税理士法人新設の問題の矛盾
松井吉三
日税連は平成
13年通常国会に税理士法改正案を上程するシナリオを描いている。税理士法人の新設は最優先課題であり、他の項目にちいては、同問題を解決した後とりかかることになるという見通しもある(注1)。改正作業の最終的な詰めに入っている国税庁、日税連は税理法人の規模に関して「それほど大きくしたくない」との見方をしている。平成12年4月に公開された「税理法人にかんする論点整理メモ」でも、「監査法人などと事情が異なり、税理士の場合は関与先が中小規模のものが多く、税理法人も大規模である必要はないと考えられることから、当面、上限を設けてもよいのではないか」、また「上限については、寡占化の防止という観点から設けるべきと考える」などというという意見に「寡占化の歯止め」が期待されている。日税連公表の税理法人に関する「タタキ台」でも増設事務所を禁止している。大蔵省サイドでも、巨大な税理法人ができるということになれば、指導・監督面で特別の配慮が必要となり、税務行政に支障がでるということであろう。自民党税制調査会でも日税連の「タタキ台」の内容をほぼ受け入れる見通しとの声もある。しかし、規制改革の基本線で、弁護士法人とかの法人制度新設を要求しているのはアメリカ政府筋であり、アメリカが閉鎖的なシステムを変えろと言っているのであるから、改正案の最終段階で社員数の上限が蹴られる可能性がある。案の定、日税連の平成12年9月公開の「税理士法改正要望書(案)」では社員数の上限が撤廃されている。その代わり、増設事務所の禁止ということで寡占化の歯止めを期待しているようである。基本的矛盾がある。業務範囲の拡大、税制の複雑化のために、税理士の共同体としての法人の必要性を説きながら、他方で寡占化を危惧するというのは、どう考えても納税者の利益になることではない。
税理士会にとって、税理士法人の設立は長年の懸案であった。しかし、内容が税理士事務所経営寄りとされ、時期早尚として門前払いをくっていた。しかし、このところの規制緩和の波により、実現しそうな運びとなり、法人設立の許可取り消し、懲戒処分について他士業とほぼ同じ内容として、一挙に法体系を整備して法案化にこぎつけたいもようである。
もともと「タタキ台」の内容は会計法人の鞍替えという意味合いを出ていない。というのも複雑な税務問題を共同で解決するという視点よりも、事務所経営の安定化、相続の容易性、従業員の安定的確保といった事務所経営寄りの内容となっているのは否めないからである。
税理士法人の問題は税理士の地位向上とは関係ない。それゆえ学問上の問題になることも少なかったのではないか。大蔵省による税理士の監督権、税理士会の自治権といった問題も宿題のままである。ドイツでは改正税理士法で
2000年7月より、税理士資格付与、撤回、税理法人の承認、及びその撤回の権限が税理士会の権限となった(注2)。日本の税理法人構想は、税理士の死亡等の事業承継の容易性、勤務税理士をパートナーに格上げできること、法人組織による資金面の調達の有利性など、主として経営上の有利性を前面に出したものと考えられる。複数の税理士の目で事案を多角的に検討できるというメリットもあるのであるから、例外的に税理法人を認めるというのは、ドイツの先例に倣うということで良い面もあるかも知れない。しかし、ドイツでは税理士に租税に関する訴訟代理権が認められており、税理士の社会的地位が高い。その点でリスクも大きくなるということがある。そのドイツでも改正税理士法では、税理法人の名称がないパートナー会社でも、パートナーが税理士、弁護士、公認会計士、
EU域内の同種の専門家で構成されている場合は、税務援助可能になった(注3)とのことである。このように一回認めると後の改正で範囲拡大となり、自分で自分の首をしめるということにもなりかねない。事務所の増設が禁止されているからとはいえ、社員数の上限が撤廃されるということになれば、小さな税理法人ばかりでなく、大きな税理法人があちこちに誕生する可能性がある。規制緩和の流れからいって、事務所の増設も解禁されるのは目に見えている。既存の税理士業界に打撃となるのは必至である。
このように経営面の有利性で法人化ということになれば、税理士業界全体がサービスの低下を通じて、お客様の信頼を失うことになりはしないかと危惧するものである。
注
1:潟Gヌピー通信社平成12年6月の税務情報4より。注
2:三木義一「ドイツ税理士法第7次改正の概要」http://www.nona.dti.ne.jp/~ymiki/foreign/stg7.htm
2000年8月30日閲覧分。このほか本年
7月1日より施行されたドイツの改正税理士法では、EU域内の国の税務専門家及び社団がそれぞれの国の専門家名称でドイツでも税務を担当することができるようになったという重大改正があった。したがって近隣諸国の税理士等が低料金でドイツ人の自営業者の記帳申告代行業務をすることができる。注
3:同上HP。