無駄な知識かもしれないが‥‥
先日、某テレビ局の無駄な知識を扱うという番組担当者から電話があって、「シロアリに音楽を聞かせると木材を食べる量が増えるというのは本当でしょうか」と聞かれた。
担当者氏がいうには、そういう意見が視聴者からあったというので当方に問い合わせたという。その視聴者がどういう見解か知らないが、結論から言えば食べる量と音楽とはほとんど関係がないといえる。
もちろん、シロアリを一定量裸にして取り出して、木材の中に閉じ込め、音楽をかけたり、一定の振動や刺激を与えれば、食べる量に影響があることは想像できる。実際、ある研究機関でそういうような試験をしているようだ。
しかし、実際のシロアリは蟻道や蟻土で密閉されていて、そうした振動を受け取るにはあまりにも困難な状態で生息している。また、振動と食べる量との試験に おいても、それが正常な行為としての食べることなのか、振動に対する対応としての行為なのかの判断も難しいところである。しかし、どこかでその視聴者はそ ういった結論を聞いたのであろう。そしてこれが万が一番組で「シロアリは音楽を聴くとたくさん食べる」などとやられるとまた一つの俗論が作られてしまう。
ちなみに、この番組で以前「シロアリはボールペンの線の上を歩く」というのがあったが、やや俗論の形成に寄与している面もあった。つまり、ボールペンの上 を歩くのは裸のヤマトシロアリだけであって、蟻道の伸び(つまり、自然の状態)はヤマトシロアリでもボールペンの上をたどることはほとんどないし、まして や他のシロアリでは裸の状態でもヤマトシロアリほど反応しない。
また、ボールペンの線を長く伸ばしてシロアリを家から追い出そうというのはギャグではあろうが、ボールペンで遊んだ後はちゃんと殺さないと家が食われると いうような解説は間違っている。実際は、ボールペンで使用したシロアリはそこらに生きたまま捨てても生き延びられずに死んでしまう。
そんなことがあってからどれほど経過したか知らないが、今度は同じ番組の担当者が私の同業の星野氏のところに「アリクイはどれだけシロアリを食べると満腹になるのでしょうか」という質問をしていったそうである。あの番組も裏では大変な努力が行われているのだなと感心した。
アリクイでもセンザンコウでも食べる量はわからない。が、塚のシロアリがいなくならない程度に食べるのははっきりしている。また、シロアリ専門食の動物の体が大きいのは、多分にシロアリ自体の栄養価の豊富さを表現しているのも確かである。
センザンコウの場合は、塚をほじってシロアリをある程度食べるとその場で眠ってしまうらしく、そういう状態を人間に襲われてつかまってしまうらしい。しか し、その塚のシロアリがコロニーを再生するのに充分だとすると、たとえば大型の塚で数百万頭のシロアリがいたとして、1割食べたとしても数十万頭といった ところであろうか。2割3割と食べるにはかなり塚を壊さなければならないし、そういうことに時間はかけられないはずである。だから1割でも多いと思われる ので、数万から十万頭も食べればとりあえず休憩するのではなかろうかと思う。あまり自信のない推測だが。

それにしても、私と星野氏はいわば駅のプラットホームのようなもので、ネット経由だと私の側に質問が多いが、業界経由だと星野氏の側に質問が来る。電車を下りれば同じホームというわけである。
2004/5