主要税制の実態と特徴                                   

 わが国で、「税金」というと、お上からむりやりとられるものだという意識がある。この無償性と強制性は、確かに「税金」の側面を言い得ている。一方、アメリカのIRS(国税庁)の玄関に掲げられてある、「税とは文明社会の対価である」という考え方もある。いずれが正しいのかという問題ではなく、「税金」についての見方は、各国それぞれの歴史的背景もあり、一様ではない。

 本章では、わが国の主要税制として、@所得税A法人税B消費課税C資産課税について述べよう。C資産課税では、利子・配当課税、株式譲渡益課税、土地課税などが代表的な税目である。あらかじめ表1によって、国税の推移を見ると、直接税としての所得税、法人税、間接税としての消費税、酒税などが代表的であることがわかる。

T 所得税           

                                         伊藤邦男執筆

 わが国の所得税の税収は、表1より1995年度(当初)で約21兆3500億円で、租税収入に占める割合は37.6%である。戦後一貫して最も重要な税目であり、今後ともその地位に変動はないと考えられる。

 所得税は、すべての税のなかで、最も公平な税だと考えられている。その理由は、所得税が「所得」という客観的で確実な指標を課税標準にしているからである。すべての人々は、所得を得て、それで日々の生活を営んでいる。所得の多寡によって貧富を知ることができるし、生活水準の差を図ることもできる。それ故、所得こそが各個人の担税力を正確に計ることのできる最良の指標だといわれている。

 1 所得税のしくみ

 所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に個人が稼得した所得に対して課せられる税金である。所得税には、自営業者などが自分で計算して納める「申告所得税」と、サラリーマンなどが毎月の給料から天引きで徴収される「源泉所得税」の2種類がある。所得税は、原則とし

 表1 挿入
て総合課税主義を建前としており、10種類の所得を合計した総所得金額から所得控除額を差し引き、その残高の課税総所得金額に超過累進税率を適用して算出される。

 1)所得の種類

 所得はその発生形態によって、以下の10種類に分けられる。@利子所得、A配当所得、B不動産所得、C事業所得、D給与所得、E退職所得、F山林所得、G譲渡所得、H一時所得、I雑所得、このうち利子、配当、譲渡所得は資産性所得としての性格が特に強いものである。

 2)所得控除

 課税所得を算出するとき、総所得金額から各種の控除を行うことが認められている。その種類は全部で16種類あり、所得者本人及びその扶養家族が該当する控除がある場合に限って適用できる。所得控除は、人的控除と物的控除に分けられる。

 人的控除には次の9種類がある。@障害者控除、A老年者控除、B寡婦控除、C寡夫控除、D勤労学生控除、E配偶者控除、F配偶者特別控除、G扶養控除、H基礎控除。

 物的控除には次の7種類がある。@雑損控除、A医療費控除、B社会保険料控除、C小規模企業共済等掛金控除、D生命保険料控除、E損害保険料控除、F寄付金控除である。

 3)税額の計算

 税額は、8種類の各種所得金額の合計額(退職所得と山林所得は分離課税だから除く)から、所得控除を差し引いた金額(課税総所得金額)に税率を適用して計算する。現行の所得税率は、10%から50%の5段階超過累進税率となっている。

 超過累進税率というのは、たとえば課税所得950万円の場合、そのうち330万円については10%、それを超えて900万円までの570万円については20%、残りの50万円については30%がそれぞれ課される、というものである。したがって、この所得者の税額は、

 (330万×10%+570万×20%+50万×30%=162

で162万円となる。950万×30%=285万ではなく、950万円に対しては17.05%の負担なっている。

 4)税額控除

 税額控除は、課税所得に税率を適用して算出された所得税額から直接、税額控除されるものであって、所得控除とは異なる。税額控除には、配当金の二重課税を調整するための@配当控除、わが国と外国での二重課税を調整するためのA外国税額控除、そして一定の借入金により住宅を取得した場合に適用されるB住宅取得等特別控除がある。

 5)給与所得控除

 給与所得には、事業所得などに認められている必要経費がないかわりに、給与所得控除が設けられている。控除額は法定されており、1995年度では、控除率は給与収入180万円までの金額の40%、360万円までの30%、660万円までの20%、1000万円までの10%、1000万円超の金額の5%となっている。つまり、給与収入が大きくなるほど、適用される控除率は小さくなるしくみである。

 たとえば給与収入1200万円の場合、給与所得控除額は次のように計算される。

180万×40%+180万×30%+300万×20%+340万×10%+

200万×5%=230

 したがって給与所得は、1200万円−230万円=970万円となる。 給与所得控除につしては、大島サラリーマン訴訟がよく知られている。

その内容は、他の所得者には認められている必要経費の実額控除をサラリーマンに認めないのは憲法違反である、というものであった。

 この裁判は、1966年に訴えがなされ、1985年3月に最高裁の判決が下された。その判決では、給与所得控除には次のような4つの性格が織り込まれていると解釈された。つまり、@必要経費の概算控除、A他の所得と比べての給与所得の担税力の低さの調整、B所得種類間の捕捉率格差の調整、C申告納税と比べた源泉徴収に伴う早期納税の金利分に対する調整、の4点である。

 この判決によって、給与所得控除は合理的であるとの結論に至った。

 6)源泉徴収制度

 わが国では、納税義務者が自主的に所得金額と税額を計算して確定申告をする申告納税制度が採られている。しかし、現実には給与、利子、配当、退職などの所得については、その所得が支払われる段階で、所得税が徴収されるという源泉徴収制度が採られている。これは徴収の確実性と納税の簡素化を目的としている。

 税金を徴収する側の国にとって、この源泉徴収制度は非常に便利な制度であるといえよう。というのは、低い徴税コストでほぼ100%捕捉した所得の税金が、毎月、自分のフトコロに入ってくるからである。これほど心強い制度は他にはなかろう。

 一方、納税する側からみれば、源泉徴収後の金額に目を奪われがちであるから、あまり納税意識はない。特に、サラリーマンなどの給与所得者は毎月天引きで納税させられているにもかかわらず、納税意識は薄い。これに対して、申告納税者は、年に1度だけ、確定申告によって納税している。予定申告分の納税(年2回)をいれても1年に3回の納税であるから、痛税感があり、納税意識は高い。

  1995年度の所得税に占める源泉分の割合は、約8割にも達している。約2割が申告分である。

 2 所得税改革の方向

 1) 所得捕捉率

 税負担における公平性の確保は、非常に重要な位置を占めている。特に、所得税の場合には、所得を担税力の指標とすることによって、担税力に応じた課税(応能原則)を可能にする。

 所得税の応能原則には、2つの側面がある。1番目は、等しい経済状態にある人に対する課税上の等しい取扱い、つまり「水平的公平」である。

 2番目は、異なった経済状態にある人に対する課税上の異なった取扱い、つまり「垂直的公平」である。わが国では、源泉徴収制度と申告納税制度との納税方式の違いや、勤労所得と資産所得の取扱いなど、水平的公平あるいは垂直的公平を阻害するさまざまな要因が存在している。なかでも所得捕捉率の問題は、給与所得者と自営業者との間に顕著に現れる。給与所得者は、源泉徴収制度によりその所得を発生時に100%捕捉されてしまうのに対して、農業や自営業などの事業所得者は、「必要経費」が認められ、自主的に申告納税することが建前となっている。その必要経費のなかに生活費を混入させても、税務当局の税務調査がないかぎり、「悪事」は判明しようがない。給与所得者もそのことに感づいており、他の所得者との所得捕捉率が、9・6・4(クロヨン)とか、10・5・3(トーゴーサン)ではないか、という疑念を抱かせている。クロヨンの「ク」とは給与所得者が9割捕捉されるのに対して、「ロク」は非農林の事業所得者が6割、「ヨン」とは農業所得者が4割程度しか捕捉されていないのではないかという場合の疑惑の捕捉率である。

 他人より多くの税金を負担させられているという意識が蔓延したならば、納税モラルが低下し、国家財政どころか国家そのものが成り立たなくなる。所得捕捉率の差違をなくす手段としては、企業と税務当局とをコンピューターでオンライン化するのが、一番確実な方法である。もちろんプライバシーに属する情報は厳密に守秘する必要があるが、「税務」に関する情報は、企業と税務当局相互間で、自由に閲覧できるネットワークを設ける。そうすれば、所得捕捉率の問題は雨散霧消するに違いない。

 2)税率構造

 所得税の累進度は、税率表の持つ累進度から分かる。シャウプ勧告後の1950年の税制では、税率表は20%から55%まで5%刻みの8段階であった。その後、昭和30年代からの高度成長期の所得上昇による急激な負担増を防止し、負担ができるだけなめらかに増加するように、限界税率を小幅にして税率の刻みの数を増やしていった。同時に最高税率も引き上げられ、1970年から1983年までは、19段階(10〜75%)の税率表が用いられた。1984年から1986年までは、10.5%から70%までの15段階となり、1987年は10.5%から60%の12段階となり、1988年は10%から60%の6段階となった。1989年以降は、10%から50%までの5段階となつている。

 1993年11月の政府税制調査会「今後の税制のあり方についての答申−公正で活力ある高齢化社会をめざして−」(以下「中期答申」という)において、最高税率を現行の65%(所得税50%、個人住民税15%)から50%(個人住民税を含む)程度に下げるよう提言している。

 表2から分かるとおり、国際的にみても、わが国の累進度は高い。税率の刻みを5段階から3段階程度に移行し、最高税率も米英並みの40%程度に下げるべきである。

 3)課税ベース

 わが国の所得税制は、総合課税主義を建前としているにもかかわらず、課税ベースが浸食されて、水平的公平が保たれていない。山林所得や退職所得は、他の所得と分離する「分離課税方式」であり、利子・配当などの資産性所得は、租税特別措置法によつて源泉分離課税が選択できる。また、個人が株式などを売却して得た譲渡所得についても、原則的には、申告分離課税であるが、上場株式等の売却については、源泉分離課税を選択できる。さらに、土地・建物などの譲渡所得に対しても源泉分離課税がなされている。

 総合課税が原則としながら、これらの所得は他の所得と分離され本来の高い累進税率の適用を受けないため、水平的公平を阻害し、総合課税主義を著しく歪める結果となつている。

 今後の直接税における課税ベースの選択については、現在、改革の方向として2つの対立する見解がある。一つは、現行のつぎはぎだらけの所得税を本来あるべき元の姿に戻すという見解である。これは、包括的所得税(Comprehensive income tax)の実施を提案する立場である。もう一つは、

