Isopteraとはシロアリです

日本のシロアリ
(属による区分)
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日本には4科13属のシロアリが25種前後生息していますが、種類によっては古くから生息していたものもあれば、海流によって流れ着いたものもあります。また、近代になってから貿易・戦争など人間活動によって移入されたものもあります。
とくに、南西諸島のシロアリは太古の地殻変動による大陸との連結などの要因もあって多様な種類が生息しています。
こうして、日本は温帯地域にありながら、かなり多様なシロアリが住む国となっているのです。

ミゾガシラシロアリ科
レイビシロアリ科
オオシロアリ科
シロアリ科

は家屋に被害を与えているもの
は家屋に被害を与える可能性のあるもの

属の代表種
学名
同属内の
種の数
被害
ヤマトシロアリ Reticulitermes speratus (Colbe) 1885
イエシロアリ Coptotermes formosanus Shiraki 1905
アメリカカンザイシロアリ Incisitermes minor (Hagen) 1858

ダイコクシロアリ Cryptotermes domesticus (Haviland) 1898
コウシュンシロアリ Neotermes koshunensis (Shiraki) 1909

カタンシロアリ Glyptotermes fuscus Oshima 1912

オオシロアリ Hodotermopsis sjostedti Holmgren 1912
ネバダオオシロアリ Zootermopsis nevadensis (Hagen) 1874
タイワンシロアリ Odontotermes formosanus (Shiraki) 1909
タカサゴシロアリ Nasutitermes takasagoensis (Shiraki) 1911

ニトベシロアリ Pericapritermes nitobei (Shiraki) 1909

ムシャシロアリ Sinocapritermes mushae (Oshima et Maki) 1919

トビツノシロアリ Termes sp. (種名は未確定)

同属種の数にがあるのは、今後変化する可能性があることを示す。
2000/10現在



シロアリ各属の現状について





ヤマトシロアリ属 Reticulitermes
このシロアリの仲間はその成り立ちにおいて大きな変遷を経て来ているものであり、近代になっても兵隊シロアリの頭部の形や上唇(口の上の平たい板)の形の違いなどによって、ある時は新種が生まれたり、ある時は新属が設立されたりしました。たとえば中国では頭部の後方がやや丸いものを蔡白蟻属Tsaitermesなどにまとめています。
我が国でもヤマトシロアリの仲間はいくつかに分けられていて、カンモンシロアリR. kanmonensisのようにその生態上明らかに一般的なヤマトシロアリと異なるものもいますが、多くの場合生態における違いはほとんどはっきりしていません。また、DNAや体表炭化水素、あるいは腸内共生原生動物によってある程度の系統の違いも明らかになっています。
しかし、これらを根拠にヤマトシロアリ属を細分化することに意義があるのかどうかという点では異論も存在し、場合によってはヤマトシロアリ1種でもいいのではないかということも考えられるのです。
現在までに発表されているヤマトシロアリ属は以下のとおりです。
ヤマトシロアリReticulitermes speratus speratus
ヤマトシロアリ九州亜種Reticulitermes speratus kyushuensis
ヤマトシロアリ中四国亜種Reticulitermes speratus leptolabralis
カンモンシロアリReticulitermes kanmonensis
キアシシロアリReticulitermes flaviceps
アマミシロアリReticulitermes amamianus
ミヤタケシロアリReticulitermes miyatakei
オキナワヤマトシロアリReticulitermes okinawanus
ヤエヤマヤマトシロアリReticulitermes yaeyamanus
かつてアマミシロアリと呼ばれたR. miyatakeiは、近年ミヤタケシロアリと改名され、同様にキアシシロアリ(あるいはアマミキアシシロアリ)R. flaviceps amamianusとされていたものがアマミシロアリとされました。
それは、アマミキアシの基亜種である中国のキアシシロアリ(中国名、黄肢散白蟻)R. flavicepsを日本の種に含めることにより、和名がいわば横にずれた状態となったものです。
ヤマトシロアリの仲間の分布域としては、これまで北海道南西部以南の日本各地とされてきましたが、最近京都大学木質科学研究所の吉村剛氏らの調査により北海道北部の名寄市内でヤマトシロアリの生息が確認されたようです。








