アメリカカンザイシロアリ
その特徴と対策

近年わが国各地でアメリカカンザイシロアリ(レイビシロアリ科)の被害や侵入が見られるようになってきました。しかし居住者の中にこのシロアリへの知識が 普及されていないことから、初期の発見が遅れてしまうことが日常的になっています。ここではこのシロアリの特徴とその対策について述べます。
NHK「クローズアップ現代」外来シロアリの脅威/果たした役割と問題点 

どんなシロアリ

ヤマトシロアリやイエシロアリのような土壌性のシロアリでないので、被害部に土はありません。人間が認識できるような湿気がなくても木の中だけで生きられますので、天井裏から床下までのすべての木材、家具、木製品が被害を受ける可能性があります。


初期の集団では
兵隊シロアリほとんど見つからない

どんな色・形

羽アリの形は、全体の形としては他のシロアリのように4枚の長い羽根がありますが、体は一回り大きいです。
羽根は容易に落下し、羽根を落とした姿は、頭部と前胸が茶色で翅根のある中胸・後胸と腹部が光沢のある黒です。
羽根は全体としては濃い灰色に見えますが、陽の光で玉虫色に輝き、羽根の前の縁の色が太くて濃いのが特徴です。
羽アリの動きは非常に敏捷です。
羽アリの飛び出す時期は、所によって、条件によって、集団によってまちまちで、春夏秋冬どの時期でも、割合温暖な日に少数ずつ飛び出します。しかし生息密度が高くなってくると、生息地域の各所で有翅のものや落翅のものが見られます。

働きシロアリ(本当の働きシロアリでないという意味で「擬職蟻」と呼ばれています)は、ヤマトシロアリやイエシロアリよりも大きく、ずんぐりしています。しかもルーペで見ると背中に短い羽根のようなものが付いているものもいます。また未発達な眼(眼点)があります。
右の写真の方眼はどれも1ミリです。
(注意)それぞれの虫の大きさは周囲の環境や集団の発達段階で大きく異なり、ヤマトシロアリほどの大きさの場合もあれば、イエシロアリをはるかにしのぐ大きさの場合もあります。しかも同じ集団の中でも大中小が同居していることさえあります。


羽アリは特徴のある色合い


羽根を落としたものは
一見ではシロアリとは思えない


働きシロアリは割合大きく
被害部付近を歩くこともある

被害や侵入の見つけ方

一定の被害がある場合、粒状の乾いた糞(ルーペで見ると均一な俵状)が発見の決め手となります。

しかし、ごく初期には糞は発見されず、侵入部位には柔らかで軽く、しかも新鮮な木粉(木屑)の小さなまとまりが見られます。
この場合、付近に羽根が落ちていることがあります。

また、一旦侵入してしばらく経つと侵入した穴(直径1ミリほど)は粘性の糞で閉じられるかまたは糞粒が詰まっています。
開いたままの穴もありますが、この場合は穴の周辺部が非常に滑らかです。


糞の形はルーペでもわかります。


これは天井裏で見つけた別の虫の糞
間違えないように!

初期対策の決め手は
木粉の発見


この程度の糞は見つけにくい


これでも割合大きな被害

糞の散らばりや堆積が自宅で見られたら

どこかに(多くの場合その直上)に生息部位があります。かるくたたいてみて糞が落ちるような材木が生息部ですが、それ以外の部位に生息している可能性もありますので、できるだけ現場の状態を保存して、専門家に依頼してください。

糞の堆積は見られないが、
木粉や落下した羽根が見られる場合は

近所から飛んできて間のない状態です。木粉のある部分(木材の接合部や割れ部分に多い)では木材表面の浅い部分に1頭か数頭で生息していますので、長いノ ズルの付いた市販のスプレー式殺虫剤(とくに「シロアリ用」でなくてもいい)を吹き付けたり、注射器やスポイトなどで刺激性の液体を注入すると飛び出して きますので殺します。
日常的な注意でかなり防げますし、初期の対応こそ最も大切です。しかし、高所や目の届かない部分からの侵入も予想されますので、このシロアリが発見された場合は、まずもってどのように考えるべきかを専門家と相談してください。

