脅迫産業と耐震
「狼が来るぞ!」ではないが地震の恐怖をネタにした金物取り付けに絡むトラブルが急増しているようだ。
とくに東海地域では、各地から金物取り付けの訪問販売業者が入り込んでいる。また、シロアリ「防除」など床下で売れるものを探す床下産業も、今までまったく見てもいなかったボルトの緩みやわずかなコンクリートの亀裂の写真をとっては金物を売りつけるようになった。
しかし、こうした訪問販売業者のつける金物は、「つけられるところにつける」だけであって、耐震としての効果については疑問を呈する建築士が圧倒的だ。
だいたい、金物をつけたからといって家屋の倒壊を防ぐことができるかどうかわからない。それどころか、耐震措置のなされているという新築家屋だって壊れるときは壊れるのだ。
ところが、金物は地震が実際こなければ試されない。何一つ根拠のない金物設置でも地震がこなければ「耐震措置」になってしまう。
地震の震度というのは、あくまで観測点のものであって、局地的にはそれ以上でもあるしそれ以下でもある。また、建築学の研究機関の試験も実際の揺れとは大 きく異なる部分が多い。下から猛烈に突き上げるものや、隣家の倒壊や落石による打撃、地盤崩壊など様々な要因があって、耐震措置はあくまでこれを和らげる ものでしかないのだ。
自宅がどれだけの震度までなら持ちこたえるかどうかよりも、「壊れるときは壊れる」を前提に、「自分たちがいかに生き延びるかという措置を古い家でも新しい家でも考えること」、これこそが耐震の中身ではないだろうか。
家具の転倒はもちろん、家が倒壊してもとりあえず物の下敷きにならない部屋や避難口の確保、そして、もっとも意義ある震災対策は公的な復興補償制度である。元の土地に家屋が再建されることがわかっていれば、倒壊への不安は半減し、命を守る行動に集中できるだろう。
2002/5