ドリルの「被害」にご用心
シロアリの被害よりもドリルの「被害」のほうが多い家がある。
どういうことかというと、シロアリの駆除でマニュアル式にドリルで木材に穴をあけて処理すると、シロアリの食べた木材量よりもドリルの木屑のほうが多くなってしまうということである。これでは本末転倒である。
ある床下でのことだが、床束に1本のヤマトシロアリの蟻道があって、束と大引の接合部をわずかにかじっている。この場合、蟻道を壊し、束石周りの土を処理し、木材表面に軽く薬剤処理すればすむことである。
ところが、そこを処理したある大手床下産業は、束に10ヶ所程度、大引にも5ヶ所、そのうえなんと、か細い根太にまで3センチ間隔で穿孔している。まさにシロアリも裸足で逃げ出す甚大な「被害」だ。
ほかの床束でも蟻道を追うように等間隔で穿孔してあったり、玄関では小縁の厚い板の木口にも穿孔してある。シロアリの生態から言うとまったく無駄であるし、健全な木材を台無しにするでたらめなやり方である。
そのうえ唖然としたのは、穿孔した穴の周りに残っている薬剤の跡から明らかにマイクロカプセル剤が使用されている。マイクロカプセル剤は木材に浸透するものではないのだから、穿孔して注入する意味はまったくない。こんな処理に60万円も支払った客が気の毒でならない。
だいたい、駆除における穿孔処理というのは木材の中に薬剤を注入するものではない。シロアリに薬剤を投与するために行うものであって、予防的な意味はまったくない。そもそも、木の中からシロアリは発生しないのだ。ここにもシロアリ対策と木材保存との混同が現れている。
こんなやり方が放置されているのに、国はこのマイクロカプセル剤の原体だけを規制しようとしている。まったく愚鈍と無知がやりあっているようなものである。
アフガン空爆にも似た力ずくの大量散布やマニュアル的なやり方が停止されないなら、今後シロアリの生態に合った優れた剤形のどれもがすぐに使用できなくなり、結局はますます「効かない薬剤の大量散布」が定着してしまうのである。
2001/12