 表2 挿入
所得税を縮小してあるいは廃止して、消費課税ベースの直接税を税制の主柱に据えようとする見解である。これは、消費を課税ベースとする直接税としての支出税(Expenditure tax)の導入を提案する立場である。

U 法人税

                                           伊藤邦男執筆

 わが国の法人税の税収は、表1より1995年度(当初)で約13兆7200億円で租税収入に占める割合は、24.2%である。1988年の36.3%をピークとして約12%も減少したことになる。それでも、所得税に次ぐ重要な税目であって、将来においても、その地位は変わらないものと思われる。

 1 法人税の根拠

 法人に課税する根拠は何かを考えると必ずつき当たるのが、「法人擬制説」と「法人実在説」という相反する2つの考え方である。

 「法人擬制説」とは、法人は単なる株主の集合体にすぎず、法人が獲得したもうけは、究極的には株主個人に帰属するものであるから、法人税は単に株主に対する所得税の前取りにすぎないとするものである。一方、「法人実在説」とは、法人はその構成員である株主とは別個の独立した法律的・経済的主体であり、独自に担税力を有する存在であるから、法人税は法人独自の担税力に応じた税であるとするものである。

 この2つの異なった考え方は、法人税の仕組みのうえで、法人が株主に支払う「配当金」の課税のあり方について、その支払段階での法人税課税と受取段階での所得税課税という、いわゆる二重課税を調整すべきか否かという点で具体的に問題となる。

 「法人実在説」の考え方をとった場合には、法人税と所得税とを別建ての制度の税金として捉える以上、二重課税とはみないから、両税の調整の必要はない。アメリカはこの考え方に近い。

 「法人擬制説」の考え方を採用し、配当に係わる二重課税を調整するとした場合、その方式として次の4つがある。

 1)配当損金算入方式

 法人が支払う配当を損金に算入する(法人税の課税所得から控除する)方式である。この場合、当然、支払われた配当が株主段階で課税される。

 2)二段階税率方式

 法人税率を内部留保にかかる税率と、配当にかかる税率とに二本立てにしたうえで、配当分についてはより低い税率を適用するという方法である。 3)配当税額控除方式

 法人の所得に対しては法人税を課税するが、株主段階では受取配当を他の所得と総合して算出された所得税額から受取配当の一定部分の税額控除をするという方法である。

 4)インピュテーション方式(法人税加算調整方式)

 法人の所得に対しては、内部留保した所得と外部に配当した所得の区別なく法人税を課すとともに、配当に充てられた部分について、それに対する法人税を受取株主の所得税の源泉徴収(前取り)として取扱う方法である。具体的には、株主の段階で、受取配当額プラスそれに対応する法人税額の全部または一部を株主の所得に加算して所得税額を算出し、その後、加算した法人税相当額を税額控除することとなる。この方式は、イギリス、カナダ、ドイツ、フランスなどでとられている。

 わが国においては、シャウプ勧告(1950年)によって法人擬制説がとられ、個人株主の段階では、3)の配当税額控除方式がとられ、法人株主においては、法人間配当益金不算入制度がとられた。その後、1961年から、法人所得のうち配当分については支払配当軽課制度が採用された。しかし、この方式は、二重課税の排除をする必要のない外国人株主にまでその効果が及んでしまうので、1990年で廃止され、法人段階での調整は行わないこととなった。法人間配当については、株式保有割合25%以上の特定株式等からの受取配当は全額益金不算入とされるが、それ以外のものについては20%を益金に算入することとなった。個人株主段階での配当控除制度は残されている。

 2 法人税のしくみ

 法人税には3種類ある。一つは、法人の毎事業年度のもうけにかかる法人税で、これを「各事業年度の所得に対する法人税」という。我々が通常「法人税」と呼んでいるのがこれに当たる。

 2番目は、会社等が解散して株主などに財産を分配するときにかかる法人税で、これを「清算所得に対する法人税」という。例えば、会社が所有している土地などが値上がりしても、それを売却しないかぎり、会社の利益として計上されないので、会社を解散して財産を清算するときに課税しようという理由である。

 3番目は、保険会社が各企業から集めた退職年金の積立分にかかる法人税で、これを「退職年金等積立金に対する法人税」という。

 1)法人所得の算出

 所得税の課税期間は、1月1日から12月31日までの暦年であるが、法人税の課税期間は、各法人が選択した1事業年度である。つまり3月期決算法人ならば、4月1日から翌年3月31日までの1年間である。法人の各事業年度の課税所得は、その事業年度の益金(収益)から損金(経費)を差し引くことによって算出される。益金は、企業会計上での売上高などであり、損金は、企業会計上での売上原価や販売管理費に当たるものである。しかしながら、企業会計上の決算利益と税法上の課税所得は、通常の場合、一致しない。というのは、企業会計上の決算利益は、利害関係者に経営成績を報告することが目的であるのに対して、税法上の課税所得は、税負担の公平を目的としているし、さらに産業政策上の配慮をも加味しながら算出されるからである。

 企業会計による決算利益をもとに、税法独自の規定−つまり、益金算入、益金不算入、損金算入、損金不算入という規定−を通して、正しい課税所得が算出される。益金算入となるのは、法人税額から控除する外国子会社の外国税額、売上洩れなどであり、益金不算入となるのは、受取配当、資産評価益、税金の還付金などである。また、損金算入となるのは、保険会社の契約者配当、繰越欠損金などであり、損金不算入となるのは、法人税や住民税、過大な役員報酬などである。

 2)減価償却制度

 建物、構築物、機械装置及び什器備品などは時間の経過や使用によってその価値を減耗していく。こうした資産の価値の減少を適正に計算し、使用期間各期に費用として配賦する手続きを減価償却という。

 取得価額が20万円以上の減価償却資産は、一度に費用とはならず、その耐用年数にしたがって各期に費用として配分される。耐用年数とは資産の使用可能期間のことをいい、資産の種類や構造、用途に応じて大蔵省令で細かく区分され、規定されている。このほか、租税特別措置法では、政策的な目的から多数の「特別償却」を容認している。

 耐用年数が、日本ほど細かく規定されている国は珍しい。例えば、ドイツでは建物を除く償却資産の耐用年数は法定されておらず、当局のガイドラインとしての年数はあるが、会社は実状に応じて耐用年数を決めることができる。また、アメリカでは、投下資本回収制度(CRS)として3年から39年までを7区分して規定しており、大部分の機械類は5年である。

 3)引当金・準備金

 将来発生することが確実である費用や損失をあらかじめ予測して、その期の費用として計上するのが、引当金の繰り入れ、準備金の積立てである。法人税法で損金算入が認められているのは、@貸倒引当金A返品調整引当金B賞与引当金C退職給与引当金D特別修繕引当金E製品保証等引当金の6つである。

 準備金の積立ては、租税特別措置法で産業政策上の目的から認められているもので、輸入製品国内市場開拓準備金、特定災害防止準備金などで約20種類がある。これらの準備金は必ずしも当期利益に対応するものではなく、「不公平税制」の要因となっているものも少なくない。

 4)交際費課税

 交際費等とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先・仕入先その他事業に関係ある者等に対する、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう」(措法61の4B)とされている。

 法人が支出する交際費は、事業遂行上、必要な費用であるが、冗費節約の観点から、法人の資本金額の多寡に応じて次のとおり損金算入が制限されている。

 @資本金5000万円超…全額損金不算入

 A資本金1000万円超5000万円以下…原則として300万円(年

  額)を超える部分は損金不算入

 B資本金1000万円以下…原則として400万円(年額)を超える部

  分は損金不算入

 交際費の損金不算入制度が創設されたのは1954年であった。当時は、朝鮮戦争ブーム後の景気停滞期であつたが、輸出競争力の弱かった日本企業の資本蓄積に資するためと、法人の交際費の濫費抑制を目的として設けられた。

 5)法人税額の計算

 法人税の税額は、法人の課税所得に法人税率を適用することによって得られる。ただ、法人税率は、資本金及び所得の多寡に応じて定められている。大法人は所得がいくらであっても法人税率37.5%が適用され、中小法人は、所得が年800万円以下の分については28%、年800万円超の分については大法人と同じ37.5%(税率は1990年4月以後)が適用される。

 協同組合等と公益法人等については、法人税率が軽減されているが、人格のない社団等は、普通法人と同じである。

 3 法人税改革の方向

 1)実効税率

 わが国は、国際的にみて、法人の税負担が重すぎることが企業経営の活力をそぐ要因となっている。そのため、軽課税国へ企業が流出しており、

表3 挿入
日本経済のいわゆる「空洞化」が懸念されている。表3よりわかるとおり、日本の法人税の税全体(社会保障負担を含む)に対する負担割合は、1990年度で21.5%と他の諸国に比して極端に高いことがわかる。

 ちなみにこの割合は、イギリスで11%、アメリカで7.3%、フランス5.4%、ドイツでは、3.7%である。

 もっとも各国の課税ベースが異なるため、単純には税負担の高低を論じえない。そこで、法人税率の比較をしてみよう。表4には、主要国の税率水準及び実効税率が示されている。実効税率は法人の所得に対する国税と地方税を合計した税負担を表すものである。

 日本の実効税率は、ドイツとほぼ同じで高い水準にある。つまり、所得の半分が租税として徴収され、アメリカのような超過累進税率による実体説的課税を行っている国よりも高いということになる。

 この際は、1993年の「中期答申」が示唆するように「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる基本的方向」を目ざすことが肝要である。

 2)赤字法人

 赤字法人とは、法人の1年間の全収入(益金の額)から全経費(損金の額)を差し引いたときにマイナスとなる法人をいう。赤字法人の割合は、1987年度で初めて50%を超えた。その後一時期50%を割ったがバブル経済崩壊後再び上昇し、1993年度では全法人数234万4134社の59.1%に達している。この数字は、1951年度に調査を開始して以来最高のものである。

 従来、わが国の法人税制は所得課税方式(黒字部分に課税)のため、所得のない法人は、1円の法人税も課されない。しかし、赤字企業でも、道路・下水道など公共サービスの恩恵を受けている以上、何らかの税負担を求めるべきだという意見が強くなってきている。

 この赤字法人課税の問題は、1983年11月の政府税制調査会の答申で初めて言及された。答申では、「最近の法人申告状況をみると、全法人の約50%が赤字申告を行っている。これらの法人についても公共サービスを享受していること等から何らかの応益的負担を求めてもよいのではないか、との意見」があると述べ、今後の検討課題としている。