愛知県産
ヤマトシロアリの兵蟻
(以下方眼はすべて1mm)

西表島のもの
キアシシロアリ

カンモンシロアリは別名ノキシロアリ(軒シロアリ)ともいわれ、関門地域を中心に生息しています。
ヤマトシロアリの仲間は、古くから家屋とのかかわりで語られてきたにもかかわらず、その生態研究は家屋から離れた形で行われることが多く、一部には間違った結論すら存在しています。
そうした点ではカンモンシロアリは家屋とのかかわりで分類された数少ない種です。
ヤマトシロアリ属やイエシロアリ属の生態におけるフィールドとは、あくまで家屋でなければならないのです。
イエシロアリ属 Coptotermes
我が国におけるこの属はイエシロアリ(台湾イエシロアリ)が一般的ですが、近年になってコウシュウイエシロアリ(中国名・広州家白蟻)C. guangzhouensisが明らかにされ、その後セスジイエシロアリ(同・長帯家白蟻)C. longistriatusも採取され、またごく最近、再びこれらが同一種であるという主張もでています。
しかし、小笠原の父島あたりではイエシロアリ属の生息密度が高く、その生息状況や生態において分類上微妙な状態となっています。
また、わが国でコウシュウイエシロアリと呼ばれる種が中国で記載された種と同じかどうかは別にして、イエシロアリとは生態の上で一定の違いがあり、これを イエシロアリと区別することは意義がありますが、セスジイエシロアリの場合生態上の違いがほとんど認められないので、単なる適応性の違いとして捉えるな ら、イエシロアリとあえて区別する意義はあまりないとする見解も成り立ちます。
最近、南鳥島からはフィリピンイエシロアリC. vastatorも発表されていますが、こうしたものをこれまで同様にいきなり独立種として扱うのか、ある程度の生態研究など多方面からの研究によって位置付けるのかということをめぐって論議も起きそうです。
また、イエシロアリ属は生態や行動論理からいうと他のミゾガシラシロアリ科のシロアリと根本的に異なる反面、むしろ同じように兵蟻の頭の丸いタイプのシロアリ科のテングシロアリ亜科との共通点も多く、大いに興味を引くシロアリです。
イエシロアリは千葉県以西の太平洋沿岸、瀬戸内沿岸、九州、沖縄、山口県あたりまでの山陰沿岸に生息しますが、海岸という条件を好むというのではなく、た またま歴史的経緯によってそうした分布域を形成しているだけです。したがって、なんらかの原因で本州の内陸部に持ち込まれるとそこに定着します(愛知県刈 谷市など)。
愛知県産
イエシロアリの兵隊

中国では額腺の形でも種を分けている
三角に開口する額腺
(藤本英人氏 提供)

