シロアリとのつきあいかた

シロアリを知ること。これがすべてです。

共生を基本とするヤマトシロアリ属

ヤマトシロアリ属は中国では散白蟻と呼ばれ、
分散したコロニーとして日本各地に生息しています。
かれらのコロニーはある時は分断され、またある時は融合し、
土中で有益な活動をし、年に一度の羽アリによって多くの生き物を養っています。
たまたま家屋に侵入して被害を与えることはあっても、
個々のコロニーごとに対処すればいいのであって、
まだ、「害虫」になっていないコロニーは駆除の対象ではありません。
家屋に被害を与えているコロニーにたいしては
薬剤も含む適当な手段できちっと駆除してやるのが筋というものですが、
いかに安全な薬剤やシステムであっても、
シロアリを排除したり撲滅したりするのはまちがいです。
床下にヤマトシロアリがいたとしても、
定期的にメンテナンスして、監視すればいいではありませんか。
すなわち、ヤマトシロアリとは共生を基本とし、条件に応じて駆除をする、
これによって彼らとのあいだに対話が成立するのです。

駆除を基本とするイエシロアリ属

イエシロアリ属は大規模集中型のシロアリです。
本巣が家の外にあっても家の中で集中的な被害を生み出します。
そのうえ、生態に合わない化学薬剤をどれだけ撒いても
イエシロアリは駆除できないし、追い出すこともできません。
当然ながら、「防蟻防腐処理」で予防できるはずもありません。
彼らに対しては既成のマニュアルや仕様書はまったく意味がありません。
逆に、巣系を把握して生態に働きかけることができれば
この世界最強のシロアリも、ほんのわずかな薬剤で駆除できます。
きちっとコロニーを駆除してやれば、
彼らは人間とうまく付き合うことができるのです。
すなわち、イエシロアリとは駆除を基本とし、条件に応じて共生する、
いいかえれば、住み分けの思想が必要なのです。

長期にわたって寝食を共にすべき乾材シロアリ

アメリカカンザイシロアリやダイコクシロアリなどの乾材シロアリは
土を必要としない超分散型のシロアリです。
1本の柱にいくつもの微細なコロニーが生まれ、
羽アリの群飛もコロニーごとにまちまちで、全体としては季節を選びません。
また、生息部位はコロニーが小さいと探知が難しく、
短期間に生息の全体像を把握するのは不可能です。
もちろん、燻蒸処理を行なえば一挙に駆除可能ですが、
通常1つの家屋に被害がある場合、
隣近所にもたいてい被害があるものです。
そのうえ、羽アリの営巣率がかなり高いので、
残存効果のない燻蒸処理では、ふたたび被害が生まれます。
また、民家で燻蒸処理を多用するのは
家屋周囲の生態系からいっても問題があります。
ところが、さいわいにも乾材シロアリは
コロニーが小さいことにより
家屋にとっての致命的被害を短期間には与えません。
すなわち、定期的に点検し、把握できただけのコロニーを
その都度一つ一つ駆除することで十分対処できるのです。
つまり、乾材シロアリとは長期にわたって駆除しながらも
寝食を共にすることが必要なのです。
そして、決定的な予防は「持ち込まない」ことです。

マニュアルやシステムではなく技術者が必要

シロアリがいてもいなくても一律に薬剤処理する、
これがすべての問題の始発点です。
「薬剤が安全だから」、「システムが安全だから」、「仕様書どうりだから」、
薬害の背景には必ずこうした発言がありました。
だれがどのようにシロアリの状況を把握し、
シロアリのどのような生態を利用して、どのような手段で対処したか。
これがシロアリ対策の基本です。
日本のシロアリ対策に
シロアリにあまり興味のない薬剤散布作業員はいりません。
マニュアルでしか動けないオペレータはいりません。
シロアリへの知識が豊富で、自分で判断し、現場で学び
居住者の根本的要求にこたえる技術者が必要です。

わがままで傲慢な生き方には薬剤大量散布しかない

「とにかくシロアリは気持ちが悪いので家から追い出して欲しい」
「どうして自分が虫のことまで考えなければいけないの」
「床下や天井裏は無駄な空間だから必要ない」
「とにかく、冬寒くなく、夏暑くない家に住みたい」
こうしたわがままで傲慢な生き方には
薬剤や化学物質の大量使用が似合います。
家とはそもそも微生物も含む生き物とのやりとりの場であり、
家をメンテナンスするうえでは居住者こそが主人公です。
技術者は居住者が生き物とやり取りする上での仲介者であり、
生き物と居住者との間の通訳です。
床下や天井裏にもぐれない家でいい、
家の中に虫一匹いて欲しくない、
ゴキブリ一匹たたけない、
こういう人は地球という自然環境に住めない人です。
こういう人は「自然」を口にしてはいけない人です。
DDTを開発した思想そのものです。
虫や生き物や人間を無視できる思想です。
こういう思想には薬剤の大量使用が最も正しいのです。

人間だけに安全なら皆殺しでいいのか

アメリカ式ベイトシステムはたしかに薬剤大量散布しません。
しかしそれは大量散布思想の延長に過ぎません。
技術的努力を放棄したマニュアル主義です。
うまく駆除できたとしても駆除する範囲を人間が把握できず
あたり一面のシロアリを消滅します。
生物多様性を保全しなければならない時代の要請に逆行するものです。