 1993年の「中期答申」においても、「所得課税の枠内で何らかの措置が講じられないか検討する必要がある」と述べている。具体的な課税方法は、「答申」では挙げていないが、次の案が考えられよう。

 @資本金額に応じて一定の税金を納める「均等割方式」

 A人件費など特定の支出項目に一定比率で税金をかける「経費課税方式」

 B売上に一定比率をかける「外形標準課税方式」

 このうち、「均等割方式」は、すでに地方税で実施している法人住民税

の均等割りと同じ方式である。「経費課税方式」は、特定の支出項目の大きさを税負担能力のモノサシにするもので、課税対象としては、従業員への給与総額などが考えられる。「外形標準課税方式」は、収入金額に一定率をかけて課税する方法であり、現行の法人事業税の一部ではこの方式をとっている。電気やガスの供給業及び生命保険や損害保険の事業にあっては、収入金額を課税標準として事業税が課されている。

 国税である法人税はともかくとして、「三割自治」などと呼ばれて自主財源の乏しい地方公共団体には、「外形標準課税方式」を全法人に適用させて地方税の安定財源としてもよかろう。

 3)公益法人

 法人税法上の公益法人は、法人税法別表第1に掲げる法人のことをいい、限定列挙されている。具体的には、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、日本赤十字社、労働組合などである。

 公益法人の事業収入は、公益事業に関わるものと収益事業に関わるものとの2種類に分けられる。このうち、収益事業部分の収入についてのみ法人税が課せられることになっている。その税率は27%であり、一般の普通法人の基本税率が37.5%であることを考えると、かなり優遇されていることが分かる。その理由は、公益法人の公共性を考慮に入れて、一般の営利法人と同等に取扱うのは酷であるからであろう。

 1993年の「中期答申」では、「公益法人等の中には、その活動について世論の批判を受けているものもあるが、公益法人等の活動そのものについては、一義的には主務官庁による適正な指導・監督に期待したい」として、税制上の新たな提言はしていない。

最近の公益法人の経済活動は活発で、普通法人顔負けの事業活動が展開されている。例えば、投資に基づく金融収益、お寺の駐車場経営などがある。普通法人の事業を圧迫するような「公益法人」には、普通法人並の取扱いにすべきである。

 V 消費課税

                                              松井吉三執筆

 1 消費課税の種類と仕組み

1)租税の転嫁

 消費を課税ベースにするものとして一般的に考えられるのは間接税としての消費課税である。これには課税対象を限定する個別消費課税と、限定しない一般消費課税がある。このほか消費を課税ベースとする直接税の消費課税の実施可能性が知られており、「支出税」と呼ばれている。法律上の納税義務者が、税額担当分を市場機構により他者に移転させることを、租税の転嫁と呼んでいる。転嫁が消費者に向けられる場合を前転、転嫁が労働力など生産要素の提供者に向けられる場合が後転と呼ばれる。間接消費税は、前転を予定する税である。「支出税」では、納税義務者が税額を自ら負担する。転嫁は、市場を通じて行われる。したがって、徴税当局が転嫁を想定しない法人税等の直接税であっても、企業が税負担を消費者、労働者に移転させる可能性がある。逆に、間接消費税であっても、消費者が税を負担せず、下請先、あるいは企業の労働者が実質的に税を負担する場合もあることになる。転嫁による税負担のことを「帰着」と呼んでいる。

 個別消費税は、個別的な商品ベースにより、税の転嫁を想定する税である。税による価格引き上げの程度は、個々の商品の需要と供給の価格弾力性に依存する。一般消費税では、軽課あるいは非課税の商品あるいはサービスが他の別の商品の中間生産物になるなど、増税衝撃が多面的となる。また、非課税部門への参入などの企業の対応も予想される。

 2)個別消費課税

 個別消費課税は、酒、たばこ等の嗜好品課税、旧物品税、入場税等の個別物品又はサービス課税、印紙税、有価証券取引税等の流通税、揮発油税、地方道路税、自動車重量税等の特定財源、それに関税等がある。第二次大戦前には、経済力の低さを反映して、酒税等の嗜好品課税が国税収入の中心をなしていた。最近では、消費税導入とともに物品税、入場税、砂糖消費税等が廃止されたことにより、個別物品又はサービス課税は姿を消している。

 酒税、たばこ税の嗜好品課税は、揮発油税、地方道路税、自動車重量税等の特定財源とともに着実に税収を伸ばしている。1995年度の当初予算でみると、嗜好品課税と特定財源の諸税は、国税収入の14%、国税間接税収入の43%を占めている。他方、消費税は、国税収入の13%、国税間接税収入の40%を占めている。つまり、消費税以外の個別消費税が国税間接税収入の60%を占める。個別消費税が一般消費税以上に貴重な国税であることが分かる。嗜好品課税は、砂糖消費税が廃止された現在、酒とたばこに対する税金である。酒とたばこは必ずしも生活に必要な消費財ではない。しかし、国民のあらゆる所得階層に好まれて広く消費される。且つ、毎年一定の金額以上を酒、たばこに支出する傾向にある。したがって、安定して多額の収入を確保することができる。

 酒税は、製造者が工場より移出した又は課税地域より引き取った酒類の区分について、移出量をベースに課税される(酒税法第6条)。酒税は国税収入の4%、間接税収入の12%を占める(1995年度当初予算)。酒税収入の77%がビールに対するものである。残りの10%が清酒、8%がウィスキー類、3%が焼酎である(1993年度)。小売価格に占める酒税額の割合でみると、ビールが46%、ウィスキー640mlが50%で高く、清酒が特撰で15%、佳撰で18%と低く、焼酎甲類(連続式蒸留機で蒸留したもの)が26%と若干高めになっている(1995年1月現在)(1)。税収確保を旨とする税であるので、多量に嗜好される酒類ほど、税率が高いのが酒税の特徴である。現行では、ビールは1キロリットルにつき222,000円とアルコール度の割に異様に高くなっている。

 たばこ税は、1992年度以後国税収入の1.9%程度と、国税収入としては酒税の約半分程度である。喫煙用等の製造たばこについては、1,000本について3,126円と一律に課税されている。しかし、国税としての「たばこ税」のほか、それとまったく同額の地方税としての「たばこ消費税」により、たばこの税金は、国と地方に分割されている。国、地方あわせると、たばこの税金は約2兆円となり、国税の酒税に匹敵する。大衆嗜好品課税として、たばこ税は酒税と大変よく似ている。下位所得層と上位所得層の消費格差が、たばこは酒よりも小さいことが日本の統計で確認されている。たばこ税は従量割一本であるので、所得に対して「逆進的」な負担となることは酒税と同様である。

 酒税、たばこ税と並んで個別消費税の柱となっているのが特定財源である。特定財源というのは、法律によって税収を特定の支出の財源と定められたものである。この内、使途を税法のなかに定めたものを目的税といい、他の立法によって使途を定めたものと合わせて、特定財源と呼んでいる。

 道路整備を目的とする特定財源の中枢を占めるのが、揮発油税である。税法上は、国の一般財源であるが、道路整備緊急措置法により1993年度より5年間は、金額が国の道路特定財源とされている。4分の1は地方の交付金の財源に充てるため直接道路整備特別会計に組み入れることとされている。課税物件は揮発油である。揮発油に対しては、都道府県及び市町村に対して、道路財源を譲与するために、地方道路税も課されている。

 揮発油税及び地方道路税の税収は、1995年度当初予算では、2兆7千億円強であり、国税収入の4.8%、国税間接税収入の14.6%を占める。ガソリンの消費の安定的な伸びにともなって、課税数量と税収が着実に増加している。

 ガソリン課税に次いで税収をあげる特定財源は、自動車重量税である。1995年度当初予算では、約1兆円の税収が見積もられている。4分の3は国の一般財源であるが、4分の1は市町村の道路特定財源として譲与されている。課税物件は乗用車、トラック、バス等である。税率は、自家用に比較して営業用車両が軽課されている。

 国税としての特定財源は、自動車の走行、保有に対して、道路整備のため課税するというのが中心である。自動車の取得に対しては、都道府県が自動車取得税を一般財源として課税している。自動車の保有に対しては、都道府県が、地方公共団体の道路特定財源(7割市町村、3割都道府県)として、自動車税を課税している。軽自動車の保有に対しては、市町村の一般財源としての軽自動車税が課税されている。軽油に対しては、都道府県及び指定都市の道路特定財源として、都道府県が軽油引取税を課税している。燃料を含めて自動車関連の税金は、乗用車、自家用で高く、営業用、トラックで安くなっている。

 3)一般消費税の種類

 個別消費税が個々の商品あるいはサービスを課税対象とするのに対して、一般消費税は、原則として全ての商品及びサービスを課税対象とするものである。一般消費税には商品流通の全ての段階に課せられるものと、小売段階など特定の段階を選んで課税するものがある。多段階で課せられる一般消費税には、売上げの税額から仕入れの税額を控除することにより、前段階の税額を控除するものと、課税が累積するものとがある。前段階の税額を控除しない場合、課税段階を経過するたびに、いたずらに税額が累積することになる。価格の騰貴と価格体系の破壊により、商品流通と個人消費に与える打撃が大きく、また、垂直的に統合された企業に有利である。

 ヨーロッパ諸国では、1960年代の後半期より前段階税額控除方式の付加価値税が導入されている。1964年にフィンランド、1967年にデンマーク、1968年にフランスとドイツ、1969年にオランダ、スウェーデン、1970年にノルウェー、1971年にベルギー、1973年にはイギリス、イタリアで導入されている。西欧以外でも、1977年に韓国、1986年にニュージーランド、1991年にはカナダで付加価値税が導入されている。付加価値税の現行税率は(1993年1月現在)、標準税率15%がドイツ、ルクセンブルグ、スペインであり、イギリスが17.5%、フランス18.6%と高くなっている。北欧諸国の標準税率は軒並み20%を越える高率である。スウェーデン、デンマークが25%、フィンランド、ノルウェーが22%である。韓国は10%、ニュージーランド12.5%、後発のカナダは7%である。

 付加価値税の標準税率は、各国で数次の改正を経て高くなっている。ドイツの場合、導入当初10%であったのが、5度の改正を経て現在15%となっている。標準税率が高いことにより、社会政策的見地より、各国で食料品等に対しては軽減税率が適用されている。例えばドイツの場合、食料品、水、書籍等に対しては7%の軽減税率が適用されている。イギリスでは、食料品、書籍、燃料、住宅建築、医薬品等の取引にゼロ税率が適用されている。前段階税額控除ができるのがゼロ税率であり、できないのが非課税である。ECでは、市場統合の一環として、付加価値税の標準税率を15%以上、軽減税率を5%以上、割増税率を廃止すべきという指令を1992年10月に出している(2)

