手足を縛る定期点検
最近、有料定期点検が拡がりつつある。薬剤を定期的に散布するよりもはるかに自然だから当然といえば当然だが、おかしな傾向も目立つようになった。
それは顧客を契約でがんじがらめにしてしまうやり方である。
たとえば、3年とか5年といったあらかじめ設定した定期点検契約期間中に顧客の都合で点検を中止する場合に違約金のようなものをとるとか、判で押したよう にきっちり定期的に訪問するとか、訪問するたびに何かを売りつけるとか、報告書がやたらに多いとか、というような特徴である。
これらはマニュアル的な薬剤散布の体質から抜け切れていない業者のやり方であり、業者の定期点検システムに客をはめ込もうとする態度である。
こういう我々もまた、当初は薬剤による「防除」の代金を5年で割って1回ごとの点検料金を算出したり、報告書を事細かに作成したことがあったが、すぐにこうしたやり方がばかげていることがわかり、今ではきわめて柔軟な対応となっている。
考えても見れば、顧客の家に行く前から定期点検の「3年契約」とか「チェックポイント」などが決まっているのは、薬剤大量散布と同じ発想だといえる。
システムの優越性、薬剤の安全性はあっても、人と人との関係だけがないということにもなりかねず、顧客はお金を払うのがいやになってしまい、毎年きちっと 来られるのがうっとうしく思うようになる。アメリカの害虫駆除業者は、説明の時間も含めて時間単位で駆除や点検の契約を結ぶということを聞いたが、日本人 はそれほど契約社会になじんではいない。
PCO協会のIPM宣言では「調査に基づいて」が宣言されている。まさにこの「調査に基づいて」こそが、昆虫対策全体の中心命題であるし、ピンポイント駆 除と定期点検システムの根幹を成すべきなのである。調査の前には何もない、あるのは個々の技術者の見識と経験のみである。
契約期間や点検間隔などは、すべて調査に基づいて現場で決められるべきである。言い換えれば、そうした判断ができる技術者が点検してこそ、顧客との間に信頼が生まれ、長く続けることができるのである。
換気扇から調湿材までフルセットで売りつけた後の定期点検が1回5万円などという某業者の話も聞いた。そういえば、この業者のウエブサイトでは、ヤマトシ ロアリの生態について「水が運べないので湿気のあるところに生息する」などという間違いがいまだに堂々と書いてあるが、定期点検に移行しても換気扇などの 売上額だけは確保しなければならないためなのだろう。
定期点検を真に自然なものとして行うためには、この「閑話」で先に述べたようにマニュファクチャ的な企業体質が必要となるのである。入社して間のないお兄さんが、薬剤散布と同じようにマニュアル的にチェックリストをチェックしても、有料点検は長く続かないのである。

2006/10