人類は人間の生活環境の確保という認識から人間の意図から独立した環境の保護の重要性に気づき、地球環境や生物種の絶滅を危惧する時代に生きています。そして今、生物全体の多様性を維持すべきであることが共通認識になっています。
アメリカを除く主要先進国など世界のほとんどの国が生物多様性条約を締結し、わが国も1993年に18番目の締結国となりました。
そして、わが国では1995年に生物多様性国家戦略を策定し、条約上の義務を履行するために各種施策が実行されているようです。(生活空間にまで及んでいない点がまだまだ不十分ですが)
外務省/生物多様性条約
環境省/生物多様性センター
多様性維持の意味
生物の駆除は生物多様性維持が前提であるべきです
本来あるべきシロアリ駆除やその他の生物の駆除は、人間が地球上で生きるために必要であるだけでなく、他の生物とうまく共生していくためにも必要です。
駆除によって人間は生物のあり方を知り、生物のほうも駆除されることで人間への適応の仕方を知ります。
しかし、1950年代前後から主流になったマニュアル式の防除思想、薬剤の大量散布は、生物の生息の仕方を急激に変えてしまいました。それらは農薬の大量使用、空中散布、そして消毒風シロアリ対策などです。
シロアリ対策における薬剤大量散布は、被害範囲の大小にかかわらず、床下全体に薬剤を散布することで土壌生物や床下生物に大きな影響を与え、本来床下など家屋の一部に適応して生きる身の回りの生物の様相にも影響を与えました。
薬剤散布の有無が対立点ではありません
必要最低限の駆除を追求するのか、アバウトに殺し続けるか
薬剤の大量散布への批判的世論が大きくなる中で、いま世界で広範囲に使用されているのは、「薬剤を散布せず、巣ごと駆除」を掲げたマニュアル式のベイトシステム※です。
このシステムでは薬剤は確かに散布しませんが薬剤散布と同じくアバウトな処理で、駆除すべきシロアリに作用するかどうかは結果次第であって、場合によっては家屋内外のシロアリを絶滅する可能性もあります。
とくにヤマトシロアリのようなシロアリでは、家の外のシロアリは駆除しなくても一般には家屋に影響はありません。庭先のヤマトシロアリまで生息しなくなったことをこのシステムの成果として吹聴するとすれば生物多様性の時代への反動です。
実際、どのシロアリ駆除でも生態に基づく本来の駆除手段なら大量散布することなく可能であるだけでなく、駆除効果もはるかに短期間で得られます。ベイトシステムに頼る必要はないのです。
にもかかわらずなぜマニュアル式ベイトシステムが存在するのかといえば、大量散布と同じように技術がなくてもマニュアルで処理できるからです。マニュア
ル式大量散布と同じ考え方で採用できる方式だからです。だからこそ、単純でわずかな被害でも大げさにベイトを設置してしまうのです。これはシロアリの生息
にかかわらず床下全体に薬剤を撒くのと同じです。もちろん、消費者に無駄な出費を強いることにもなります。
つまり、薬剤を撒くことと撒かないことが対立しているのではありません。大量散布思想の延長上で無差別にシロアリを殺し続けるのか、個別の処方に基づき駆除対象を絞り込んで必要最低限の対策を行うのかということが現代の対立点となっているのです。
もはや核兵器のような「効きすぎる薬剤」はいらない
駆除すべきターゲットを決めて必要最低限の処理をする。この点ではより優れた薬剤の必要性は依然として存在します。しかし、ほとんどは現状の薬剤で十分
対応できます。イエシロアリでもヤマトシロアリでも乾材シロアリでもすでに「優れた薬剤がなければ駆除できない」状況にはありません。微量・少量の薬剤使
用による巣の駆除はすでに行われているし、もともとそういうものだったのです。
一方、市販の薬剤としてスプレー剤があります。直接吹き付けて殺すものであり、シロアリや昆虫から認識しやすく、それほど長期に残留しないのでこれまで
とくに生態系に対する問題はおきていないのですが、これが「いつの間にか知らないうちにシロアリがいなくなる」という市販の毒餌剤となると問題を生み出し
かねません。これは素人が説明書を読んだだけで適当に設置してしまうのですから無駄な薬剤使用につながります。これは最近よく見られるあきれた光景が示し
ています。つまり、シロアリの古い被害部に市販毒餌がテープで貼り付けてあるとか、ほとんどシロアリがいないような庭先にいくつも放置してあるという光景
です。この先こんな調子でむやみに薬剤が転がっている状況が広がるとしたら予測できない生態系の改変につながるのではないでしょうか。
しかも、現在の毒餌よりもさらに効果の大きい家庭用薬剤が将来市販されてむやみに使われるとしたら、誰もコントロールできない大きな力になって環境に影
響するのではありませんか。しかも、この場合も必ずシロアリが駆除できるかどうかわかりません。なぜなら最近の被害の特徴のひとつは家屋の特殊性から投薬
点が見つからない場合が多いからです。羽アリは出るのだけれど何一つ兆候がない。こんな場合は技術者の判断によって対応すべきなのですが、「シロアリが自
ら巣の中に持ち込む画期的な薬剤」「手軽に巣ごと駆除できます」というようなパッケージにつられて購入したとすれば、消費者は半分詐欺にあったようなもの
になってしまいます。
※ここでいうベイトシステムとは、家の周囲に多数の餌箱を埋め込むアメリカ式のものであって、伝統的な誘殺法およびその発展した形態であるブリングシステム(当サイト「その筋の用語解説」参照)を意味しません。これらの誘殺法はアバウトに殺し続ける米式システムと異なり、駆除すべきシロアリ集団を特定してこれに直接作用するものです。
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