シロアリ被害に関する近隣トラブルへの考え方



 シロアリ被害にかかわる近隣住民のトラブルをしばしば耳にします。しかし多くの場合そうしたトラブルの火種となっているのはシロアリに対する間違った見方 や一面的な思い込みで、シロアリの生態に基づいて冷静に考えれば問題とならないことがほとんどです。ここではそうしたトラブルに関する考え方をまとめてみ ました。
 ただし、これは一般論です。場合によっては特殊な事情もありますので、実際にこうしたことでお困りの場合は直接ご相談ください。

事例 1 
  「お宅がシロアリ駆除をしたおかげでこちらまでシロアリが逃げてきて被害が出た」と隣家からいわれたとき、または隣家に対してそう思えたとき

ヤマトシロアリの場合(ほとんどの地域)

 ヤマトシロアリではよほど特殊な環境でなければそうした移動はありません。同一の敷地内ですら、建物の外のシロアリは建物に関与しません(基礎外断熱など特殊構造は除く)。
 シロアリは環境に敏感で、周囲の環境を整え環境に適応しながら生活するものです。だからそれまでの活動範囲と異なる環境にいきなり移住することはシロアリの側から見て も非常に危険なことなのです。しかも、目がなくて環境の形に沿って行動するシロアリは、側溝や地境のブロック塀を横断するよりも横に沿う方がより自然です。
 ヤマトシロアリが築10年前後の比較的早い時期に建物に被害を与えるとするなら、その建物が建てられる以前からもともとその土地に住んでいたシロアリ が、建築によって囲い込まれ、分断され、多くのシロアリが死滅する中で運良く生き抜いて勢力を広げたシロアリの活動によるものです。
 だから、もしも駆除後に隣家でシロアリ被害が出たとするなら、たとえタイミング的に「移動した」と思われる時期であったとしても、それは隣家の直下にもともと生息していたシロアリによるものと考えるのが妥当です。
   かりに、建物同士が接触するほど隣接しているとか、地下を結ぶ遺構など特殊な条件がある場合は、両敷地内のシロアリに関連性も考えられますが、シロアリ集 団のそもそもの成り立ちを敷地管理者の責任とのかかわりで特定するのは不可能ですので、各所帯ごとに対処すべきものです。
 いずれにせよ、一方の敷地のシロアリが今までシロアリのいなかった隣接地の建物に移動して被害を与えるというのは無理な言い方です。

イエシロアリの場合(生息地域)

 イエシロアリは巣の駆除ができなければ薬剤散布だけでは死滅しないことがよくあります。したがって薬剤処理の仕方しだいでは隣からの侵入も考えられます。
 ただ、イエシロアリと真剣に向かい合っている技術者による駆除が成功したなら、「逃げてくる」どころかそのシロアリ集団全体が死滅し、いなくなってしまいます。
 技術者による巣の駆除は現場の条件によって多様ですので、必ず巣が見つかるわけでもないし、一度の処理で駆除できないこともありますが、その場合はその点がきちっと説明され、最終的には駆除できます。
 だから、イエシロアリの場合は隣家のシロアリ駆除はこちらにとっても大いに喜ばしいことで、できることなら協力(一緒に「消毒」するという意味でなく調査などに協力)すればいっそう効果が確実になります。

乾材シロアリの場合(生息地域)

 駆除によって隣家まで逃げるということはないので、こういう考え方は妥当でありません。不十分な駆除で移動するとすれば、同じ木材の範囲か、隣接する木材や家具です。
事例 2
  「お宅から出た羽アリが飛んできてこちらに被害が出た」といわれたとき、または思えたとき