駆除のありかた

確実な駆除は、やや大掛かりですが、家屋全体をシートで密封してガス燻蒸(くんじょう)することです。これだと材木内外のすべてのシロアリや生き物はいっきに死滅します。
ただし、処理後には薬剤の効果は残らないので、隣近所に生息していると再び侵入されます。
再侵入を防止するために家屋内外の広い範囲に薬剤を吹付けて予防することが勧められますが、居住空間に近いところで薬剤の大量使用をするのですから、人に よっては様々な問題も出てきます。また、そうした処理も万全でなく、薬剤によっては突破されたり、わずかな薬剤の隙間から侵入されることもあります。
したがって、こうした判断は一律に考えるのでなく、専門家に相談してください。
まちがっても隣近所に燻蒸(駆除費用は百万以上が多い)を強要したり、シロアリ発生源の「犯人探し」をしないでください(そこで住み続けるつもりなら)。

まずは‥‥
小さく分散して生きるこのシロアリは、イエシロアリやヤマトシロアリのような被害にはなりにくい(当然にも家は倒れない)ので、一挙に駆除することを考えるよりも、専門家の判断の元に定期的な駆除や手当てをしていくことでも充分対応できます。
駆除のあり方や費用、使用薬剤などは各家々によって千差万別であり、居住者の事情も考慮した柔軟で冷静な対応のできる業者を選ぶことが肝要です。
マニュアル的に木材に等間隔にドリルで穴を開けるようなやり方は正しくありません。また、屋内での油剤の使用も正しくありません。

生息地域で家屋を新築・リフォームする場合は

できるだけ木材を露出させる構造にしないと、調査や判断すらできなくなります。とくに高気密、土間床、吹き抜け、木製サッシ、ウッドデッキなどは避けるべ きです。もぐれる床下、点検可能な各階の天井裏、取替え容易な壁材、こうした配慮が必要です。破風やハナ隠しのような軒先の飾り部分(この被害は目立つ) は木製以外で代用できるなら材質を選ぶことも意義があります。
要するに乾材シロアリに詳しい技術者(残念ながらごく少数)を探してその提案に沿って設計するのが一番です。
乾材シロアリの「予防」? 

生息地域でその他注意すべきこと

・自宅で被害がある場合は、家具や木製品(割り箸や木人形まで一切)の持ち出し、交換はひかえるべきです。フリーマーケットなどにはとくに注意が必要です。
・また、家屋の周囲に木材や木製品を放置しないようにし、放置した場合は他の地域に移動すべきではありません。
・大きな木材は燃やすか適切に処分できるまではしっかりとシートなどで密封しましょう。小さな木切れは燃やすか敷地内の地中深くに埋めましょう。
・立木の半枯れ部分や枝の切り口部分は乾材シロアリの侵入部位となりやすいので、薬剤処理するか塗装しましょう。

一般的な注意点

色眼鏡で見ないこと
「ヤマトシロアリは湿った低い場所で、乾材シロアリは乾いた高い場所」という先入観にとらわれると、ヤマトシロアリの被害を乾材シロアリの被害と思ってとんでもなく無駄なところに費用をかけてしまうこともあります。
搬入と管理
海外旅行や個人的な輸入で海外から木製品を持ち込む場合、あるいはこのシロアリが生息していることが明らかな地域から木製品などを持ち込む場合は、糞の落下などに注意し、可能性のあるものは持ち込まないこと。持ち込まないのが最も確実な予防法です。
英語では乾材シロアリはDry-wood termitesといいますので、米国西海岸や環太平洋など疑わしい地域では地元の人に聞いてみてください。
世界にはかなりの種類が生息していますが、すでにわが国でもアメリカカンザイシロアリやダイコクシロアリ以外の乾材シロアリが発見されていて、これからは他の乾材シロアリが定着する可能性が大きくなっています。
とくに輸入業者の方には木製品の輸入と保管には注意していただきたいものです。

対策をめぐる諸問題

・最大の問題は初期の被害に気がつかない。
・このシロアリについて情報が少ない(「新種のシロアリ」と大騒ぎするだけのテレビ番組もある)。
・専門家・技術者が極端に不足している。
・経験ある業者が少なく、やたらと大げさな対応をしてしまいがち。
・最初から目的意識を持たないかぎり、専門家でも通常のシロアリ調査では発見できない。