 ヨーロッパ諸国及びカナダで実施されている付加価値税の前段階税額控除の方法としては、インボイス Invoice)という納税用仕送り状が用いられる。課税期間の課税売上に係わる付加価値税額から、インボイスに記載された前段階の付加価値税額を控除した金額を、納税することになる。

 逆進性緩和のためにEC諸国の殆どでは、食料品などの基礎的消費に軽減税率、ゼロ税率が採用されている。しかし、消費課税の減税は所得課税の税額控除あるいは還付を基本とすべきである。この点、カナダの新付加価値税「財、サービス税」(Goods and Services Tax)は、所得税とリンクされており、低所得者に対する税額控除制(旧製造者売上税の下でも採用されていた。家族の所得と人数に応ずる金額)と、新築住宅にかかる「財、サービス税」額の還付制(上限がある)で知られる(但し基礎的食料品、農水産物はゼロ税率である)。

 4)一般消費税(「消費税」)

 日本では、1989年4月より前段階税額控除方式の付加価値税の消費税が導入されている。消費税の導入にともない、物品税、砂糖消費税が廃止されている。税率は、3%の単一税率である。消費税の基本的な仕組みは次のとおりである。税率は3%の単一税率とする。人件費以外の販売費用がかからない場合を想定する。

 原材料供給者Aが原材料を製造業者Bに本体価格50,000円で売却する。製造業者Bは小売業者に80,000円で売却する。小売業者Cは消費者Dに100,000円で売却する。税額は全体で、3,000円であり、消費者が負担する。小売業者は3,000円を徴税当局に支払うのではなく、前段階の税額2,400円を控除した金額600円を納税する。この600円は小売業者が消費税額として小売価格とは別に受け取っているのであるから、小売業者にとっては「預り税金」の決済である。製造業者は同様に2,400円から1,500円を控除した900円を納税する。原材料供給者は1,500円から自己の前段階の税額を控除して納税する。原材料供給部門以前の業者が1,500円の税額を分割して納税する。このように、事業者の納税額と消費者の税負担額はともに3,000円である。事業者にとって、消費税は、何らの税を負担すべきものではなく、あくまでも納税時までの「預り金」なのである。

 消費に負担を求める税としての性格上、土地の譲渡及び貸付、有価証券の譲渡、貸付金等の利子、保険料、郵便切手類、印紙の譲渡、行政手数料、外国為替取引、などが非課税である。また、社会政策的な配慮に基づいて、医療保険法等の医療、社会福祉事業として行われる資産の譲渡、公教育の授業料が非課税である。

 EC型の付加価値税の前段階税額控除がインボイスにより行われるのに対し、日本では「帳簿方式」といって、課税仕入れに係わる消費税額を会計帳簿等から割り出すことにより控除することができる。仕入税額控除の適用要件として、帳簿または請求書等の保存が義務付けられている。本則計算の場合、課税売上高の総売上高に占める割合が95%以上の場合は、仕入れに係わる消費税額を全額控除することができる。課税売上割合が95%未満の場合には、個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかの方法により計算した金額を仕入税額として控除することとされている。例えば、零細小売商が印紙、切手等の販売を兼業する場合、本則計算にて前段階税額控除をする場合、非課税売上高が全体の売上げの5%を越えれば、仕入税額を課税分と非課税分とに、売上げの割合により分割して、控除仕入税額を算出することになる(一括比例配分方式の選択の場合である。このほか課税売上げに対応する仕入れの税額を選別して控除する個別対応方式がある)。

 また、簡易課税制度といって、基準期間(前々年あるいは前々事業年度)の課税売上高が4億円以下の課税期間については、選択により、売上げに係わる消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を仕入れに係わる消費税額とすることができる。消費税の導入当初には、基準期間の課税売上高が5億円以下の課税期間について、卸売業90%、その他の事業80%の二区分であった。しかし「益税」の批判により、1991年10月1日以後開始事業年度分については、みなし仕入率は、第一種事業(卸売業)90%、第二種事業(小売業)80%、第三種事業(製造業等)70%、第四種事業(その他の事業)60%の四区分とかなり実態に近いものとなっている。あわせて、課税売上げの帳簿等による業種区分が義務づけられることとなった。しかし、課税売上げを一々業種区分することは容易ではなく、業種認定の困難さとあわせて、徴税当局とのトラブルを多発させている。また、本則課税への移行を促進させる要因となっている。前段階の税額を取引高から平均率により算出することはドイツ、イギリス、カナダ等多くの国の中小企業者に認められている。

 基準期間の課税売上高(税抜き)が3,000万円以下の事業者は、課税事業者となることを選択した場合を除き、課税期間の納税義務が免除されている。免税点があることにより、その課税期間の課税売上高が5,000万円以下の場合、納付税額が平均的に増加するように、限界控除制度が設けられている。消費税導入当初は、課税売上高が6,000万円以下の場合に、認められていた。簡易課税と限界控除を併用することは認められており、消費税導入当初には、課税売上高が6,000万円以下の製造業、サービス業の事業者の納税額は、消費税の転嫁が完全になされた場合には、大幅に減少したものと思われる。

 免税事業者が消費税率相当分を価格に上乗せすることは、消費税の過剰転嫁による「益税」を発生させる。逆に、免税事業者が仕入れに係わる消費税分の転嫁しない場合には、前段階税額分のコスト・アップにより、「損税」が生じる。免税事業者が本体価格の税率相当額を消費税額として受け取ることは、消費税法の意図とするところではないとされている。しかし、免税事業者であるからといって、中途半端に消費税額を受け取ることは実務上不可能である。実際には、消費税導入により、益税なり損税が発生しているわけである。免税点が高いことは、消費税の価格転嫁を不明確にする。このため、ヨーロッパ諸国の付加価値税の免税点は低めに設定されている。限界控除制度も多くの国で認められていない。日本の1992年度の限界控除適用分は、申告件数が約70万7千件と多い割に、適用金額が1,163億円と消費税額6兆5,511億円と比較して少なくなっている(3)

 2 消費課税の負担構造

 1992年度の日本の国税の間接消費課税の税収は、14兆9,254億円である。国税収入57兆3,964億円の26%を占める。国民所得は359兆9,301億円である。間接消費税は、所得の4.14%を占める。消費税の税収は6兆5,511億円。消費税と酒税、たばこ税、揮発油税・地方道路税の合計では、12兆284億円であり、国民所得の3.34%となる。

 国税に占める消費課税の構成比であるが、所得水準の上昇に伴って、1955年には46%であったのが、その後20年間で20ポイント低下して、1975年以後20−26%の水準で安定的に推移している。1992年度以後は所得課税を中心として税収自体の落ち込みにより、消費課税の比重が高まっている。消費税導入前は、従量課税の製造段階個別物品課税が消費課税の主体であったことにより、収入の水準が上昇すれば税制の変化がなくても、消費課税の地位が低下したのである。

 消費課税で安定した税収を確保するためには、生活必需品に広く課税せざるるをえない。低所得者ほど税負担が重くなるという性格(逆進性)が、消費課税にはある。したがって、消費課税の割合が高いほど、税体系の累進性が弱まることになる。また、消費課税の殆どが間接税であることにより、納税観念が希薄になる欠点もある。消費課税自体の逆進性は明確である。1990年分について、総理府の「家計調査」により、勤労者世帯の月間収入5分位階級別に、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税の主要四税の家計収入に対する負担割合を推計した。1990年の月間収入の各分位の平均額は、第T分位の271,113円、第U分位の375,269円、第V分位の 473,267 円、第W分位の576,237円、第X分位の782,962円、平均では495,841 であった。これらの間接消費税は、消費者に帰着すると仮定した。筆者の推計によれば、間接消費税の負担が一般的には低い水準にある。税負担の逆進性も軽度ながら、依然存在することが判明した。低収入から高収入に至る第1分位から第5分位の間接四税の世帯実収入(社会保障給付及び受贈金を除く)に占める割合は、それぞれ3.95、3.44、3.09、2.86、2.54パーセント、平均で3.01パーセントであった。(表5参照)

 消費税導入前の間接消費税の負担構造につては、次のようにいえる。製造税、従量税を中心とする日本の間接消費税の負担率と逆進負担性の度合いは、高度成長期には著しく緩和された。しかし、低所得層の所得の伸びが緩慢な1970年第後半以後の低成長期には、間接消費税の負担水準と逆進性の緩和は明確な形では、進んでいないということである。

 消費税の導入後では、1991年10月の簡易課税制度の制限、限界控除制度の縮小により、傾向として、間接消費税の負担水準と逆進性はごく軽徴ではあるが、強化されている。1990年の収入、消費水準を仮定すると、消費税率の5%への引き上げにより、各分位の間接消費税負担率は1.1ポイント強上昇すると思われる。

 3 消費課税の改革構想

 1)消費税の改革

 地方税を含めた消費課税の税収に占める割合は、18.6%(1990

 表5 月間収入5分位別主要間接消費税負担率

(1990年全国勤労者世帯)    (単位:円、%)

ョ「「「「「「ホ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イ

項目        月間収入5分位階級

            T      U      V       W     X     平均
1 実収入    271,113  375,269  473,627  576,237  782,962 495,841
2 消費税対象 191,328  243,477  298,350  342,276  443,503  303,787
3 酒税たばこ税揮発油税負担額

            5,136  5,829    5,958    6,516    7,005   6,089

4 消費税額   5,573   7,092    8,690    9,969   12,918   8,848
5 間接消費税
  合計負担率  3.95%  3.44   3.09   2.86   2.54    3.01
6 消費税5%仮定合計間接消費税負担率

            5.26  4.64   4.26   3.96   3.59    4.15

(注):総理府統計局消費統計課『平成2年家計調査我が国の家計消費』大蔵省印刷局、1991年、統計表10−13頁より作成。対象税目は、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税である。以上の消費課税は、すべて家計が負担するものとした。酒税、たばこ税、揮発油税の負担額の推計にあたっては、家計の平均負担額を国民所得の雇用者所得、税収規模より推定し、さらに当該支出に対する各分位の支出ウエイトにより調整して、負担額とした。