ヤマトシロアリの場合

 ヤマトシロアリなどの土壌性シロアリでは羽アリのほとんどは生き延びることができずに死んでしまいます。運良く初期の営巣に到達できてもその後環境に適応できずに死滅するものも多数います。被害を与えるほどの大きさの集団の創始者となれる羽アリはごくごく一部です。
 したがって何年も同じ場所からの羽アリにさらされた場合にはその関連性が疑われますが、一度や二度ではわかりません。しかも、羽アリが飛び出る日は近隣 の他の土地からも出ている可能性もありますので、一般的にいえばどこから来たものかはわからないのです。厳密に調べればある程度由来はわかりますが、土地 管理者の責任とのかかわりまでは明らかにはできません。
 また羽アリがもぐりこんで被害が見つかるまでは数年かかるのが普通で、隣家の羽アリの翌年に被害が出たという場合は、こちらの家の直下にもともといたシ ロアリによるものと考えるべきものです。しかも隣家の羽アリよりもはるかに被害を誘引するような構造(玄関の落とし柱やブロック基礎など)がこちらの建物に見つかることが多々あります。

イエシロアリの場合

 ヤマトシロアリと比べて数が圧倒的に多いのと飛び出すのが夜だから灯火に誘引されるので隣家への影響は少なくありません。それでも羽アリの営巣率はきわめて低く、一度や二度窓いっぱいに群がったからといっていきなり被害が発生するわけではありません。
 現状で被害があるとか翌年被害が出たという場合は、そのときの羽アリによるものでなく、もともと何らかのきっかけでその土地に生息していたシロアリ(隣家のシロアリと同集団かどうかは別として)によるものと考えるのが妥当です。
 かりにDNAなどの検査で集団が同じであることがわかったとしても、土地管理者の責任を問うことはできません。
 だから実際、イエシロアリ地域でもシロアリへの対応は各家庭ごとに行ってきたのです。

乾材シロアリの場合

 これは十分可能性のあることです。ただ、その責任を追求すべきではありません。なぜなら、原因となった木材や木材製品の持ち込みについて居住者には発見 するすべがなかったはずだからです。また、一定の被害が発見されてから適切に対処しても直ちに絶滅できないので、羽アリのすべてを止めるわけにはいきませ ん。しかも土壌性シロアリのように決まった時期に一気に飛び出さないので羽アリが出たことすら知らないこともあるのです。
 今日のように国の内外の交流が盛んになっている時代では、どの家でも意図せず最初の(あるいは二次三次の)発生源になりうるのです。
事例 3 
  「お宅の敷地の管理が悪いのでこちらに被害が出た」といわれたとき、または思えたとき

ヤマトシロアリの場合

 一見するとシロアリを増殖させてしまいそうな環境(木材が集積してあるなど)があり、毎年羽アリも出ているというような、事例1と事例2が組み合わさったような状況ですが考え方は同じです。
 たとえそこでヤマトシロアリが多数生息していても、こちらの被害とは別のものと考えるべきです。かりにそういう敷地の管理をしっかり行ったとしても、 こちらの敷地のシロアリをいなくするとか、被害をあらかじめ予防するということには結びつきません。また、そういう環境と隣接しない他の地域の建物と比べ て被害の可能性が大きいわけでもありません。どんな土地にも生息して当たり前の土につき物の土壌生物がヤマトシロアリだからです。
 雨じまいが悪いとか、植木鉢に毎日水をやるとか、苔が生えているというような水とのかかわりでシロアリが増えるということはありません。むしろ水が多すぎる場所ではシロアリは生息しにくくなります。
  ヤマトシロアリによる被害の原因は、もともとその土地に住むシロアリの上に建物が建つことで床下に囲い込まれて生き延びたシロアリであって、隣から来たも のでもなければ湿気やカビが多いから発生したわけでもありません。いったん駆除してしまえば、床下に湿気があろうが、少々木切れが転がっていようが、条件 に変化がなければシロアリが新たに発生するものではありません。
 当社の顧客の中に森林の一軒家で、周囲が倒木だらけ、シロアリだらけの家があります。そして約10年間薬剤散布をせずに定期点検してきましたが、床下ではシロア リの動きは一貫して見られません。湿気も十分あるのですが、木材を入れた監視ボックスを床下に埋めておいても食べません。一方、別の家では床下ではおびた だしい数の蟻道が見られるのに、庭先ではシロアリを探すのが困難でした。つまりヤマトシロアリ地域では建物の内外は別のものと考えられるし、周囲がどうで あれそのつど個別に対処すればいいのです。

