イエシロアリ属ヤマトシロアリ属の違い

イエシロアリ属 Coptotermes
中国名・家白蟻または乳白蟻
ヤマトシロアリ属 Reticulitermes
中国名・散白蟻
コロニータイプの違い
集中・集権型 (大規模志向のコロニー)
分散・独立型 (大規模になるのは条件的一時的)
(注)
他コロニーとの関係
原則として排他的
(地域や状況によって差異はある)
同一地域では融合と分散を繰り返す
(系統の違いや集団間の差異によっては排他的)
本巣・分巣からなる巣系を構築
巣の内部は独特な骨格や薄片構造
多くは食害部付近の個体集中部が
そのまま巣となるが、
コロニーの規模や条件によっては
特別に加工した巣を構築
兵蟻の外形

進化の表現者
卵円形の頭殻
丸みはあるが長方形に近い頭殻
兵蟻の防御方式
集団的格闘型
常に全体を守るための防衛
逃亡型 (群飛時など特殊条件では例外もある)
逃亡・分散のための防衛
防御液の分泌
刺激に対して額腺から乳液を分泌
(蟻酸ではない)

額腺は腹部に至るほど発達している
なし (頭部背面に退化した額腺がある)
職蟻の外形

本質的姿の表現者
職蟻の大顎
(頭部背面からの位置)

この歯で木をかじる
左大顎の第一縁歯が小さい
この歯で木をかじる
左大顎の第一縁歯は端歯や第ニ縁歯と同じ
老齢職蟻では磨り減ったりしている
羽アリの群飛時期
アジサイの咲くころを中心に ツツジの咲く頃を中心に
群飛の時刻
夕刻が基本(光に向かって群飛) 午前中の昼間が基本(光に向かって群飛)
羽アリの色
薄褐色(黄白色にも見える)
羽根は光の具合ではもっと白く見える
黒い (日本の種では胸のみ黄色のものが多い)
羽根は光の具合では白灰色にも見える
生息分布
千葉県以西・以南の沿岸部や島。
九州以南では内陸部にも生息。
黒潮の分布に近似。
北海道東北部や高地を除く全国
(注)こ こでいうヤマトシロアリの分散・独立というのは、ハチ・アリのような「巣別れ」のようなものでなく、人為的または自然の変動によって集団から分離・分割さ れたシロアリが卵を産み、羽アリを生じる能力を持って生き続けることをさす。イエシロアリと比べてヤマトシロアリにはこうした行動が顕著に見られ、このこ との把握はシロアリ対策上大きな意味がある。この分離された集団が建物に被害を与えるのは事実であり、たとえこれが遺伝子的に見て正常でなく本来分離独立 はありえないとしても、正常な集団であるかどうかということはシロアリ対策上は意味がない。

羽アリの走光性(光に集まる習性)について

羽アリの走光性についてヤマトシロアリ属に走光性がないとする見解が多いが、これは明らかな間違いで、ヤマトシロアリの羽アリも太陽光に向かって飛び出す。
ただ、多くの場合電灯がともる時刻に群飛しないので、電灯に集まる可能性が少ないだけである。
しかし、なんらかの原因で夕刻に群飛したり、電灯のついた密閉された空間に群飛する場合は、ヤマトシロアリでも明確に電灯に集まる。

水を運ぶことについて

「イエシロアリは水を運ぶがヤマトシロアリは水を運べない」という論があるが、これは事実に反していて、どちらも水を運ぶ。
ヤマトシロアリ属でも天井裏や押入れなど水分のないところに被害を与えることがあるし、そういう場合は例外なく加害部は濡れている。
ヤマトシロアリ属の生息部が高い場所に少ないのは水が運べないからではなく、コロニーが大きくなることが少ないからであり、巣から離れた場所の蟻道等を管 理すべき個体数に発達しにくいのが理由である。したがって、一定条件のもとでコロニーが大きくなったヤマトシロアリでは上下方向にも水平方向にも遠距離に 蟻道が延びることもある。
イエシロアリには「特別な水を運ぶ器官」があるという意見もあるが、どのように水を運ぶかは問題でない。「特別な器官」によってであろうが、糞としてであろうが、口からの吐き戻しであろうが、蟻道を流れる湿気であろうが、「運ばれた水」に変わりはない。
最近では研究者によってヤマトシロアリの水嚢 water sack も確認されている。

