シロアリはどこから来るか
「湿気に発生」? 「周囲からやって来る」?

 なぜそこにシロアリがいるのかということではまだまだ間違った捉え方が一般的です。湿気が多いとシロアリが発生したり増えたりすると思ったり、ヤマトシロアリ地域ですら近隣からやってくると思われています。しかし、シロアリは理由があってそこにいるのです。


ほとんどの地域では上のように考える必要はありません。
チラシなどのこうした図は、イエシロアリ地域専用です。
一般には、ヤマトシロアリは外の地中から侵入しません。

シロアリの生息と湿気とは、まったく関係ありません。
 たとえば床下のヤマトシロアリの蟻道を考えると、床下全体にまんべんなく蟻道が見られることはごくごく稀なことで、どの部屋も同じような湿気の床下にも関わらず蟻道の分布には偏りがあるのが一般的です。逆に床下の比較的乾いた方面のほうが蟻道が多く見られることもあります。
 もしも湿気が原因だとすると、同じような環境なら同じような蟻道の分布になるはずですが、実際はそうならないのが常です。
 もちろんシロアリもある程度の湿気や水分は必要です。しかしそれは人間が思うような湿気や水分ではありません。

シロアリは必要以上の水が嫌いです。雨が落ちるところには住めません。
 人間でもお茶やコーヒー、炊事やお風呂の水は必要ですが、大雨や洪水は困ります。
 シロアリも自分たちがコントロールできる量の水は必要ですが、雨水のようなものはダメです。
 庭先で雨が染み込むような場所では生活できません。常に水でジメジメして苔が生えるような場所も苦手です。シロアリの飼育でも水をやりすぎればすくに死滅します。
 シロアリの水の必要量は集団の大きさによって決まります。大集団のイエシロアリではかなり大量の水が必要で、水を蓄えたり運ぶための仕組みを作りますが、それでも彼らがコントロールできない水は危険物です。だから、地下水位の高低によって壁巣・梁巣になったり地下巣になったりと変化します。
 集団が比較的小さなヤマトシロアリや、さらに小集団の乾材シロアリでは、ごくわずかな水で生息するので、見た目では乾燥しているようにさえ見えます。

歴史的な結論としてそこに住んでいます。
 日本のほとんどの地域に広く生息しているヤマトシロアリは、土につきもののシロアリで、健全な地面には生息するのが当たり前。不要な木材や植物を分解する地面の力の一部を担っています。
 「発生する」とか「やってくる」ものではなく、もともと生息するもので、彼らの上に家を建てて住んでいるのが人間です。建物への侵入はほとんどが直下の地面からの侵入です。
 ただ、非常に弱い生き物でわずかな環境変化で死滅します。建物が建てられる過程でヤマトシロアリは分断されて多くのシロアリが死んでしまいます。しかし、ごく少数のシロアリ集団が運良く最適な環境に遭遇することで生き延びて集団を再生します。
 運良く最適な環境に遭遇して集団が再生・営巣できたのですから、すでに湿度や温度などの条件をクリアしています。こういう厳しい状況で生き延びた生き物は、さらに生き延びるために活動が一気に活発化します。地下の活動が急激に増えればトンネルも増え、余った土の排出も増えます。そしてこれが蟻道となって上に伸びるのです。
 逆に、シロアリが生き抜けなかった方面やもともとシロアリがいない方面、あるいはシロアリの活動が大きくならなかった方面では、湿気があろうがなかろうがシロアリは見られないし蟻土もできないのです。
 つまり、シロアリがいるのはその土地の歴史の結論なのです。
イエシロアリでは集団が大きく行動範囲も広いので近隣の生息地からも侵入しますが、その存在自体もその地域の歴史的な結論であり、一部の高密度地域を除けば、たとえイエシロアリ地域であってもいないところにはいません。

歴史は繰り返されない …似たようなことは起きるが。
 ヤマトシロアリでは一旦駆除が完了した場所やシロアリが死滅した場所に再びシロアリが生息することはありません。
 死滅した場所にはカビが生えたり他の生き物が生息したりしてヤマトシロアリにとっては生息しにくい環境となります。
 古民家などではヤマトシロアリの古い被害部を見ることができますが、そこにシロアリが生息していることはまずありません。
 つまり、シロアリが生息する家屋では一度駆除すれば終わりだし、新築やリフォームでも当初の5年ほどシロアリの動きを止めればいいのだから、定期的に薬剤を撒く必要もないし、長く効く薬である必要もないのです。
 ただ、イエシロアリでは近隣に別の集団がいるとか駆除が不完全で巣が再生した場合では、過去に駆除された部分にも侵入します。

地表の密閉はシロアリを元気にします。
 シロアリの巣の内部は二酸化炭素濃度が高く、これによってカビなどの微生物を抑制しています。だからシロアリの飼育では空気を遮断し、彼らが空間をコントロールしやすいように空間部分を極力少なくした密閉ケースで行います。
 だから、地表をコンクリートなどで覆うことはシロアリにとって好都合な環境ができあがります。
 今では浴室もトイレも床下のある構造が多くなりましたが、かっては浴室・トイレ・洗面室がすべて土間床とタイルで固められた時期がありました。これによってヤマトシロアリの被害が広がりました。
 近年では、床下に調湿炭などという袋状のものを敷いたためにシロアリが増えたという事例も出ています。また、玄関は土間床のままですので、土間床を土や断熱材でかさ上げした場合は、何らかのルートで侵入されれば被害につながります。
 建物周囲の犬走りの下はシロアリが住み着きやすい場所で、ここから基礎外周の仕上げのコンクリートの剥がれを伝ってシロアリが侵入するのはよくあることです。
 ベタ基礎は継ぎ目のないいわばコンクリートの板ですから、目がなく形に沿って動くシロアリはヤマトシロアリでもイエシロアリでも床下内部に侵入するきっかけがありません(配管や水抜き穴、打設不良部を除けば)。同時にベタ基礎の下はどこでもシロアリが住みやすい密閉空間でもあります。
 多くの場合ベタ基礎では基礎の外周部にシロアリが集中します。そこには後打ちの玄関ポーチ、勝手口のステップ、ウッドデッキの取付部などがあり、ベタ基礎でのシロアリ被害と言えばたいていこういう部分です。