中古住宅購入時のシロアリ対策の考え方
 中古住宅の売買で「シロアリがいないはずの家」にシロアリが「発生」したというのでトラブルになる事例をよく耳にします。
 こうしたトラブルを避けるためにいくつかの点について考え方を整理してみます。

販売時点で「シロアリがいない」ことをどのように考えるか

 中古住宅を点検して「シロアリがいない」「蟻害なし」という報告書があったとしても、それはシロアリがまったく生息していないことを意味しません。
 シロアリの点検は、基本的には目視によるものであり、目視で点検できる範囲でシロアリの生息を示す蟻道や蟻土、あるいは被害部分がみられないなら「シロアリがいない」「蟻害なし」になります。
 しかし、目視できない部分、たとえば玄関や浴室などの土間コンクリートの下や束石の下、あるいは増改築でできた複雑な構造部分などにヤマトシロアリが小さく生息している可能性はあります。目のないシロアリは床下で活動していても頭上に建物があることを知らないので、必ずしも上方向に蟻道を伸ばすとは限らないのです。
 したがって、報告書によっては「現状として」とか「目視の範囲では」という但し書きがあります。

リフォーム後の引き渡しで予期できない事態にも

 中古住宅は新築以来の生き物の歴史を含んでいます。新築にともなう環境の大きな変化は、その土地に住む一切の生き物の大きな動きを引き起こします。そして新たな環境で生き物の間のバランスが生まれ、配置が決まり、動きは見られなくなります。
 中古住宅でのシロアリはそうしたバランスの中で生きているものであって、リフォーム前後で活動が見られなくても、次の大きな環境変化で再び大きな動きをします。それまで建物に関与せずに小さく生きていたヤマトシロアリが、一気に活動量を増やすかもしれません。
 したがって、リフォームで地面に関わる変化、例えば、土間コンを打って地表の密閉度を変えるとか、基礎を増やすとか、あるいは振動を与えるなどの変化を与えた場合は、今まで見られなかった部分に蟻道ができたり、羽アリが飛び出したりする可能性があります。
 リフォームでシロアリが大きく動くといっても、床下全体でまんべんなく起きるのでなく歴史的経緯によって生き抜けたシロアリだけが動くので範囲や部位は限定的です。
 床下の湿気はまったく関係ありません。シロアリがいるかどうかが問題です。

・大きなリフォームがない場合
 地面にかかわるリフォームがなく、前の居住者から引き継ぐ形の場合、たとえ古い被害部があっても、現状での生息が見られないなら、以後も同じような状況が続きます。
 ただ、リフォームしなくても空き家の状態が長い場合は、生き物の動きに何らかの変化ができている可能性があり、人が住まなくなることも新たに住み始めることも一つの環境変化としてシロアリなどの生き物の動きに変動を招くことかあります。

 したがって、中古住宅の購入の際に「シロアリがいない」ということが書面などで表明されていても、羽アリが出たり、局部的な被害が出る可能性があると考えるべきです。

薬剤による予防の効果

 「シロアリがいない」とされた状況で予防のために薬剤処理をした場合、一般的には効果は十分得られます。ただ、リフォームによってできた複雑な構造や新旧の土間部分への適切な判断のない均一な予防処理だと、環境変化に対するシロアリの必死の動きを止められない可能性もあります。
 たとえば、古い土台などをリフォームで土間コンで埋めたり密閉したりする、あるいは、新旧の土間コンの接合部に木材を据えるといった状況では、表面的な薬剤の吹付けでは効果の不足する部分が生まれるかもしれません。参照
 シロアリが現存して駆除と予防を兼ねた薬剤処理をするのなら、おのずと処理の重点が明瞭になるのですが、予防のみで処理する場合は表面的で均一な処理になりがちです。
 この点は、処理に当たる技術者の意識・技量の違いが影響します。
 イエシロアリ地域では、庭先や近隣の生息状況への判断や羽アリによる侵入経路など技術者としての判断や対応がないと、早期に侵入される恐れもあります。

・「防蟻処理済」なら処理業者の責任で追加処理や補修が行われますが、一般的な「保証」付きの「防蟻処理」は床下全体を対象とするので、本当にシロアリがいない方面(ふつうこの範囲のほうが広い)にも薬剤散布することになります。
 ヤマトシロアリ地域では、当初の調査で適切な判断がなされれば、万が一シロアリの動きがあっても、さほどの費用もかけずにピンポイントの駆除や修復も可能ですので、あえて購入時の「保証」を求めなくても大きな問題にはなりません。

薬剤による予防を行わない場合

 ヤマトシロアリ地域で、現状でシロアリがいないなら、薬剤による予防をせずに計画的な点検を主体にしたシロアリ対策が可能です。
 入居時と入居後数年で床下などを点検すれば、その家の実情に合った対策の方向性が判断できるので、万が一シロアリの動きがあっても、初期の状態で処理できます。
 イエシロアリ地域では、上記の点検とともに、監視用の餌場を敷地に設定してシロアリの動きを見るとか、状況に応じて羽アリの誘殺灯や物理的バリアを設置することも予防の一つです。

湿気、腐りについて

 湿気があれば必ず腐るわけではありません。木材腐朽菌が生き物として繁殖するかどうかが問題です。
 たとえば、築20年以上ので床下の湿気の多い住宅でも、現状として腐りがごくわずかなら、それなりのバランスができているので、とくに湿気対策をしなくても問題ありません。しかし、木材の多くを入れ替えるとか密閉度を大きく変えるような場合は、腐朽菌の繁殖のあり方に変化が生じる恐れがありますので、リフォームの際には湿気対策も必要になるかもしれません。
 ただ、湿気対策の結果、床下に潜って点検・メンテナンスできなくなるような方法は避けるべきです。
 カビと木材腐朽菌とは異なる生き物で、木材にカビがあっても木材が劣化するわけではありません。
 また、カビや木材腐朽菌があることとシロアリの生息とは関係はありません。シロアリの生息は、あくまでその土地(家)の歴史的な経緯によるものです。

乾材シロアリについて

 限られた地域にはアメリカカンザイシロアリ、ニシインドカンザイシロアリ、ダイコクシロアリといった乾材シロアリが生息しています。
 これらのシロアリは、屋根の破風から室内の家具まで、ありとあらゆる木材に生息する可能性があります。一律の予防や駆除をしても費用の割に十分な効果は得られません。ガス燻蒸ではとりあえず駆除できますが、近隣からの侵入は阻止できないし、住宅密集地域では燻蒸の天幕の設置に支障がでます。
 こうした地域で中古住宅を購入する場合は、このシロアリ被害をある程度は覚悟しなければなりません。ただ、被害の進行は遅く、大きな被害になりにくいので、被害が出始めたら計画的にピンポイントの定期駆除を行うことで生活に支障のない状態にできます。