ではなく、「租税による移転」である。社会保障拠出を税として捉え、又老齢者間の階級分化の実態を見れば、資産性所得・相続税を中心として社会保障の財源を負担することは階級間再分配の促進並びに若年層の税負担を軽減するのに役立つといえる。

5、低下する税の累進度と改革の方向

所得税が累進を維持しているという範囲に限っては、一定の再分配効果はある。しかしシャウプ税制改革後、最高税率を中心に上位者の所得税の限界税率が著しく低下している。法人税の基本税率も昭和五〇年代に高止まったが、昭和六ニ年以後一貫して低下している。譲渡所得が分離課税とされ、税率もこれまでで最低となっている。他方消費税が創設、税率がアップしている。戦後五〇年間で、税の再分配効果は著しく低下している。とくに九〇年代には、再分配効果の低下が顕著だと予想される。

税目で見ると、所得課税よりも消費課税の方が逆進負担である。そこで所得税と法人税の国税収入に占める割合を見ると、昭和ニ五年度五三・三%、昭和四五年度六四・ニ%、平成ニ年度七〇・七%、平成一一年度五ニ・ニ%と推移して、所得課税が景気の変動とバブルに左右されつつ、五〇年間で元に戻っている。消費課税全体では、昭和25年度45.0%、昭和45年度33.9%、平成2年度26.3%、平成11年度44.0%と推移する。平成時代の消費課税の上昇は殆ど全てを消費税の新設と課税強化に負っている。消費税については、景気の変動に左右されない税であるので、税構造はかなり安定的になった。しかし税収自体がかなり減少したなかでの消費税の地位上昇なので、低所得者を中心として、負担強化となっているのは否めない。他方資産保有課税たる相続税の国税収入に占める割合は、平成ニ年度三・一%、平成一一年度三・八% と微々たるものである。相続税の納税額の課税価格に占める割合は、ニ〇億円以上の階層でもニ八・七%、平均では、一ニ・八%にすぎない。

 富裕税を課すべきところであるが、評価面での不公平があり、実現は困難である。セカンドベストとして、土地・株式等のキャピタル・ゲインなどの分離課税を一切止め、利子を含めて原則総合課税とするなど、所得税・法人税の枠内で財産収益を負担することである。又給与所得控除など根拠不明の控除の引き下げも検討すべきだ。同時に取得遺産に累進税を課する等、資産再分配税として、相続税の課税方式・特例を根本的に見直すことである。

 7、おわりに

近年の国債、社会保障制度、税制が所得格差を狭めるものとして機能していない。国債費、社会保障の財源を高額所得者の所得・資産に応分に求めるのは公平負担原則上自然の流れではないか。納税者・国民の観点からは、公平で歪みのない所得・資産税制により、活力ある高齢化社会を目指すことである。

(1)松井吉三「収入10分位階級別法人未分配利潤の推計」下記ホームページ参照。

http://www.sinfonia.or.jp/~matsui/g.htm

「家計調査」の収入データ下位層のサンプル数が乏しく、世帯収入が平均的に表示される。

(2)参議院予算委員会調査室編『平成12年度財政関係資料集』、大蔵省印刷局、2000年、97ベージ参照。

(3)石崎唯雄『日本の所得と富の分配』、東洋経済新報社、1983年、139ページ参照。

(4)西崎文平・山田泰・安藤栄祐『日本の所得格差』、大蔵省印刷局、1998年、30ページ参照。

(5)下記URL参照。

http://www.mhw.go.jp/search/docj/toukei/h8syotoku_4/kekka-d.html