イエシロアリの場合

 地下のシロアリが隣にいるものと同集団かどうかは具体的に調べないとわかりませんが、かりに隣とつながっているものであっても、対処としては各世帯ごとに行うべきものです。
 もちろん羽アリを伴う大きな被害がある建物の管理者がシロアリ技術者に依頼して駆除できればいいのですが、各家庭の事情もありますのでなかなか専門的な駆除ができない場合もあります。
 そういう場合に近隣住人から駆除を強制すべきでなく、個々の敷地ことに個別に対応すべきです。これも具体的な状況を判断して最適な方法を選ぶ必要がありますので、素人判断で薬剤を塗っておくのでなく専門の技術者に相談すべきです。
 また、必ずしも「管理が悪い」場所がいつでも主な巣の所在地になるとは限りません。一見整備された「管理のよい」庭園や建物に最初の巣ができて「管理が 悪い」建物方向に侵入することもあります。つまり、長い目で見れば巣ができて周囲に影響する可能性としては隣近所はお互い様なのです。
 だから、イエシロアリが生息する地域で新築やリフォームを予定する場合は、薬剤による予防、建物の構造、庭周りの配置、羽アリの誘殺など各面からの対処を検討し、どこから侵入されても対応できるようにすべきであり、その責任は個々の家主にあります。

乾材シロアリの場合

 乾材シロアリでは木材の管理や敷地内の整頓で被害を阻止できるものではありません。生息地域とその隣接地域ではどこで被害が見つかってもおかしくないというように考えるべきです。
 鉄筋コンクリートの建物ですら内部には木材が使われているのですから、そこが発生源になる可能性もあるのです。また、場合によっては庭木、木製電柱、立て看板などに生息して羽アリを出すこともありますので、建物だけを見ていてもわからないのです。

近隣トラブルを未然に防ぐために

・生き物の動きを把握しやすい建物の構造にする

   床下や天井裏から建物の基本的な部分が点検できるようにしておけば、シロアリの侵入を早期に発見できるし、巣の探知や対策への判断がより的確にできま す。また、専門のシロアリ技術者に相談して、個々の建物のシロアリ対策上の重点などを聞いておけば、急な動きがあってもあわてることがありません。「床下 がない」とか「天井裏がない」という構造は、生息や被害状況の把握が難しく、シロアリ密生地域では禁物です。

・日常的に隣近所との関係を良好にしておく

 これはいろいろな意味で有効です。とくにシロアリの密度が高い地域では、羽アリ情報の共有や対策における助け合いができることで同じ被害でも駆除が的確となり、ひいては駆除費用の節約にもつながることもあります。

・建物内外の整頓

 それほど神経質になることはありませんが、人並みに整頓しておくことでいわれのない非難をかわすことができます。そのうえで焼き杭にヤマトシロアリがいるのは当たり前、羽アリが出るのも自然なことと思えばいいのです。
・手の届く範囲にその家を建てた大工さんや職人さんが生活し、連絡が取れるような家の建て方をする。
 シロアリ対策が必要になった場合、建物の具体的な構造などを聞くことができれば近隣に迷惑となるような工事が必要でなくなることもありますし、結果として改修が必要になった場合も柔軟に対応してもらえます。

・シロアリ被害が自宅で見つかったら

 適当な薬剤を買ってきて散布する(多くの場合無駄になる)のでなく、まずはシロアリ技術者の判断を聞き、最も適切な対策を立てることが必要です。そして駆除後にも駆除内容が文書 化されるようにすべきです。ここでいう文書とは「保険」とか「保証」ではなく、なによりも被害状況とシロアリの生態に基づいた処理の根拠を 示した文書です。つまりなぜその処理が必要だったのかということが文書として残される必要があります。そうすれば万が一トラブルとなっても説明しやすくな ります。