珍しくないヤマトシロアリの高所被害
「水を運べないので湿ったところにしか生息できない」は生態に合わない!

 屋根を支える小屋組の被害が目立つイエシロアリと比べれば、ヤマトシロアリの被害の多くは土台や床組材に見られるというのは事実です。しかし、ヤマトシロアリの高所被害や高所営巣は必ずしも例外的ではなく、数は少ないとはいえこれまでもしばしば見られた一般的な現象です。
 一部の書物では「ヤマトシロアリは水を運ぶことができないので湿った木材しか加害できず、建物の低い場所でしか生息できない」などと説明されていますが、それは事実に合いません。
 また、ヤマトシロアリの高所被害をもっぱら雨漏りや特定の条件で説明するのも無理があります。

事例 1

 トイレ付近の天井裏の被害部分から羽アリが出たところ。
 羽アリは数年前からトイレおよび隣接する玄関ホールや押入れで見られましたが、トイレ周囲の柱や床下に羽アリの原因となるような被害はありませんでした。
 そこで天井裏を調べたところ松の丸太にかなりの被害があったのです。
 この家では雨漏りはまったくなく、トイレもとくに湿っているような状態ではありません。
 一般に太い材木というのは水や土を貯めこむことが可能で、本来の地下からの侵入経路を断ち切った場合でも長期間木材内部だけでシロアリが生息できます。(岡崎市内)

事例 2

 玄関の天井裏の被害。
 玄関の内外から羽アリが出るということで天井裏を調査したところ、松の丸太と軒桁に被害があったのです。
 この家も雨漏りはまったくありません。
 シロアリは玄関の外壁基礎からかなり太い蟻道を構築して天井に侵入していました。
 この基礎の蟻道部分はコンクリートの露出高が低く、数センチ離れたところの植裁が覆うような状態となっていましたが、これがシロアリに有利な条件を与えたようです。(富山市内)

事例 3

 天井裏2ヶ所の被害。
 この家では床下に数本の蟻道があったのですが、それらの蟻道では羽アリの量や位置を説明できないので天井裏を調べたところ、2つの部屋にそれぞれ別途の侵入経路を持つ天井裏被害がありました。この家も雨漏りはまったくなく乾燥状態です。
 シロアリは一方では玄関扉枠付近から軒桁・梁に侵入(左)し、他方では浴室土間下から柱伝いに天井裏に侵入(右)していました。(岡崎市内)

事例 4

 広範囲の被害。
 この家では局所的にはそれほど大きな被害ではなかったのですが、小屋組の南側全体の梁や桁に被害を及ぼし、大量の羽アリを出していました。
 この家も雨漏りはまったくなく、天井裏に水分はありません。
 床下には割合太い堅固な蟻道が数カ所ありました。(岡崎市内)

事例 4

 二階の被害。
 この家では二階の押入れの敷居が被害に会いました。ちょうどその時NHKの報道番組でアメリカカンザイシロアリが取り上げられていて、「ヤマトシロアリは建物の低い部分を加害するが、アメリカカンザイシロアリは建物の高いところを加害する」という間違った説明が行われたことから、居住者は当初アメリカカンザイシロアリと思い込んでいました。
 しかし、明白な蟻土があり、直下のヤマトシロアリ被害部から蟻道でつながっていたものでした。
 もちろん、ここも雨漏りはありません。(岐阜県内)

 ヤマトシロアリの高所被害が比較的少ないのは、
 水を運ぶ能力の違いではなく、種の生き方の違いが原因
 上記のようにヤマトシロアリでも高所被害はそれほど珍しいものではないし、ちゃんと水を運んでいるからこそ乾燥した天井裏で生活できるのです。しかし、それでも同じ土壌性のイエシロアリと比べれば確かに高所被害は少ないし、その規模も小さいと言えます。
 なぜそうなるのかといえば、それはヤマトシロアリが集団の巨大化によって生きることを常としない分散型の生き方のシロアリだからです。イエシロアリのように集団を単一の大きなものにするよりも、散らばった集団として、あるいは散らばった部局として生きようとするからです。
 だから、通常は一つの集団の活動範囲が横にも縦にも狭いので高所被害になりにくいのです。ただし、シロアリは分散という生き方を意識しているのでないので、何らかの原因で集団が分散せず巨大化することもあり、そうした場合は高所被害や広範囲の被害にもなるのです。
 もちろん雨漏りや屋上緑化など高所で水が得られるなら小集団であっても高所被害となるのは言うまでもありません。
 シロアリの種類は被害の位置では判断できない
 イエシロアリでも初期の集団は小さいのでヤマトシロアリとほとんど変わらないような状態の被害もあります。また、環境によってはジメジメした所で見られることもあります。たとえば、バナナやイモ類などのイエシロアリ被害では水か滲み出るようなところでシロアリが多数見られます。
 アメリカカンザイシロアリでも床下の被害はかなり多いし、湿った木材も加害します。乾材シロアリの仲間の被害が乾燥木材で目立つのは、これらのシロアリが比較的乾燥に強く、超分散型で小さな木材でも生息できることによるものです。しかし彼らも水が必要というのは同じで、外国では掘っ立ての柱の土中埋設部分のほうが地上部分より乾材シロアリの生息密度が高かった事例もあります。
 したがって、シロアリ被害の場所の高低や乾燥度合いでシロアリの種類を判断しようとすると、間違った対策につながってしまいます。