不動産貸付にかかわる事業性判断−社会通念による事業性判断の廃止の提言−


 そもそも不動産貸付の事業性が問題となるのは、所得税、相続税で事業となるか否かで税金の金額が異なってくるからである。事業扱いにすれば、青色申告控除の割り増し、青色専従者控除ができるし(以上記帳が要件)、建物の除却損、解体費用が無制限に必要経費になってくる。事業扱いから外されれば、青色申告控除は10万円、青色専従者控除ができない。除却損等の資産損失も所得の範囲で控除されることとなる。相続税では、措置法69条の3に定める事業の用に供されていた宅地に該当するならば、そうでない土地よりも大きい減額割合を受けることができる。

 所得税法では、「事業」の定義を設けていないが、所得税法の事業の例示としての「事業」、すなわち「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業」からは、不動産所得は外されている。これは不動産貸付が他の例示の事業と異なり、その多くが「不労所得」であり、たいして手間も要さないものとみなされているからにほかならない。貸付件数によっては、サラリーマンの副業でもできるからである。

 しかし、製造業を営む個人でも開店休業状態で閑散な「事業」を営んでいる場合も多く、通常の社会的判断でよく引き合いにだされる「営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無、精神的肉体的労力の程度」などは実は「事業性」の判断基準にはならないものである。不動産貸付も他の事業と同様、生計に必須の「事業」である。

 そもそも税金の扱いで不動産所得を別格としたところからくる誤りというほかない。青色申告を優遇する点も、税負担の公平から逸脱している。青色申告導入時、青色申告は、自己申告の啓蒙という点で効果があった、しかし今日では、申告制度が定着しており、それよりも税負担の公平性を重視すべきである。

 とはいえ、現実には「事業的規模」で区分している。国税庁の通達では、事業として行われているかどうかは、社会通念上の事業的規模に該当するかどうかで判断すべきであるが、独立家屋なら概ね5棟、貸間、アパートでは概ね10室以上の貸付が、とくに反証のないかぎり、事業としておこなわれているものとされている。(所得税基本通達26−9)。

これ以上のことが書かれていないので、独立家屋とアパートの両方を持っている場合はたちまち困難に直面する。5棟10室から類推すると、2室が1棟である。1戸建ての事務所2棟とアパート8室を所有する場合、2+4=6ということになる。そこで、5棟を超過することとなる。これでいいのかということであるが、国税庁の見解では、これで良いとされているようである。混有が不利になってはいけないので、もっともである。おまけに土地の貸付についても件数5件を貸室1室としてカウントしてもよいようであるが、これについては通達にも書いてないところなので、理解に苦しむ。他方、5棟10室以下だとすべて不可かというと、かならずしもそうではなく、これも実態で判断できるのである。

事業的規模を申告者の主観で判断することになると、慎重な判断者は常に損することになるので、事業的規模で事業性を判断するのは、税負担の公平性を害するものである。社会通念による事業性の判断(したがって同時に5棟10室基準)の廃止を提言する。


注1:すべて筆者の意見であるので、運用には注意して下さい。

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