自然体験施設での心得

心得といっても、「自然を大切にしましょう」とか「ゴミは持ち帰りましょう」ということではなく、体験すべき自然を前もってよく認識すべきだと言う話である。
今年ある自然体験施設からアリ(いわゆるクロアリ)の駆除の相談があった。バンガローに泊まりに来た客からアリの苦情が出たというのである。
アリといっても最近マスコミで問題になっているアルゼンチンアリではなく、どこにでもいる在来のアリである。
そこで結論から言おう。アリが出て苦情を言うならこういう施設に行くな。そういう人に行く資格はない。これを強く言いたい。PTAや子ども会、ボーイスカウトなどの役員の方にはとくに深く認識してもらいたい。
自然とはこれまで何度も言ってきたが、生き物そのものを意味している。このことを是非わかって欲しい。生き物は森に行けばたくさんいるものだ。バンガロー にも当然入り込む。多少咬まれるかも知れない。でもいいではないか。これこそが自然であって、これこそ体験すべき重要な内容であろう。虫にかまれたり化学 物質の多い樹木に触れてかぶれることが自然体験だ。こんなことで施設管理者に苦情を言うのは自然に対して苦情を言っていることにほかならない。むしろ虫が 出たなら「いい体験をさせていただきました」と感謝してしかるべきだ。
どうしても部分的に虫を排除したければ個々人で殺虫剤を持参すればいいのである。なにも殺していけないとはいわない。それぞれにやり取りするのも自然体験である。だが施設の側で虫を減らすとか虫が入らないようにするなどという必要はない。
これが森の中の高級ホテルならある程度(あくまである程度だが)虫の排除や建物構造の工夫も必要かもしれない。しかしバンガローや山小屋のような施設は虫がいるのが当たり前。ゴロンと横になって天井や壁を凝視すれば、何らかの動くものが見られる。これが自然である。
もちろん今ではある種の薬剤をうまく使用するとアリなどをかなり広範囲に減らすことはできよう。しかし、それは周囲の自然を変えてしまうことになるし、これがもたらす結果については予測できない部分も多い。
施設側としては森の整理整頓を行って一部の生き物が大量増殖しないようにするとともに、バンガローなどを建てる際には構造的な工夫について生き物に詳しい人の意見を取り入れる、といったことさえしていればなんら問題はないのである。
あるいは施設のパンフレットに「虫がたくさんいますが自然とはそういうものですので、あらかじめご了承ください。施設としてはとくに昆虫類への対策を行い ません」といった但し書きを入れておけばいいのではないか。いやむしろ、「日中はこんなところにこんな虫が見られ、夜になると部屋の中ではこんな虫が見ら れますので大いにお楽しみください」くらい書いておいてもいい。あるいは「ムカデの正しい叩き方」「ハエのおびき寄せ方」とか「アリのスナップ写真コンテ スト」「虫の写真掲示板」「森のゴキブリ集め」など面白いのではなかろうか。

先日ある温泉旅館に行ったら、露天風呂の片隅に玉網が備え付けてあった。どうやら湯に浮かんだ虫などを取るものらしい。見えるところにおいてあるのは「ご 自由にお使いください」という意味だろう。露天風呂で夜明かりをつければ虫が飛んでくるのは当たり前だが、これが気に入らない客が多いようだ。
オーストラリア北部のホテルはだいたい中庭にプールがあるが、これが虫だらけで虫をかき分けて泳いだ覚えがある。しかしホテル側はあまり気にしていないよ うだ。また、ダーウイン市内でもハエが多く、すぐに目や唇にたかってくる。しかし日本人以外あまり気にする人はいないようだ。
しかしまあ、危険な虫がほとんどいない国に住む日本人なのに、いつからこんなに虫嫌いになったのだろうか。異常としか言いようがない。

最近マスコミが取り上げるようになってきたアメリカカンザイシロアリともなると羽アリの出る時期は集団ごとに異なるので夏でも冬でも見られる。私が定期駆 除している家では10月が群飛のピークだが、他の時期にも出ている。土壌性シロアリのように季節とかかわって生殖するわけではないので、自分たちの生殖周 期と温湿度の変化だけで群飛するのである。
マスコミ報道では大騒ぎであるが、もともと乾材シロアリがいる国々では、もちろん個別に駆除はしているとはいえ、さほど大騒ぎになっているわけではない。 確かに根絶するには厄介ではあるが、建物も車と同じく常に新品でなければと思い込んでいる日本人と比べればかなりおおらかである。
このあたりの考え方を改めないとトラブルばかり増えることになる。
もちろんこのこととは別に、現状の被害の進行に行政が速やかにかかわって対策を行うべきであることはいうまでもない。
2008/10