年)でOECD諸国平均の40%に比較して著しく低いものである。この割合はOECD諸国では最下位であり、アメリカの23.4%と比較して

も低いものである。

 日本では、法人税の構成比が高く、所得税の限界税率が高いこと、また所得課税なので景気動向に左右されやすいことなどにより、所得課税の税収の安定的確保が難しくなっている。所得課税には、自主申告ゆえに所得の捕捉が完全にはなされないことなどの実務上の難点もある。

 1993年11月の政府税制調査会の中期答申によれば、勤労世帯の人口の相対的減少の傾向が続いている。税制としては、世代及びライフ・サイクルを通じた税負担の平準化につながり、高齢化社会を支えるために国民一人一人の活力が十分発揮され、また安定的税収構造を目指すことが必要である。税体系全体として実質的な負担の公平を高めるためには、消費課税のウエイトを高めて、税体系のバランスをとるべきだと答申している。1994年11月25日には、税制改革法案が成立した。1997年4月からの消費税率の引き上げ等が決まったのである。

 1997年4月1日に施行される消費税の税制改革主要項目は次のとおりである。@資本金又は出資金が1,000万円以上の新設法人の設立当初の2年間については、納税義務を免除しない。A消費税率の3%から4%への引き上げ。これとは別に消費税額の25%=消費税率1%相当の地方消費税が創設される。B簡易課税制度適用上限額の4億円から2億円への引き下げ。C帳簿さえあれば、仕入税額控除の用件として請求書等の保存は不要であったのが、今回は「請求書等」の保存が義務づけられた。この「請求書等」は単なる請求書ではない。課税仕入明細書の用件を満たす必要があり、EC型付加価値税のインボイスに近いものである。近い将来の複数税率制への門戸を開いたものといえる。

 帳簿方式のままインボイス方式を徐々に整備するのは、徴税当局の実務的配慮である。税率の引き上げ幅が極端に大きくないのも、極端な増税を望まない納税者の感情を配慮したものといえる。消費税率1%の引き上げにより約2兆4千億円の増収額となる(1994年10月4日、閣議決定「税制改革要綱」参照)。公共部門の支出額も増加するので、ネットの税収増は1%に満たない。歳出の漸増が予測されており、近い将来、消費税の税率を見直す時期が必ず到来する。

 2)支出税構想

 消費課税ベースとする個人直接税、いわゆる支出税の理論が、所得課税の改革や付加価値税の導入、改革に大きな影響を及ぼしている。支出税論議は、世界的な低成長を背景として、1970年代後半から隆盛化している。石油ショック以後の世界的な経済悪化の下で、所得税の高い限界税率が貯蓄、成長を阻害するものとされ、所得税にかわるものとして意識されたからである。

 支出税の担税力は、そのときの消費可能資金である。その人の消費可能資金は生涯所得に等しい。しかし、貯蓄に対する課税を消費時まで延期することにより、生涯の消費計画を確実なものにすることができる。所得課税を中心として税体系を整備しようとすれば、全ての所得税を発生レベルで捉えた上で、包括的に課税しなければならない。しかし、現実の税制では、土地等の資産的所得に対して、売却時の売却益課税がなされる。それも、他の所得とは一部分離されて、軽減税率で課税される場合が多い。所得税の実態が理論とはかけ離れているわけである。支出税の論議は、かかる所得課税制度の不備に着目するものである。また消費を課税ベースとするので、資産所得の捕捉は所得税の場合ほど必要ではない。支出税では、税務行政の困難性も部分的に解放される。また、現実の税制が年金等の掛け金を所得控除として課税所得から外すなど、貯蓄非課税制度を併用しており、支出税的要素があるものと指摘されている。

 そこで、アンドリュース(W.D.Andrews )により、支出税の実行可能性の枠組みが示されるに及び、支出税が実行可能性の理論から、現実の実務のものとなったのである。担税力の基準として消費が所得より優れているのは、生涯稼得所得が等しいと想定される納税者の間で、生涯の消費計画が一定の条件(生涯にわたる税率不変将来の確実性、資本市場の完全性等)の下に、効用水準で比較されるからである(4)

 支出税の仕組みを簡略に説明する。支出税の課税ベースは個人の当年の消費である。支出税では、当年の家計収入から貯蓄を差し引くことにより、課税ベースを算定する。この意味で支出税は、キャッシュ・フロー個人所得税(Cash flow personal income tax )である。差し引かれる貯蓄(または投資)は、登録すべきことになり、登録された貯蓄(投資)が引き出された時には課税される。

 支出税では、労働所得ばかりでなく、原則として借り入れも課税ベースに算入される。したがって、借り入れも貯蓄と同様登録することが必要である。貯蓄は非課税ではなく、消費時までの課税の延期である。消費時の消費額での課税を原則とするので、インフレ調整、減価償却、キャピタル・ゲインの課税が不要である。また、住宅の取得も、貯蓄とみなすことにより、貯蓄控除の対象となり、課税ベースの増大を避けることができる。住宅の初年度控除を認めることになれば、みなし消費に相当する帰属収益も計上されなければならない。住宅の取得を社会通年上の判断と同じように、その年度の住宅サービスの消費と認定すれば、借り入れのみが年度の課税ベースに加算される。借り入れの返済は、支払利子を含めて課税ベースから控除される。しかし、マイナスの財産である借り入れが課税されるのでは、支出税は納税者の合意を得ることはできない。また、支出税の実施にあたり、徴税当局は、所得ばかりでなく、貯蓄、借り入れについての膨大な情報を収集する必要がある。このように、支出税を原則どおりに実施することは、所得税の場合以上に困難である。

 しかしアンドリュースの論文によって、登録すべき資産を登録しないことによっても、同等の効果が得られることが知られるに至り、支出税の実施可能性が大いに高まったといわれる。税率等が不変である場合、実施すべき貯蓄(投資)控除を否認することにより、貯蓄時には課税ベースが膨張する。しかし、貯蓄控除を実施しないことは、貯蓄控除を通常どおり実施する場合に比較して、税を前納するのにすぎず、後払いする場合と税負担は同等だというのである (5)。確かに10万円の預金を非課税にして、引出時に受取額全額に課税するのと、最初の10万円に税をかけるのとは、税負担で同等のように見える。住宅など耐久財からの消費は長期にわたる。消費の効用を求めることは困難である。それで住宅に限り税金を前払いさせるという苦肉の策であったのが、住宅購入のための借り入れまで、前納方式を適用することにより、借り入れの課税ベース算入を避けることが可能になったのである。貯蓄控除と借入返済控除をともに認めず、資産所得、資産売却、借り入れを支出税から除外(前納方式の適用)した場合、支出税はもはや支出税ではなく、労働所得のみに課税される所得税である。支出税では、事前の水平的公平が想定される。したがって、結果としての所得の不公平の改善への配慮が必要ではないか。また支出税の枠組みのなかで、消費されない所得、貯蓄に対する課税を貫徹できるか否かについて強い疑問がある。

担税力の基準を長期的に捉えること自体は、正しい方向である。単年度ベースの所得の変動が大きい場合、所得ベースでは、担税力を平均化して課税することができないからである。この点、消費支出の方が安定的であり、日本のように消費課税のウエイトや負担水準の低い場合には、消費課税の強化を考えることができる。その場合は、消費課税に複数税率を導入することや、消費されない所得に対する課税を強化することも考えられる。消費税が単一税率の場合には、所得税とリンクさせることにより、消費税の一部を還付することも考えられる。
 W 資産課税

                                          松井吉三執筆

 1 資産課税の種類と仕組み

 1)資産課税はなぜ必要か

 消費されない所得の支出面の担税力を課税することは、消費課税とともに所得課税を補完するという意味で重要である。所得課税が、未実現の資本利得に及ぶ場合、資産課税の必要性は低下することになる。所得課税が資産から発生する利得を補足できないのであれば、代替物としての資産に対する課税は重要である。日本では、1980年代後半のバブル期以後、土地等の未実現の価値増加は極めて大きく、また、土地の投機的取引の抑制や地価高騰の再発防止を含む総合的な土地対策の一環として、近年資産の保有、取得、譲渡益に対する課税が強化されているところである。さらに資産課税は2025年をピークとする少子、高齢化社会への移行に伴う財政需要の拡大に対応する、増税型の税制改造の財源として、期待される。所得税の減税財源を消費税増税でカバーするというような税収中立型の税制改革ではなく、財政需要の絞り込みを行なった上で、増税を考える場合の選択岐である。

 2)資産保有課税

 日本の税制の議論では、「資産」という言葉は、譲渡益(キャピタル・ゲイン)あるいは利子、配当所得のような資産性の所得を含んでいる。また、保有資産、取得資産というストックとしての資産に限定される場合もある。最近の政府税制調査会の答申では、資産課税を、保有課税、取得課税、資産性取得課税に分類している。資産保有課税では、保有者ごとの純資産に対して累進課税を期待できる富裕税と、固定資産税のように、土地家屋、償却資産に限定して課税されるものとを区別することができる。富裕税は、土地、株式等の未実現のキャピタル・ゲインに対する代替課税として期待されるものである。一般的な財産税として、ある程度の税収を確保するためには、土地、家屋ばかりでなく目ぼしい財産は課税ベースに算入されることが必要である。日本では、シャウプ税制勧告を受けて、1950年に富裕税が導入され、500万円を越える純資産に対して、0.5%(500万円超)〜3%(5,000万円超)の四段階の累進税率で課税された。しかし、1953年度の税制改正で有価証券譲渡益の課税が廃止されるのにあわせて、富裕税も廃止され、また利子所得の分離課税制度(10%)が実施された。シャウプ勧告では、生産、労働意欲に配慮して、富裕税を設けるかわりに所得税率の累進度を緩和したと評価されていたが、富裕税、有価証券譲渡益の課税廃止により、シャウプ税制の根幹が崩れたものといえる。

 日本では、課税ベースを土地等に限定した地価税が、1991年度の税制改正で創設されている。地価税は、土地に関する税負担の適正・公平の確保と土地の資産としての有利性を縮減するという観点から、国税として創設されたものである。地価税の創設にあたっては、固定資産税の改編など既存土地税制の見直しによることも議論された。しかし、固定資産税は、市町村の行政サービスからの受益関係に着目し、保有を前提として、資産の使用収益しうる価値に応じて、毎年の経常的負担を求めているものである。固定資産税は、資産を持つ者と持たない者との間の課税の公平を目指す税ではない。したがって、地価の急騰を抑えるとともに、課税の公平を図るという土地政策上の観点から、新税の創設となったのである。土地に対しては、保有のほか、取得、譲渡の各段階で課税が実施されている。

