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炭とシロアリ

シロアリが炭を嫌うなどといった根拠のない幻想や炭の塗料によってシロアリ被害を防ぐことができるかのような宣伝がまことしやかに流布され、一部ではそれを信じた人々(売る側においても買う側においても)が災難にあっています。
こういうものにだまされないためにも、炭とシロアリの関係について整理しようと思います。

"炭の塗料"に防蟻効果はあるか

炭の塗料のなかには「防蟻効果」をうたったものがあります。
そして、これがその結果です。
右上の写真はシロアリ個体が連続的に補充される環境下(すなわち自然のシロアリに近い環境)で試験されたものです。
試験された木片は炭の液の「防蟻効果」を主張する販売店が自らその液を塗布したものですが、見事にヤマトシロアリの被害を受けています。
すぐ隣には、炭塗料を塗っていないヒノキ材なども置いてありますが、この場合ではむしろ被害は炭塗料を塗った材の方が甚大です。
また、右下の写真は合板に炭塗料を塗って同じ水槽内に設置されたものですが、やはり被害を受けています。
木目に沿って蟻土を吹き出している
合板の縁に蟻土が吹き出ている
上2枚の写真は(株)生物研究所による試験を当社が撮影したものです。

宣伝された「防蟻効果」の主張の根拠は正しかったか?

この炭塗料のパンフレットによると、「防蟻効果」は以下の2つの「防蟻試験」を根拠にしています。

野外耐蟻性試験

これはイエシロアリの生息する野外の丸太杭を取り囲むように炭の液を塗った木杭と塗らない木杭を地面に打ち込み塗ったほうに被害がなかったとするものです。
しかし、その試験杭にシロアリがどの程度アタックしたのかが示されていません。少し舐めただけなのか、あるいはかじって死亡したのか、あるいは最初からシロアリが認識しなかったのか、こうしたことにはふれられていないのです。
とくに野外のシロアリはその活性やコロニーの状態が多様です。たとえば、誘殺や誘集のためにシロアリの好みそうなものを埋めてもまったく無視されたり、あるいは一定の毒性をもつ木材に生息していたり、さらにはある種の木材に適応して選択的に加害したりもします。
野外のような場所で「他の木材が食われたのにこちらの木材が食われなかったから防蟻効果がある」というのはあまりに短絡的です。

室内試験

この試験は摂食、食毒、総合の3つの試験から構成されています。そして、この試験では最大でもわずか150頭、最少ではたった10頭というごく少数の裸のシロアリ個体を使って試験されているのです。
しかし、自然界にはそういうシロアリは存在しませんので、それらの少数のシロアリによって加害されなかったとか死亡したというのはまったく「防蟻効果」の根拠にはなりません。
生き物の世界には正反両面の複雑な要素があり、少数のものの数値から類推するのは一つの目安ではあっても、それがただちに実際の結論につながるわけではありません。



こうした間違った根拠付けは炭だけにとどまらず、自然志向の風潮に投機的に便乗する「天然薬剤」や資材の「防蟻効果」にもよく見られます。
研究者の行う試験にはそれぞれ意味があるかもしれません。しかし、試験結果を安易に「防蟻効果」の根拠として使用することを許可すべきではありません。とくにその研究機関が有名であればなおさらです。

現場における炭とシロアリの関係

シロアリは炭をまったく嫌いません。場合によっては炭を積極的にかじることもあります。にもかかわらず、「マイナスイオンによってシロアリが逃げ出す」といった主張もありましたが、これなど完全なデマゴギーです。
下の写真のようにシロアリは炭の存在にはまったく左右されないか、またはむしろ活動の活性化にすらつながるものです。


他の部分の直立蟻道となんら変わりがない
隣の木材と同じように群がっている
炭の間から立ち上がった
ヤマトシロアリの直立蟻道
炭に群がるヤマトシロアリ
(星野伊三雄氏提供)


バーベキュー用の炭のイエシロアリ被害
(尾屋勝男氏提供)
左の炭の一片
(尾屋勝男氏提供)


床下調湿炭の袋の下から立ち上がった
ヤマトシロアリの蟻道
床下調湿炭の袋の下は地表が密閉され
むしろシロアリの生息に適している

炭はシロアリ対策にどんな効果を与えるか

 これまでに現場で明らかになった事実は以下のとおりです。
・シロアリにはなにも影響しません。シロアリは炭をまったく嫌わないし、炭も加害します。
・炭が湿気を吸収してもシロアリ対策とは無関係です。シロアリは水を持ち込んで建物に侵入します。
・湿気が強い環境ではむしろ保湿剤として機能します。
・袋入りの炭は地表を密閉することで、むしろシロアリの生息しやすい環境を生み出します。
・炭の設置が床下空間を狭め、床下のメンテナンスに支障をきたす場合があります。

すなわち、百害あって一利なし>とは言わないまでも百害あって一利以下といえます。