指に痛みはまったく感じない
指先に噛み付いて
乳液を分泌する

アメリカカンザイシロアリの仲間 Incisitermes
我が国のアメリカカンザイシロアリの仲間Incisitermesは、アメリカカンザイシロアリI. minorのほかにもう1種ハワイシロアリI. immigransが硫黄島や南大東島などに生息しています。
わが国における生息地域は、おもに人間の物資移動に伴なって各地に点在し、アメリカカンザイシロアリでは鹿児島、福岡、広島、兵庫、和歌山、大阪、福井、三重、神奈川、東京などから発見されています。そして一部の地域ではかなり広範囲に広がっているようです。
生息をはじめてから被害が見つかるまでに10年程度かかることが多く、現在の生息地についての認識は、実際のものよりも10年程度古いものだといえます。つまり、日本に広く定着している可能性が大きいといえるのです。
被害は一つの家屋で集中度合いの高い部分はありますが、小集団ごとに分散し、被害部同士のつながりはあまりありません。
また、羽アリは集団ごとに群飛時期が異なり、ある程度集中しやすい時期はあっても、全体としては特定の群飛時期はありません。条件さえそろえば、少数ずつ年中群飛します。これは、土壌性のシロアリと違って降雨や温度変化に影響されずに生息できることが要因と思われます。
これがあるかどうかが乾材シロアリ同定の決め手
アメリカカンザイシロアリ
の糞粒(×60)
触角の第3節が逆三角形であるのがこの仲間の特徴
アメリカカンザイシロアリ兵隊
黒い羽が玉虫色に輝く
アメリカカンザイシロアリ羽アリ
ダイコクシロアリの仲間 Cryptotermes
生態としてはアメリカカンザイシロアリとほとんど同じですが、寒さに弱いシロアリです。とはいえ、近年の気温上昇の中では本土においても十分生息可能であり、何らかの原因で持ち込まれれば確実に定着します。
兵蟻の大顎は極端に短く、頭部の額部が垂直に立ち上がり、ゲンコツのような形をしています。
この仲間のシロアリは樹木や材木の中に作った狭い空間で生活し、とくに彼らのトンネルの所々にある狭い出入り口に兵蟻がその独特の頭殻を押し付けて栓をするようにして外敵の侵入を阻止します。
世界にはこの仲間が広く生息し、わが国でも奄美大島以南、小笠原などに生息しますが、ときおり移入木材に入って同種または近縁種が他の地域でも発見されているようです。
日本ではすでにダイコクシロアリ C. domesticus 以外に、世界的に広く生息しているニシインドカンザイシロアリ C. brevis も本州の2ヶ所で見つかっています。こちらの被害拡大も時間の問題です。
西表島産
ダイコクシロアリの兵隊
小笠原から採取されたもの
ダイコクシロアリ羽アリ
(山根坦氏提供)
国内某所もの
ニシインドカンザイシロアリ
コウシュンシロアリの仲間 Neotermes
オキナワシイ、アカメガシワなどの枯れ枝や半枯木に穿孔して生息する比較的大型のシロアリです。
わが国では沖縄本島や八重山諸島に生息しています。
!! 本欄に、戦前に一度採取された記録のあるイナムラシロアリがコウシュンシロアリの小型のものという記述がありましたが、根拠が不正確であることが判明しましたので削除してお詫びします。
兵蟻の数は割合多い
コウシュンシロアリ兵隊
樹木シロアリの仲間 Glyptotermes
温暖な照葉樹林に生息する樹木シロアリの仲間Glyptotermesです。
樹木シロアリの仲間はシイやタブ、ウバメガシなどの半枯れの幹に狭いトンネルを作って生活しています。
兵隊シロアリの頭部は長く、大顎は太く短く、内縁に縁歯があります。
我が国の樹木シロアリは、以前はカタンシロアリG. fuscus、ナカジマシロアリG. nakajimai、サツマシロアリG.satsumensis、コダマシロアリG. kodamai、クシモトシロアリG. kushimensisの5種とされてきましたが、現在は後2種はナカジマシロアリに統合されています。また、近年の報告では小笠原にはカタンシロアリが生息しないとされましたが、実際には数年前に採取されています。
この仲間は兵隊シロアリの数がきわめて少なく、働きシロアリ(擬職蟻)だけで同定しなければならないことも少なくありません。
また、ナカジマシロアリの初齢幼虫には背中に水平方向の突起があります。和歌山のクシモトシロアリ採取地から近年採取されている幼虫はどれもこの突起があることから、かつてクシモトシロアリとされていたものは研究者の発表の通りナカジマシロアリに統合するのが妥当と言えます。
非常に兵蟻の少ない種である
ナカジマシロアリ兵隊
(生息木は尾屋勝夫氏提供)