 諸外国では、土地問題が深刻ではないので、土地政策から新税を創設するような状況には追い込まれていないようである。不動産の保有課税については、諸外国で、とくに地方税として実施されている。

 3)資産取得課税

 取得課税は、相続税・贈与税のような無償取得に対する課税と、不動産取得税、有価証券取引税のような有償取得をしうる担税力に着目するものとに区分されている。

 相続財産は、包括的所得税の立場からは、所得であり、所得税が課せられる根拠がある。他方、支出税の立場からは、相続財産は生前に消費されなかった消費可能資金であり、したがって遺産は、相続時に消費とみなして精算すべきことになる。

 相続税については、遺産そのものに課税する方式(遺産課税方式)と、相続財産を取得した相続人に課税する方式(遺産取得課税方式)がある。日本は遺産の取得者に課税がなされるが、税額の算定には遺産の総額が用いられる。アメリカとイギリスでは遺産課税方式、ドイツとフランスでは遺産取得課税方式である。

 4)資産性所得課税

 資産性所得課税では、土地、株式等の譲渡益に対する課税と、利子、配当など金融資産保有から生ずる収益に対する課税とが含まれる。

 1990年10月政府税制調査会「土地税制のあり方についての基本答申」27頁によれば、資産格差拡大に適切に対処するためには、公共的性格を有する土地の譲渡益課税は、通常の所得に比べて高い税負担が税負担の公平にかなうこと、土地の資産としての有利性を縮減すること、さらに、土地税制の緩和期待を排除し、長期的な視野に立って確固たる制度であることとされている。上記答申を受けて、1991年度税制改革により、総合的抜本的な土地税制改革が成立した。長期保有土地の譲渡益について、税率を引き上げる等(国税20%から30%、住民税6%から9%へ)、課税が強化されている。また、地価税が創設されたことは前述のとおりである。ただし、1995年分より、個人の長期保有土地の課税所得金額が、4,000万円以下の場合、25%の税率が適用されることになり、課税の若干の縮小となっている。

 現行の個人の不動産譲渡益に対する課税の概略は次のとおりである。所有期間が5年を越える長期所有土地建物等の長期譲渡所得金額については、他の所得と分離して、特別控除額(通常は100万円)を控除した残額の課税長期譲渡所得金額の内4,000万円以下の部分については、25%の所得税が課される(住民税7.5%)。課税長期譲渡所得金額が4,000万円を超える場合、超える部分については30%の所得税(住民税9%)が、1,000万円(4,000万円の場合の所得税額)に上積みされる。居住用財産を譲渡した場合、原則として、保有年数にかかわらず3,000万円の特別控除が認められる。所有期間が5年を超える居住用財産の譲渡益が6,000万円以下の部分には10%の所得税と4%の住民税が課される。所有期間が5年以下の土地建物等を譲渡した場合には、最低でも、収入金額から取得費を控除した課税短期譲渡所得金額の40%相当額(地方税は12%相当額)以上の金額の所得税及び住民税が課税される。

 なお、長短の区別であるが、日本の場合、本来は所有期間は10年以下が短期であるが、1987年10月1日から1997年3月31日までは5年以下のものについて、短期譲渡所得とされている(措法32)。

 法人の土地譲渡益については、既に5年以下の短期保有、2年以下の超短期所有に対して、それぞれ20%、30%の法人税の追加課税が実施されている。1991年の改正では、5年超の長期所有土地の譲渡益に対しても、10%の法人税の追加課税が実施されることになった。

 諸外国の土地譲渡益課税をみると、アメリカとイギリスでは、他の所得と合算して課税、ドイツでは投機的売買を除いて非課税である。

 土地の保有課税と土地売却益課税は、一体であり、相互に補完すべきものといえる。しかし、日本では、土地の譲渡益は、有価証券の売却益とともに、シャウプ税制勧告を受けて、1950年度の税制改正で、全額総合課税とされていたものである。1953年度の税制改正で、有価証券売却益課税が廃止されたのに合わせて、土地の譲渡益に対しても全額課税が放棄され、15万円控除後の半額がベースに算入されることになった。一方で、同年には富裕税も廃止されているのであるから、保有課税、売却益課税の双方による資産格差是正力も大きく後退したことになる。1969年度の税制改正では、保有期間5年超の個人の長期保有土地(地上権、建物を含む)の譲渡益に対して、低率の比例課税制度が所得税、住民税の双方にわたって時限的に導入された。宅地供給の切札となったものであるが、土地成金を生み、課税の公平を著しく損なうものであった(6)

 株式の譲渡益の課税では、譲渡益を総合課税した上で、法人の留保所得部分の課税を補足して考慮しないと、株式を持つ者と持たない者との間で、課税の不公平が生じる。日本では、1947年にそれまでの非課税から一般の譲渡所得と同じように総合課税されることになった(但し、半額算入方式が適用された)。その後のシャウプ税制勧告では、有価証券の譲渡益の金額の総合課税の実施と、法人の留保利益累積額に対して1%(実施も1%)の積立金利子附加税の創設が結合されていた。株式売却益と法人留保との統合を図るものであった。しかし、1951年度税制改正では、積立金利子附加税が廃止された。1953年度税制改正では、有価証券譲渡益が事業所得に該当する場合を除いて非課税とされた。資本蓄積に資するため、利益留保を促進する税制へと転換したと評価される(7) ゆえんである。

 1986年10月税制調査会「税別の抜本的見直しについての答申」(58)頁によれば、株式のキャピタル・ゲインの原則非課税が、公平・公正の理念に反するものであり、また、利子、配当課税とのバランスを欠くものとして、批判されるに至っている。1988年の法改正では、ついに、有価証券譲渡益が、原則非課税から原則課税へと転換する。ただし課税方法としては、申告分離課税(他の所得と分離して一定の税率により確定申告を通じて課税する方式)を原則としつつ、上場株式の譲渡益については、源泉分離課税(上場株式等に適用され、現行では原則として、株式等の譲渡価額の5%相当額を所得とみなし、他の所得と分離して20%の税率により源泉徴収を通じて課税する方式、住民税は非課税)の選択を認める。源泉分離選択課税方式は少なくとも当面の措置としては妥当で、現実的であるとの判断であった。1989年4月1日以後の株式等に係わる譲渡所得の申告分離課税の税率は、20%である(住民税は6%)。

 1993年11月の政府税調の答申では、株式譲渡益については利子とともに、基本的には総合課税を目指すものとされている。総合課税への移行にあたっては、納税者番号による所得把握が不可欠である。現行の分離課税制度は、現在の所得把握体制で実質的公平を実現する現実的なものであり、当面は維持することが適当との立場をとっている(8) 。あくまでも、当面の措置としてスタートした株式譲渡益の一律分離課税に積極的な評価が与えられるようになったのである。

 諸外国では、株式のキャピタル・ゲインについて、課税ベースを拡大する傾向である。アメリカでは、1986年のレーガン税制改革の時、個人所得税の税率の大幅な引き下げにより、キャピタル・ゲインを優遇する理由がなくなった。それまでは、資産の保有期間に応じて非課税としたり、また、分離課税が選択できるなど、総合課税主義をとる連邦所得税制の異端であった。公平、簡素、中立の観点から、キャピタル・ゲインは、通常の所得と同じように課税されることになった。ただし1990年の税制改正で、新設された31%の所得税率をキャピタル・ゲインには、適用しないこととされた(9)

 イギリスではキャピタル・ゲインは、非課税から課税扱い(1962年以降)へと変遷している。課税方式としては、長短区別の分離課税から総合課税方式(1972年以降)へ変遷している。なお、サッチャー政権で所得税率構造の平準化が進展した。ドイツでは、土地の場合と同じく原則非課税である。

 諸外国では、キャピタル・ゲインの課税の扱いでは、土地と株式を区別しないのが通例である。株式の譲渡益課税のあり方は、税率構造との関連でとらえられている。

 5)利子、配当課税

 最近の政府税制調査会の議論では、資産性所得である利子所得は、株式等譲渡益とともに、基本的には総合課税を目指すとされている。日本では、1987年9月の法改正において、少額貯蓄非課税制度(限度額300万円)が原則的に廃止された。また、それまでの源泉分離選択課税(定期預金等)、申告不要制度(普通貯金等)の代わり、すべての預貯金、公社債の利子に対して、15%の源泉所得税と5%の住民税(利子割)の、一律源泉分離課税へと制度改正が行われ、現在に至っている。個人の預貯金残高の約7割が非課税貯蓄であった(1986年3月現在)から、課税ベースの大幅な拡大となった。しかし、利子所得の発生の大量性、元本である商品の多様性、浮動性といった特異性がある。利子課税は金融市場に対して中立的とすべきであり、また、事務負担にも配慮すべきとの理由で、一律分離課税が適当(税制調査会「昭和61年10月税制の抜本的見直しについての答申」53−54頁参照)との意見を受けたものである。

 1950年のみに限っては、シャウプ勧告に沿って、それまでの源泉分離選択課税の特例(税率60%)が廃止され、全面的に、総合課税とされた。しかし翌年には、貯蓄奨励の目的から税率50%の源泉分離選択課税と併立する形になり、1953年には、10%の源泉分離課税制度へと移行した。その後、非課税の時代(1955、1956年)もあるが、1971年に源泉分離選択課税(定期預金等)が復活し、申告不要制度(普通預金等)が創設された。1964年には少額貯蓄非課税制度(マル優)、1968年には少額公債特別非課税制度(マル特)が発足したところである。利子所得の一律分離課税制度は、税務執行上の配慮から、総合課税を実質的に放棄するものである。

 配当課税については、日本では1947年より現在に至るまで、総合課税が原則である。1950〜1952年の間を除いて、源泉徴収(税率は、時代により5〜20%、1971年以後20%)がある。源泉徴収のあと、申告納税する(法人擬制説では、法人税が個人所得税の源泉徴収にあたるので、それ以上の源泉徴収は不要である)。1965年には、配当課税を利子課税と同様の源泉分離課税とすべきだとする証券業界との折衷案として、源泉分離選択課税制度と少額配当の確定申告不要制度が導入され、現在に至っている。1986年1月以後支払いの1銘柄年10万円以下の配当所得については、20%の源泉徴収税率だけですませるか、確定申告により税の還付を受けるか有利な方を選択できる。1977年以後現在に至るまで、配当所得の源泉徴収税率は20%、源泉分離選択税率は35%である。