蟻害と腐朽の関係について

「ヤマトシロアリの被害では同時に腐朽を伴う」と書かれている本があるが、たしかに家屋の浸水や結露による腐朽部分にヤマトシロアリが見られる。しかし、それはヤマトシロアリがそこを水源として利用しながら周囲の健全材を加害しているという被害の1パターンに過ぎない。
多くの被害では水源は地下にしかなく木材自体は乾いているのだから、ヤマトシロアリが木材の加害場所に土とともに木材腐朽菌を持ち込み、さらに水分を持ち 込むことによって木材の腐朽が始まる。したがって、シロアリがその部分から撤収してしまうと水分補給が途絶えるので、土があってぼろぼろになっていても腐 朽はとまってしまう。また、シロアリの採餌の最先端部分や経常的な生活空間には土が持ち込まれていないので、腐ることなくきれいである。
これこそまさに自然界で不要な木質を分解する典型的な形である。イエシロアリと比べてコロニーが小さく定着性の低いヤマトシロアリであっても、土とともに 木材腐朽菌を持ち込むからこそ木材の最終的分解へとつながるのである。そして森林でシロアリのいる湿った倒木をよく見ると、やはりその時点でシロアリが集 中している部分は、湿ってはいても腐っていないし、カビも生えていないのである。
もちろん、シロアリがいなくても腐る条件があれば腐るのだが、ヤマトシロアリと腐りの関係についての一般論をいうなら、「腐るからシロアリが発生する」のでなく、シロアリが加害したから腐るのである。

コロニーの個体数について

日本では、イエシロアリ属では個体数は最大100万頭程度、ヤマトシロアリでは数万頭とするのが妥当。
ヤマトシロアリについて言えば、シロアリの集団が一時的に数十万となる可能性を否定するのではないが、そうした大集団を長期間恒常的に維持するものではな いということである。一定の条件で大集団が見られる林地などにおいても、やがて衰退しほとんど見られなくなってしまうのがヤマトシロアリである。これを大 集団を維持することで生き延びようとするイエシロアリと同列において個体数を論じるのは実際のありようと矛盾する。まして、樹皮がはがされ製材された木材 が使用されている家屋のシロアリ対策では、数万から十数万というのが駆除ターゲットのとらえ方としてはやはり妥当な数字である。
なかには、わざわざ杭を打ってヤマトシロアリを増やしたところで個体数を調べた発表もあるが、杭などを打って環境を変えれば急激に集団の規模は大きくなって当たり前である。
イエシロアリでは、アメリカの学者の中に6000万頭などという見解もあるようだが、これまで巣の駆除を充分行わず薬剤のみで押さえ込んできた歴史のある アメリカの特殊性のなかでの統計的な手法で得られた数字である。巣を駆除してきた日本や中国ではこうした数字は現実離れしている。

「好む土質」について

ヤマトシロアリ属が水はけの悪い粘土質の土を好み、イエシロアリ属が水はけのよい砂を好むと言う論があるが、これは今日までの日本における生息分布がたまたまそういう状況であったというだけで、シロアリの「好み」ではない。
だから、イエシロアリは人為的な原因で内陸部の粘土質の土壌の地域に巣ごと運ばれればそこに生息できるし、逆にヤマトシロアリでも同様である。シロアリは好みではなく適応で生きる虫である。
生息土壌の上に新しく土が入れられるとそこに適応しようと侵入してくる。あたかもその土を求めて集まったかのように思われるが、多くの場合一時的であり、とくに条件がなければ住み着くことはない。
ときとして、とくに被害もないのに植木鉢の中などにシロアリが見られることもあるが、多くの場合、体が白変した弱った個体であって、原因はよくわからないが正常な行動ではない。

食害の痕跡がきれいかどうかについて

ヤマトシロアリの食害痕は汚いが、イエシロアリの場合はきれいだという論があるが、これはかなり問題のあるとらえ方である。たしかにヤマトシロアリ属とイエシロアリ属とは食害の様子は異なるが、それはきれいとか汚いという違いではない。
ど ちらかというと一般にはイエシロアリの食害部分には土が蓄積されることが少ないのに対して、ヤマトシロアリでは土の蓄積が目立つ。しかし、そうでない場合 もあり、ヤマトシロアリでも非常にあっさりとした「きれい」な食べ方であったり、イエシロアリ属でも被害部分が濡れて変色していたりすることもある。

蟻道の断面が丸いかどうかについて

蟻道(泥線も含む)の断面が丸いのがヤマトシロアリ属で、半月形がイエシロアリ属だといういいかたがあるが、おそらく実際の観察をしたことの少ない人の間違った結論であろう。
ヤマトシロアリ属では外壁の厚い蟻道の多くは確かに断面は丸い。しかしそうでないものもあるし、まだ外壁が蟻道として整っていない覆いとしての泥線や泥被はすべて半円形である。