沖縄の安田先生はこれを「エンゼルウイング」と名づけた
ナカジマシロアリ初齢幼虫
背中に突起のある特異な形
(尾屋勝夫氏提供)
オオシロアリの仲間について Hodotermopsis
腐朽または半腐朽した樹木に穴をあけて生息するわが国最大級のシロアリ。
かつては鹿児島南部や足摺岬にも生息していたようですが、近年ではほとんどが奄美大島や種子島などから発見されています。
この仲間はもともと中国南部に生息していて、林間の建物にはこのシロアリによる被害があるといわれています。実際、日本のオオシロアリ H. sjostedti の場合、かなり乾燥状態においても飼育できるし、一般の建築木材や紙類も食べます。
日本の種 H. sjostedti は従来 H. japonicus と考えられていましたが、両者が同じであることがわかり、今では H. sjostedti となっています。
大顎の切れ込みが深い
オオシロアリの兵隊
アメリカオオシロアリの仲間について Zootermopsis
1999年に兵庫県川西市で野外の切り株から発見され(『家屋害虫』Vol21.No2)、その後しろあり同好会の技術者によってもその周囲で採取されています。これまではアメリカオオシロアリZ. angusticollisが輸入材木で発見されていますが、我が国への定着が認められていませんでした。
今回兵庫県で発見された種は、当初アメリカオオシロアリと報道されましたが、しろあり同好会の技術者や一部の研究者によってZ. nevadensisであることが確認され、ネバダオオシロアリと名づけられると同時に、有翅虫の群飛やある程度の生態、分布域、他種との関係等も確認されました。
そして、後に森本桂氏によってもこれが追認されました。
ネバダオオシロアリもある程度の乾燥状況で建築木材を餌として飼育できるうえに、羽アリの群飛時期が夕刻なので近隣の家屋への侵入の可能性もあります。
川西市のネバダオオシロアリ
当社飼育中の
ネバダオオシロアリ 川西市のネバダオオシロアリ
兵隊シロアリ
タイワンシロアリの仲間 Odontotermes
わが国で唯一のキノコシロアリ亜科 Macrotermitinae のシロアリです。土の中に数多くの菌園を作って生きています。
彼らの作るキノコはオオキノコシロアリタケまたはタイワンシロアリタケ Termitomyces というキノコで、コロニーの発展期には地表にキノコとして突き出し、人間の食用にもなります。また、コロニーが死滅するとそこには中国で炭棒菌とか鹿角菌と呼ばれる Xylaria という深緑色の細長いキノコが生長します。
おもな生息地は西表島の全域および沖縄本島の首里付近です。
かつては「台湾ヒメシロアリ」とか「ヒメシロアリ」と呼ばれていました。(一部の書籍にはイエシロアリの別名としていますがこれは間違いです)
左大顎内縁に1つだけ縁歯がある
タイワンシロアリの兵隊
タカサゴシロアリの仲間 Nasutitermes
わが国で唯一のテングシロアリ亜科 Nasutitermitinae のシロアリです。
兵隊シロアリの大顎は退化している代わりに額腺が吻 nasute として突き出し、ここから外敵に防御液を吹き付けます。
琉球大学の徳田岳氏によりこのシロアリが自ら木材分解酵素を分泌していることが発見されました。
八重山諸島に生息します。
テングシロアリ亜科は世界にはかなり多く生息する
タカサゴシロアリ兵隊
ニトベシロアリの仲間 Pericapritermes
腐葉土化した植物遺体(ヒューマス)を食べて土の中で生きています。
兵蟻の左大顎は極端にねじれ、外敵の侵入などの刺激に対しては大顎をはじく行動をとります。
兵蟻がはじくのを「はじいて自分が逃げる」と解説した本がありますが、狭い坑道でははじいても逃げられません。はじくのはおそらく侵入者を兵蟻1頭であし らっている間に他のものが避難する、あるいは坑道を落盤させて通路をふさぐという防衛方法を採用しているのだと思われます。
また、イエシロアリほどの発達した女王が西表島で見つかっていることから、これら土食い系シロアリの集団の規模はかなり大きいと考えられます。
八重山諸島に生息します。
兵隊の数は極端に少ない
ニトベシロアリ兵隊

ベトナムでも同様なものを採取した
ニトベシロアリ女王
ムシャシロアリの仲間 Sinocapritermes
ニトベシロアリとほとんど生態は同じ土食い系ですが、兵隊シロアリの大顎のねじれがわずかです。
八重山諸島に生息します。
兵隊の数は極端に少ない
ムシャシロアリの兵隊
トビツノシロアリについて Termes
生態としてはニトベシロアリなどに比較的近い土食い系シロアリですが、兵隊シロアリの大顎はアーチ型に長く延び、ねじれずに左右対称です。しかし、ニトベシロアリやムシャシロアリのように大顎ははじきます。
1995年しろあり同好会の技術者らが沖縄県西表島から採取しました。この仲間のシロアリはこれまではベトナムから中国の雲南省にかけての地域で発見されていて、まだ台湾省や福建省でも見つかっていません。
写真は星野氏提供
トビツノシロアリの兵隊
側面観