 配当課税個有の問題として、法人擬制説をとる場合、配当に関する所得税と法人税との二重課税を調整する必要がある。日本では、二重課税の調整として受取配当の一定割合を個人所得税から税額控除する制度(配当控除制度)が1948年より設けられ、1950年に25%、1955年に30%、1957年に20%、1962年に15%、1971年に12.5%、1973年に10%となり現在に至っている。1957年より課税所得1,000万円超に対する配当については、配当控除率が上記の半分となる。1961年には、法人税でも、配当の二重課税是正のため、支払配当分に軽減税率が導入され、所得税と法人税との両面調整になった(法人税の配当軽課制度は1990年に廃止されている)。配当控除制度は、シャウプ税体系の崩壊により、配当部分に対する救済措置として推移したといえる。

 アメリカでは、利子・配当所得に対しても、総合課税の原則から他の所得と合算して課税される。原則として、源泉徴収は適用されない。1962年より納税者番号制度が設けられ、利子・配当を年10ドル以上支払う者は、内国歳入庁に対し支払調書を提出すべきこととされている。配当に関する二重課税調整措置はない(1986年税制改革前では、個人段階で受取配当を100ドルまで所得控除ができた)。イギリス、ドイツでは、利子・配当所得は総合課税の対象である。利子所得については両国とも、源泉徴収制度がある。EC諸国の配当課税については、法人税との二重課税を排除するため、配当控除制度がある。イギリスでは、配当額とその75分の25を課税所得に算入して、算出税額から受取配当の75分の25を税額控除する方式(インピュテーション方式)が採用されている(10)

 日本の国税全体に占める資産課税の割合は、1993年度で、20.6%である。筆者の推計によれば、国税及び地方税の全体に占める土地関連の税収の割合は、17.1である。(表6参照)

表6 日本の資産課税の種類別税収額(1993年度決算額)

                        (単位:億円)

  税種及び税目      、 国税 、地方税  、 内土地関連税額
1 資産課税
 1)資産取得課税
相続税           29,377 、 、 22,855
印紙税            、 15,991  、 、 1,364
有価証券取引税他     、 4,995 、    
不動産取得税(県税)   、      、 6,140    6,140
2)資産保有課税
地価税           、 6,053    、       、 6,053
固定資産税(県税、大規模償却資産特例分)     

                 、       78       、

固定資産税(市税、土地家屋分)、   、  59,296  59,296
固定資産税(市税、償却資産分)、    、 15,921
都市計画税(市税、目的税)  、     、 11,698 11,698
特別土地保有税(市税)     、    、 1,472 1,472
事業所税(市税、目的税)   、     、 3,318
固定資産等所在市町村交付金他  (市税)  

     、     、  604

3)資産性所得課税
  利子所得源泉所得税、及び地方税、 34,777 7,622
配当所得源泉所得税、及び地方税 、 8,534 413
上場株式等譲渡益課税(源泉所得税) 、 1,935 、 、
上場株式等譲渡益課税(申告分離分所得税、及び地方税)

     、920 276

短期土地等譲渡益分所得税、及び地方税、289 87 376
長期土地等譲渡益分所得税、及び地方税課税

       、 14,570 4,37118,941

資産課税合計 1)+2)+3) 117,441111,296128,195
所得課税合計           300,127180,491
消費課税合計          153,574 44,126
国税、及び地方税の税収合計   571,142335,913
資産課税の税収合計に占める割合 20.6% 33.1%
所得課税の税収合計に占める割合 52.5% 53.8%
消費課税の税収合計に占める割合 26.9% 13.1% ・

(注):資産取得、保有課税の税収額、源泉所得税額については、大蔵省『財政金融統計月報』、第516号、17、61、96頁より引用。土地、株式の税収額については、笹岡浩「平成6年度市町村税の課税状況の分析」(『地方税』、1995年6月号、140頁)の市町村税分の課税実績から国税分及び県税分を推定している。利子・配当の源泉所得税額は、法人分を含む。配当所得課税の地方税分は、法人分を除く個人申告分を筆者が推定したもの。相続税の77.8%(相続の取得財産に占める土地建物の割合、大蔵省同上書88頁による1993年分の数値)を土地関連税額としている。国税及び地方税合計の土地関連税額は、国税と地方税の合計の14.1%である。また資産所得分を所得課税とするならば、資産課税は国税収入合計の9.9%である。国税、地方税を合わせた資産課税は、同合計税収額の17.1%である。

 2 資産課税の負担構造

 1)資産課税の負担水準

 1980年代後半以後、国税ベースでは、資産課税等(利子、配当、土地譲渡、平成元年以降の有価証券譲渡に係わる所得税推定額を含む)のウエイトは、20%程度で推移している。1992年度の国税収入の構成比で見れば、資産所得課税11%、資産移転課税等(相続税、地価税、有価証券取引税、印紙収入)9%の計20%である(11)

 OECDの歳入統計の区分基準に従って、資産性所得課税分を資産課税に含めないで所得課税とする場合、国税収入の構成比は、1992年度では、所得課税65%、消費課税26%、資産課税9%である。地方税を含めた場合、所得課税67%(OECD24カ国中1位)、消費課税19.2%(同24位)、資産課税13.7%(同7位)である(1991年)。OECDの区分基準により、地方税を含めた資産課税で見れば、日本はフランスより若干劣るが、アメリカ、イギリスとほぼ同水準である(12)。各国とも、地方税としての土地保有税が重要である。国税としての資産保有税、取得税に限れば、日本はイギリスには及ばないが、アメリカ、フランスより上位である。

 日本では、1988年6月の「税制改革についての答申」を受けて、抜本的税制改革が実施されている。資産性所得課税については、マル優廃止等利子課税制度の見直しや株式譲渡益課税化など「負担の適正化」が図られている。1989年12月には、土地基本法が成立する。土地の公共性を重視する観点から、1991年度の税制改正では、国税としての土地保有税である地価税が創設されている。取得税としての相続税については、毎年の土地評価の引き上げとともに、数年毎の負担水準の見直しが繰り返されている。

 2)資産性所得課税の負担構造

 利子所得が一律源泉分離課税とされていること、株式等譲渡所得、配当所得について源泉分離選択課税とされ、その内殆どが源泉分離課税であることが、個人所得課税の課税ベースを著しく狭めている。

 1969年度の税制改正では、長期保有土地の譲渡所得に対して、分離軽減措置が導入され、1970年より、土地取引が活発化した。この結果、資産性所得課税の国税収入に占める割合は、1965年度では4.5%であったのが、1970年度7.8%、1975年度11.5%と上昇した。1975年度の税改正で譲渡益 ,000万円以上は4分の3総合課税されることになった。また1975年当時、戦後初のマイナス成長を受けて地価が下落した。1980年には地価が再び回復した。1986年前後から5年間、異常な地価上昇が続くことになる。この結果、1991年には資産所得課税は国税の16.1%を占めることとなった。1992年度には長期保有土地の譲渡益に対する分離比例税率が上昇している。また、土地取引が沈静化したこともあって、資産所得課税が国税の11%と一挙に低下している。

 1993年の課税実績によれば、分離長期譲渡所得は、約26万7千人で6兆400億円で、合計申告所得47兆9,193億円の13%を占める。さすがに分離短期所得の申告額は少なく601億円、株式等の譲渡所得の申告分も少なく4,392億円である。利子所得の申告分は93億円と極端に少ない。1988年4月1日以後支払を受ける利子所得については、国、地方合わせて20%の分離課税方式とされたことにより、1988年以後確定申告をする必要があるのは、1988年3月31日前の期間に対応する部分など、ごく限られることになった。石弘光教授の試算によれば、所得全体に占める利子所得の割合は、所得水準が上昇するにつれおおむね増加傾向を示している。利子所得の一律分離課税は明らかに高所得者ほど、税負担を軽減させている。(表7参照)

 1993年分の配当所得の申告分は4,593億円。その内89%を所得階級1,000万円超の人々が申告している。配当所得を申告している人数の内、所得階級1,000万円超の人数の割合は43%、1,000万円以下57%である(13)。株式等への資産運用は、高所得者ほど活発で

表7 利子所得の階層別分布(1990年分)

                       (単位:億円、%)

所得区分

         所得控除前

         所得金額 @   利子所得金額A Aの構成比    A/@

               億円        億円        %       %
300万円以下 54,793   、    2,617     14.43     、 4.78
400   37,095   、    1,792     9.88      4.82
500 35,491     、   1,810    、  9.98      、 5.10
1,000 〃 〃、 94,522       5,796     31.96     、 6.13
2,000 〃 〃、 33,550       2,949    、  16.26     、 8.79
3,000 〃 〃、 6,105      、    945       5.21     15.48
5,000 〃 〃、 6,000         840    、  4.63       、13.99
5,000万円超 19,949   、    1,387     、  7.65      6.95
合計     、 287,509    、   18,135    、 100.00      、 6.31

(出典):石弘光『利子・株式譲渡益課税論』、日本経済新聞社、

1993年、132頁の表より所得区分の刻みを縮小して、億円単位に直して表示したもの。同上書の表注記によれば、利子所得の階層別分布は、1990年の金額に1987年の利子所得申告分の階層別構成比(『申告所得税の実態』1987年)を適用して算定している。



表8 配当、株式等譲渡等所得の階層別分布(1993年、申告分)

                    (単位:億円、%)

合計所得金額@

       、配当所得(総合課税)A

             、株式等の譲渡等所得(申告分離課税分)B

                                     、(A+B)/@

             億円 億円  %

300万円以下 、    52 19 0.10
400〃〃       、 44 14 0.14
500〃〃       、 51 18 0.20
600〃〃       60 21 0.27
700〃〃       、 67 25 0.37
800〃〃       、 73 24 0.45
1,000〃〃      、 174 49 0.66
2,000〃〃      、 1,156 224 1.47
3,000〃〃      、 805 184 2.80
5,000〃〃      、 809 271 3.42
5,000〃〃      、 1,302 3,543 8.08
合計         、 4,593 4,392 1.88

(資料):国税庁編『平成5年分税務統計から見た申告所得税の実態』、

36−39頁より作成。


ある。申告所得全体に占める配当所得、株式等譲渡所得の割合も、高所得者ほど高い。また申告所得金額が著しく最高所得層に集中している。(表8参照)

 土地譲渡所得の件数と金額は、通用税率等土地税制の変動に多分に影響される。戦後日本の場合、傾向的には、宅地供給促進の観点から、土地譲渡課税が軽減されてきたといえる。この結果、地価上昇期待が続くなかで土地成金が続出した。分離課税によっては、資産格差ひいては生涯所得格差の改善を期待することはできない。

