ちょっとした言葉の端々からヒントを得ては自分のものにする。知らない間に我々と同じ道具を持っている。その熱意は口では言い表せない。 そして、つい最近まで彼の作業車は「消毒業者」風に油剤用と乳剤用のタンクが積まれていたが、今ではそういう水準から脱し、へたなシロアリ業者がはだしで逃げ出すほどに彼は成長している。 その彼が、先日ビデオテープを送ってきた。それは昨年暮れに放送された欠陥住宅追及番組で「新築家屋にウジ虫がいる」とされた部分である。 彼は「どうみてもあれはウジ虫ではない。シロアリだ」という。私はあまり気にしてなかったので、雨水によってどこかに発生したウジでも浮いたのだろうと思いビデオにもとらなかった。 そこで彼のいう部分をもう一度しっかり見ると、触角が動いている。ウジ(ハエの幼虫)には当然触角はない。さらによく見ると、手足があって長い個体と小さい個体がいる。なるほど彼のいうとおりだ。シロアリに間違いない。これは一本とられたようだ。 この番組はそれ以前にトビムシをシロアリだといってうそをついた前科があり、今回もまたインチキがみなぎっていたのだ。やはりもう少し疑ったほうがよかった。 それにしても彼はよく見ている。たぶん24時間シロアリのことを考えていることは確実だ。 私の写真を見て刺激を受けたのか、最近の彼の写真は非常に生き生きしている。聞けば簡単なカメラで何枚も何枚も失敗した中の一部であるらしい。 彼を見ていると、シロアリへのこだわりこそが技術を生み出すものだということがよくわかる。 駆除現場から遊離した試験問題で「一人前」になることとはまったく異なる世界である。 2004/3
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