不適切な性能評価と「天然薬剤」 |
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ある物質を裸のシロアリ個体に接触させることでシロアリが死亡したというのは、その物質が薬剤に適しているかということとはまったくかかわりのないことです。 シロアリ薬剤の要件とは、統合生物として機能しているシロアリとのやりとりにいかに役立つかということです。
従来の化学殺虫剤としてのシロアリ薬剤(いわゆる防除剤)は、シロアリをどのように駆除するかという立場で開発・評価されてきませんでした。 薬剤の効力試験のほとんどが、処理された土壌や木材への加害度合を基準に評価されていました。それはあくまで木材保存やバリア形成というシロアリ対策の中のほんの一部を満たすだけです。 また、シロアリと薬剤を自然の状態ではなく、強制接触(あるいは摂食)させた結果の死虫率がおもに駆除効力として評価されました。 そしてこうした不自然で偏った評価によって、現場で思うように駆除できなかったり、場合によっては気休め程度でしかなかったりすることもありました。 シロアリ対策における薬剤評価の基準は以下のようなものが必要です。 (原体ではなく製剤としての評価) ▼死亡のしかた ノックダウンの有無/苦悶状態や異常行動の有無または役割/死亡する場所/死亡までの時間の長短 ▼コロニー内での死の意味 死体への他の個体の態度/死体の累積がコロニーに与える影響/死体への共生生物(ダニ・トビムシ・カビなど)の対応 ▼毒性の伝達および忌避 伝達の規模と時間及びその仕組み/忌避性の有無と対象/共生生物や天敵への影響/毒性の発現時期と残存期間 ▼処理環境との関係 土壌や木材での浸透と定着のあり方/結晶化や残留性の有無と形状/ガス化(蒸気圧)/経年変化や気温などとの関係 ▼製剤 基材による変化や効果/基材へのシロアリの態度/基材との相性/作業性・安全性 以上の評価基準によって薬剤のいわば個性が確定され、どのような場面でのどのような処理に適するかということが決まります。 たとえば、ノックダウン効果があり、即効的で、忌避性も強い薬剤なら、予防的な処理や駆除剤への誘導に使用しやすいし、駆除剤でも木材などへの浸透性の有無によって、毒餌風に使用したり、伝達毒として使用したりといった使い分けが可能です。 ここで「安全性」があえて一番後ろにあるのは、マニュアル式の大量散布を行わないことが前提だからです。毒性のきわめて強い薬剤(たとえばフィプロニルなど)を床下で大量に散布したり、油剤に加工するなどということは技術者の判断からは当然出てきません。
従来天然薬剤として出回っていたものとしてはヒバ油、木酢液、ゲットウエキス、炭の液、柿渋などがあげられます。 これらの薬剤としての評価はきわめて一面的で、ほとんどがシロアリ個体の強制接触によるものです。だから、どのようにシロアリコロニーに作用するのかが明らかでなく、単純に「死ぬから」というのが根拠となっています。 しかし、実際こうした物質でイエシロアリを駆除するのは至難の業で、よほど巣系がわかりやすいか薬剤を処理しやすいかという条件がないとうまくいきません。ヤマトシロアリでも駆除剤としては難しく、大量使用につながります。 もちろん、シロアリ駆除の個別の場面でこうしたものが有用になることは否定しません。たとえば、井戸の周りの駆除で塩水を使用したり、一定の条件下の屋外の処理に木酢液で処理するのも、別に間違いではないでしょう。それは技術者の判断によるものです。 だからといってこれらの物質がシロアリ対策に適しているかといえば、それは間違いです。むしろ「安全性」を標榜して無駄な部分への「農薬」的「消毒」風大量散布を免罪することになります。 そして実際、化学薬剤と異なるものなのに、化学薬剤と同じような感覚で(ほとんど同じマニュアル)で使用されているのです。 さらに一部では、建築士(もちろん駆除経験はない)によって「天然薬剤」の使用が一方的に指示されるようですが、その場合のシロアリ対策上の責任の所在(当然建築士にもある)が文書で示されないのもおかしな話です。 最近、天然ピレトリン(除虫菊の殺虫成分)のマイクロカプセル剤が開発されましたが、製剤によりシロアリとの関係をある程度明確にしたもので、効能どおりであれば一定の範囲で化学薬剤との置き換えが可能です。 |