 土地譲渡所得税を国税として期待するのであれば、総合課税とすべきである。そこで土地の開発は地方レベルで行われるのであるから、利益還元の意味で、土地譲渡税は地方に譲与すべきとする議論があり、考慮すべきである。また、開発利益還元を徹底する意味で、土地譲渡税を地方税として整備する考え方もある。

 3)資産保有課税の負担構造

 日本の資産保有課税には、国税の地価税と市町村税の固定資産税がある。地価税は、1992年には初めての申告が行われ、あわせて日本の土地保有の実態も明らかになったところである。地価税は1u当たりの更地価額3万円以下の土地は非課税である。また、居住用宅地等は非課税である。非課税分を除いた、すべての土地等の価額合計額が課税価格である。課税価格から基礎控除額(個人等15億円、大法人10億円)を控除した残額に1,000分の3の比例税率により、地価税が課される。地価税の税額は、1992年分では、5,303億円である。内、法人が93%、個人が7%である。資本金10億円以上の法人が、課税土地面積で全体の56%、納税額で57%を占める。法人業種で見れば、地価税は、金融保険業不動産業、ホテル業でとくに重い負担となっている(14)。バブル経済崩壊により、地価は1991年をピークとして下落して、土地の有利性が縮減されている。また、企業収益が落ち込んでおり、地価税の負担が利益圧迫要因となっている。したがって、地価税負担を軽減すべきという企業サイドの議論がある。これに対して、地価水準は依然高く、今後の地価高騰再発を防止することが必要であり、また、土地税制の頻繁な手直しが土地取引、保有の思惑を招くことになる。したがって、地価税及びその他の土地税制の基本を堅持するというのが政府の立場である。

 市町村税の固定資産税の税収は、1993年度の決算額で7兆5,436億円である。市街化区域内の土地には、目的税の都市計画税が併課される。都市計画税の税収は、1兆1,698億円である。固定資産税及び都市計画税の国民所得に占める割合は、2.4%である。固定資産税の内、土地、家屋の分がともに3兆円程度であり、償却資産の分が1.5兆円程度である。固定資産税については、1994年度の評価替え(3年ごとに実施される)において、土地基本法等をふまえ、地価公示価格の7割を目標に土地評価が行われたところである(ただし実際の税負担については、当面なだらかな負担調整が実施される)。

 1993年に行われた国土庁の土地基本調査によると、法人については、資本金が大きくなるほど、土地所有率及び所有面積が上昇する。法人が所有する土地は、1989年前後に取得した面積が多くなっている。土地所有世帯は、全世帯の57.4%である。親と同居する夫婦世帯で約9割、核家族世帯で約6割、一人世帯で約2割が住居敷地を所有している。年間収入が多い世帯ほど、現住居敷地及びそれ以外の土地の保有世帯率が上昇する。現住居敷地取得時期と取得方法を見ると、1946年から1980年までは、個人から購入した土地の割合が高いが、1981年以降は相続・贈与で取得した割合が高くなっている(15)

 都市化による社会資本の整備により地価は上昇する。そのように仮定すれば、地価上昇によって受ける利益を地方税として社会に還元するのが、最良である。また、近年核家族世帯にとって宅地取得が厳しい状況がある等、資産格差が拡大している。資産格差の是正を兼ねる意味で、土地保有課税に軽度の累進税率を導入することも併せて議論されるべきである。地価税については、大企業の土地保有に対する罰則的な課税となっており、転嫁の不透明性もあり、あくまでも緊急的な措置とすべきであるように思われる。

 4)資産取得課税の負担構造

 日本では、相続等により財産を取得した者に対して、相続税が課税される。課税価格は、相続等により取得した財産の価額の合計額である。課税最低限は、現行では、5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)である。税率は10%〜70%(20億円超の部分)までの超過累進税率である。1975年の課税最低限の引き上げ以降、日本では、相続税の負担水準の見直しが行われなかった。このため、1987年には、相続税の課税件数が死亡件数の7.9%を占めるまでに至った。1988年分から課税最低限が大幅に引き上げられ、一時課税件数が減少したが、地価高騰により再び課税件数が増大する。そのため、1992年、1994年と若干の負担の見直しが行われている。

 1992年では、取得財産価額の52%が宅地である。土地全体では、76%を占める。また、相続税の申告分の40%が1億円から2億円以内の課税価格階級に属している(納税額では、全体の4%)。相続税の60%が、課税価格階級10億円超の申告分である。

 相続税の土地評価は、地価公示価格の8割程度であり、土地取得の有利性は依然消えていない。しかし、交換価値の対象とならない居住用の土地等については、特別な配慮をすべきである。日本では、事業用、居住用の小規模宅地等の評価額から一定割合を減額する特例措置が設けられている。1994年分から、特例減額割合が200uまでの被相続人の居住部分について、原則として80%に引き上げられている。

 3 資産課税改革の構想

 戦後日本の税制は、直接税である所得税、法人税の優遇は資産所得に対する不公平の温存、それに消費課税の温存と拡充傾向というスタンスを見てとることができる。所得課税における減税と特別措置の温存が所得の高い階層ほど受益にあずかるというものであった。

 資産性所得に対する非課税、源泉分離課税、申告分離課税の温存は、所得の高い階層の課税ベースを大幅に縮小させるので、不公平税制の最たるものである。日本は、依然低成長期にある。とりわけ、1980年代後半より、土地、金融資金についての「持つ者」と「持たない者」との格差が拡大している。所得課税、資産所得課税の不公平税制の温存と消費税の逆進性とがともに、高所得者の税負担を緩和してきたのである。

 ただし、所得課税の税率を高めるような改革は、経済活力を弱めるのでとるべき方策ではない。高齢化社会への移行により拡大する経費は、所得あるいは利益から支払われ、その部分への課税を強化することは妥当ではないからである。少子化は、経済活動のマイナス要因でもある。

 資産性所得については、現行の源泉分離課税(利子)、非課税(老人の非課税貯蓄分、少額配当)、源泉分離選択課税(株式譲渡益、配当)申告分離課税(土地譲渡益)を廃止して、原則として総合課税とすべきである。

 総合課税方式により申告するためには、納税者と徴税当局が、資産性所得等を正確に把握することが必要である。そこで、資産性所得の把握にあたっては、国内レベルの納税者番号制度の導入など、予防的措置が必要不可欠である。日本では、申告所得者については、既に税務署管内レベルの納税者整理番号が付与されている。税務署に提出された利子、配当、報酬等の法定支払調書や、資料せん(税務署の要望により提出される事業取引等の取引の資料情報で取引先ごとに区分されたもの)等の各種情報を住所、氏名等に基づき、納税者別に集め、蓄積することを「名寄せ」という。法定資料分については、コンピューターによる全国的な名寄せが、1989年から開始されている。納税者番号の導入により、資産性所得ばかりでなく事業取引等のすべての取引を、個人別に全国レベルで把握することができる。「名寄せ」の精度はまた、取引について支払調書などの法定資料の提出範囲を現状より広げることによって向上する。法定資料の提出範囲を財産の残高にまで広げることができれば、間接的に事業所得等を把握することができるといわれる。

 国内レベルの納税者番号の方式としては、政府税制調査会では、公的年金番号を利用する方式と住民基本台帳を基に番号を付与する方式が想定されてきた。いずれの方式も総合試験等の作業が開始されている。国内レベルの納税者番号については、国家による私人へのプライバシーの干渉の問題の方が重要である。また、租税以外への情報の活用の恐れも今後ないとはいえない。納税者番号制度の導入については、導入目的に応じて、把握すべき情報と取引の範囲を限定することが重要である。

 相続税の改革については、日本では包括的な富裕税がなく、また、資産性所得の多くが課税ベースから脱落しており、相続税の課税件数が死亡件数の7%程度であることも考慮すると、資産取得課税を今後とくに減税する必要はないと考えられる。相続税については、依然、土地取得の有利性を承認する結果となっている。資産性所得課税については、総合課税への移行が、資産取得、資産保有課税については、高齢化社会の財源として強化する余地がおおいにある。

 注

(1) 大蔵省『財政金融統計月報』、第516号、98頁より数値を引用。

(2) 税制調査会編『平成5年11月今後の税制のあり方についての答申』、

  附属資料25頁参照。

(3) 大蔵省『財政金融統計月報』、第504号、97頁より数値を引用。

(4) 宮島洋『租税論の展開と日本の税制』、日本評論社、1986年、

  27−30頁参照。

(5) 支出税の仕組みの説明は、同上書30−34頁参照。

(6) 宮島洋『戦後税制史』、税務経理協会、1982年、185頁参照。

(7) 同上書、41頁参照。

(8) 税制調査会編『平成5年11月今後の税制のあり方についての答申』、

  44頁参照

(9) 尾崎護『G7の税制』、ダイヤモンド社、1993年、62頁より

  要旨を抜粋。

(10)以上諸外国の利子・配当課税については、尾崎護同上書、60、

  99、100、134頁参照。

(11)税制調査会編『平成5年11月今後の税制のあり方についての答申』、

  附属資料、2頁より数値を引用。

(12)税制調査会同上書、9頁参照。

(13)国税庁編『平成5年分申告所得税の実態』、36−39頁より算出。

(14)国税庁編『平成4年度版国税庁統計年報書』、138−139頁参照。

(15)武田文男「土地基本調査の概要」(『地方税』、1995年7月号、

  14〜25頁)参照。

 参考文献

高橋誠・柴田徳衛編『財政学〔第3版〕』、有斐閣双書、1988年。

里中恒志・八巻節夫編著『新財政学』、文眞堂、1995年。

遠藤三郎『現代日本の税制・財政改革』、中央経済社、1995年。

橋本徹・山本栄一編『日本型税制改革』、有斐閣、1987年。

宮島洋『租税論の展開と日本の税制』、日本評論社、1986年。

宮島洋『戦後税制史〔増補版〕』、税務経理協会、1982年。

尾崎護編『G7の税制』、ダイヤモンド社、1993年。

宮本憲一・植田和弘編『日本の土地問題と土地税制』、勁草書房、1994年。

和田八束『日本の税制〔増補版〕』、有斐閣選書、1990年。_


上記は柿本国弘、宇佐見正史、松井吉三、伊藤邦男著『日本財政の動向と課題』、八千代出版、第9章初版草稿を転載。初版完成本、第2版と異なります。法人税、所得税の項は、著者伊藤邦男の許可を受けて転載。消費課税、資産課税は拙縞である。