平成9年4月1日から「帳簿」の記載内容が変わりました。


Saturday, December 06, 1997

仕入税額控除の改正

消費税法の改正にともない、平成9年4月1日以後の仕入税額控除を受けるための要件が、課税仕入れの事実を記載した「帳簿又は請求書等の保存」から「帳簿及び請求書等の保存」というよう変更されました。仕入税額控除の正確性を確保するために、請求書、納品書、領収書その他取引の事実を証する書類(インボイスといいます)のいずれかを保存することが適当との税調の答申を受けて実施されたものです。

帳簿の法定記載事項

消費税法に規定する(30条7項)帳簿とは、総勘定元帳に限らず、仕入帳、経費帳、現金出納帳等の補助簿もふくまれます。このいずれかに消費税法8条に規定する事項を記載して、これを保存しておけば、仕入税額控除の要件を満たすことになります。なお、課税仕入れの事実を記載した「帳簿」であるためには、次の事項が「帳簿に記載されている必要があります。これを法定記載事項といいます(消費税法30条8項)。

  1. 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  2. 課税仕入れを行った年月日(支払い年月日ではありません−筆者注)
  3. 課税仕入れに係わる資産又は役務の内容
  4. 課税仕入れに係わる支払対価の額

具体的な帳簿の記載の程度について、国税庁の取り扱いがあります

課税仕入の個々の取引ごとに法定記載事項を記載することは煩雑であるため、国税庁としては、帳簿の具体的な記載の程度について、平成8年9月に取り扱いを示していますので、下記に一部引用いたします。

仕入先ごとの月の合計額による記載

国税庁の取り扱いでは、「一定期間分の取引をまとめた請求書等の交付を受けた場合は、それに基づいて帳簿に記載して差し支えない。この場合、例えば、同一の商品を一定期間内に複数回購入し、その一定期間分の請求書等に1回ごとの取引の明細が記載又は添付されているときでも、帳簿の記載にあたっては、課税仕入れの年月日をその一定期間として、取引金額もその請求書等の合計額による記載で差し支えない。」とされています。

このように記帳の都度すべての項目を記載する必要はないとされていることから、仕入帳等、仕入先ごとに別口座となっている帳簿を作成している場合で、各仕入先から仕入れる商品の一般的な総称が単一のときは、当該仕入帳等の各仕入先の最初のページに仕入先の名称及び仕入商品の総称を記載することにより、その後の仕入れの実績の記載は、仕入年月日及び仕入金額だけ記載することで、消費税法30条8項に規定する帳簿の記載事項を充足できます。

帳簿代用書類に基づく記載(国税庁の取り扱い)

帳簿代用書類」を基礎として仕入税額を計算できる程度の記載が別の「帳簿」にあれば、「帳簿代用書類」、「帳簿」の両方を保存することで仕入税額控除の要件を満たすことになる。」とされています。。なお、ここで「帳簿代用書類」というのは、注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類のうち、所得税法別表20に定める記載事項の全部又は一部の帳簿への記載に代えて当該記載事項が記載されている書類を整理し、その整理されたものを保存している場合における当該書類をいいます。

買掛金集計管理表に基づく一括記載

以上「帳簿代用書類」は「帳簿」ではないというのが国税庁の見解です。しかし、買掛金集計管理一覧表にもとづいて、仕入の計上を一括の伝票(日付、仕訳:仕入対買掛金、金額、摘要:4月分食料品代)によって伝票を起票する場合には、買掛金集計管理一覧表は「帳簿」なのか否かが問題になります。「帳簿」ではないということになれば、別途に仕入帳を作成しなければなりません。国税庁は今回の改正で追加的な事務負担は生じないと考えているのですから、別途の帳簿を新たにつくらせることは趣旨に反します。

この点については、平成9年3月3日付けの日税連調査研究部の下記の見解が参考になります。(「日税連見解」参照)。

「買掛金集計表に課税仕入れの期間、資産又は役務の総称(例えば衣料品代)、課税仕入れの相手先の名称が、課税仕入れの相手先からの請求ごとに記載され、これを通常の帳簿といえる程度に整理、集計して編てつしていれば、消費税法第30条第8項の記載を満たす「帳簿」に該当する。したがって、この買掛金集計表綴りと別途相手方の発行した請求書等が保存されていれば、仕入税額控除が適用される。」。 

もちろん、この場合には買掛金集計表の摘要欄に仕入商品の総称を記載することが必要になります。

             買掛金集計表4月分

相手先       繰越    当月発生 支払金額  残高     摘要

小林食品(株)  1,524,000円 300,000円1,524,000円300,000円   食料品

書類の作成者の氏名又は名称の記載の程度

国税庁の取り扱いでは、書類の作成者の氏名又は名称の記載については、「法定要件は氏名であるのでフルネームを記載する必要があるが、例えばフルネームで記載した仕入先一覧表等があり、個々の取引の記帳に当たっては、これに基づいて「姓」だけを記帳することは差し支えない。」とされています。

取引の内容の記載の程度

国税庁の取り扱いでは、取引の内容の記載については、「「帳簿」への記載は、請求書等に記載されている個々の商品ごに行う必要はなく、仕入先ごとに商品の一般的な総称でまとめて記載することで差し支えない。ただし、仕入商品のうちに課税商品と非課税商品が混在する場合には区分して記載する必要がある。中略。複数の一般的な総称の商品を2種類以上購入した場合でも、経費に属する課税仕入れについては、商品の一般的な総称で「何々等」というようにまとめて記載して差し支えない。ただし、仕入商品の内に、課税品と非課税品が混在する場合には、区分して記載する必要がある。」とされています。



請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合の帳簿への記載

請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合は、帳簿に消費税法30条8項の記載要件のほか、その理由と住所の記載が必要ですが、例えば預金からの自動振替の場合は、帳簿に「自動振替」と記載すればよいものとされています。

出張旅費等と請求書等の交付

(1)実費精算が行われない出張旅費

実費精算が行われない出張旅費については、課税仕入れに該当するものとして取り扱われている(消基通11−2−1)。この場合の課税仕入れの相手方は、実務上、当該出張旅費が支払われる従業員等とされていることから、請求書等の交付を受けることができないことにつき、やむを得ない理由があるものに該当することになり、請求書等の保存は必要なく、しかも保存すべき帳簿には、課税仕入の相手方である従業員の住所の記載を要さないこととされている。

このため、帳簿には従業員に支給した出張旅費であること(やむを得ない理由)と、課税仕入の相手方としての従業員の氏名を記載しておくことで、仕入税額控除の要件を満たすものとして扱われる(改正消令49@、改正消法取扱通達1−3−3(4))。

(2)実費精算が行われる出張旅費

出張旅費について、従業員が記入して会社に提出する「精算書」に基づいて実費精算を行っており、その「精算書」には、従業員名、旅行日、支払内容及び支払金額等が記載してあり、宿泊費に係わる領収書等は当該「精算書」の裏に貼付しているような場合には、課税仕入れを行った事業者の従業員(実務上課税仕入れの相手方とされる者)が記入した「精算書」を保存しており、またその「精算書」には、消費税法第30条8項に規定する事項が記載されていることから、その「精算書」を綴り合わせたものと、出張旅費の支出に関する内容を記載した帳簿(数人分を支払った場合には、まとめて記載して差し支えない)を保存することにより、仕入税額控除の要件を満たすものとして取り扱われます。

                 松井吉三