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シロアリ対策と木材保存

材木が被害を受けないようにすることシロアリ対策 とは違います。
建築業界の人々の多くはどうもシロアリ対策と木材保存を混同しているふしがあります。化学薬剤であろうと最近流行りの炭や木酢液であろうと、木材に処理す ることでシロアリ対策になると思っているようです。また、一部のシロアリ業者もそうした傾向にあり、木材の処理や保護そのものにポイントを置いてしまって います。
しかし、シロアリ対策と木材保存とは異なる分野のものなのです。
その考え方の違いについて、以下に簡単に整理してみます。(なお、ここでいうシロアリ対策とは本来的なものであって、実際に行われているものとは必ずしも一致しません)


シロアリ対策
木材保存
目的
シロアリを制御する
対象木材の生物劣化を阻止する
成否の基準
家屋などへの侵入あるいは人間活動への障害の有無
(木材に被害がなくても他の物に被害が出れば失敗となる)
処理木材が劣化したかどうか
(処理範囲以外に責任は及ばない)
処理のあり方
診断に基づく対応 (予防でもおなじ)
マニュアルに基づく対応
処理の重点
生態・生息状況にあった処理、非対象物への影響の軽減
処理そのものの均一性・完璧性
対象範囲
対象となるシロアリコロニー (防腐等は付随的・条件的)
防蟻・防腐・防カビ・防虫・防炎等
薬剤の処理
診断に基づき必要な処理を行う
マニュアルにより均一・丁寧に行う
薬剤の性質への依存性
基本的には依存しない (適当な薬剤がなければその場で考える)
薬剤に大きく依存する
木材内部への処理
ふつう必要ない (穿孔の目的は殺虫であり、木材保護ではない)
浸透性がきわめて重要
手段・手法・薬剤
多種多様
いくつかのパターン
湿気乾燥との関係
直接関係しない (あくまで条件)
直接関係する
条件性
現場に合わせるほど処理が適切なものになる
工場での処理が最も効果的で合理的
相互の関係
木材保存はシロアリ対策の一構成部分にはなりうるが、シロアリ対策の代用はできない。
シロアリ対策は木材保存ではないし、木材保存を直接の目的としない

上記のようにシロアリ対策と木材保存とは別々の分野に属するものであるし、その目的やスタイルもまったく異なるものです。
それぞれの分野にはそれぞれの役割があり、どちらも社会的に意味のある重要な分野です。

「防腐防蟻処理」はシロアリ対策ではない

ところが、この二つの異なる分野を強引に結びつけてマニュアル化したのがいわゆる「防腐防蟻処理」といわれるものです。
「防腐防蟻処理」は基本的な性格としては木材保存であり、それに「土壌処理」や「穿孔処理」といったシロアリ対策風の概念を付与したもので、仕様書どおり に行う限りにおいては丁寧さが重視されます。「消毒」とか「防除」と呼ばれる一般的なシロアリの薬剤処理は、この「防腐防蟻処理」のことであって、どうし ても木材保存風に薬剤の均一散布や木材への浸透性を理由に油剤が多用される傾向にあります。
また、近年一部で使用が広がったヒバ油や月桃エキスなど自然物によるシロアリ対策でも、多くの場合どういうわけか「防腐防蟻処理」と同じ手法がなんのため らいもなく適用され、新築の予防でも木材に穿孔してヒバ油を注入するなどといったシロアリの生態からいえば意味のない処理が行われているのです。
すなわち、「防腐防蟻処理」の特徴は、その土地のシロアリの生息状態や家屋環境に診断を下さずに、マニュアルで処理してしまうことです。そして、ふつう「白アリの消毒」などという不適切な用語が使われ、薬剤の大量散布とシロアリ対策での過剰処理につながります。
もちろん、シロアリ対策でも薬剤による予防という概念はあります。しかし、それは「防腐防蟻処理」とは異なり一律な処理ではありません。「ここにおそらく 侵入してくるであろう」とか「シロアリがここに来た時にどうなるのか」という技術者の判断や推理に基づいて、最も効果的な部位に最も効果的な方式で施薬さ れるのです。それは家屋の状態や周囲の環境によってすべて異なります。
とくに近年ベタ基礎やユニットバスの普及により、家屋におけるシロアリ対策上の重点は明らかに変化しました。これまで常識だった「水まわりにシロアリが侵 入しやすい」というのは、少なくとも新築家屋においては過去のものとなりつつあり、むしろ玄関などの扉枠周囲や高断熱による特殊構造部分に重点は移ってい るのです。そして実際、浴室の天井近くまで丁寧な「防腐防蟻処理」が施されながらも、玄関でシロアリ被害が出たりするのです。

薬剤に頼らないシロアリ対策は設計段階から

これからのシロアリ対策はやはり「防腐防蟻処理」から離脱し、シロアリとのやり取りの本道に戻るべきです。これはシロアリ業者だけでなく、設計をはじめとする建築関係者全体の課題でもあります。
そして、新築家屋のシロアリ対策は、薬剤処理よりもまず設計段階で、シロアリ被害の場数を踏んだ技術者のアドバイスを受けることから始まるのです。そうすれば薬剤に頼らないシロアリ対策が実現するのです。
逆に、シロアリ対策上無理のある設計や構造(すなわち、生き物と調和できない構造)で家が建てられてしまってからでは、部分的にではあれ薬剤の投入が不可避となることが多いのです。
とくにリフォームでは、土間を残したまま浴室を部屋にしたり、バリアフリーのために床下を犠牲にしたりするといった乱暴な設計が多く、後日居住者に余計な出費を強要することになります。

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