この中で興味深かったのは、駆除思想の伝統のない国々の防除型シロアリ対策の最先端に位置する学者が「これからはシロアリコロニー全体をひとつのものとして把握する、いわば東洋医学的視点が必要だ」と言う意味のことを述べたことだった。 すなわち、防除型のシロアリ対策に依拠してきた世界のシロアリ対策の水準は、やっとのことで日本と中国に古くから存在してきた伝統的なシロアリ駆除思想の足元に及んだのである。 伝統的シロアリ対策は、常にシロアリを一つの全体としてとらえ、シロアリの生態のポイントに働きかけて駆除してきた。この伝統的思想においては、ポイント から離れた薬剤大量散布がシロアリ駆除に結びつかないことが終始一貫となえられてきたにもかかわらず、戦後における世界のシロアリ対策の流れはアメリカ型 の大量散布や撲滅思想に引き回されてきたのだった。 セミナーの中ではまだまだそうした撲滅型思想が根強く、フランスの研究者は日本よりはるかに大掛かりな大量散布について説明していたのである。 世界の流れは撲滅思想を残したまま、一方ではベイトシステムに、他方では物理的バリアへと進化してきているが、具体的な現場での対応については未解決の問題も多く、だからこそいまだに多くの化学薬剤に頼った処理が主流となっている。 また、説明にも色濃く現れたが、薬剤中心の考え方では、伝統的駆除における亜砒酸の施薬と、オーストラリアなどでの亜砒酸粉剤の「ダスティング」が区別できないのである。 こうしたなかで、ベイトシステム研究の第一人者が「東洋医学」について発言したことはきわめて重要な転換点を意味している。これにはたぶん既存のベイトシステムの諸条件に適応する上での限界性を意識したものだと思われる。 つまり、ベイトを扱う上ではベイトという薬剤の側からではなく、どうしてもシロアリの側から考察しなければならないからである。これまでの薬剤バリアで は、処理剤がシロアリに加害されないことに意義を見出されていたが、ベイト処理ではシロアリにとってベイトとは何を意味するのかということが重要になるか らである。結果オーライの考え方からの脱却に迫られているようである。 一方、化学薬剤の分野でも遅効性で忌避性がないという特徴の薬剤がこれからの主流となる状況だが、これまた伝統的シロアリ対策の側がもともと掲げてきた主 張であって、この分野でも世界の流れは伝統的駆除思想の側ににじり寄ってきた形となっている。しかし、その具体的使用法となると相変わらずの大量散布を維 持したままである。それはやはり、駆除というものがわかっていないことが根本にある。 だから、伝統的手法をもつ日本の技術者が数リットルでイエシロアリのコロニーを駆除したと聞いても理解できないのである。 2001/6
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