浴室や水周りの壁の白さの愚
浴室の壁は当たり前のように白いが、誰も疑問に思わないらしい。
ずっと昔の民家の湯屋の内壁は木の板で白くない。あるいは漆喰壁でも黒くなったままだ。その後ややハイカラな風呂場の壁面はタイル壁となり、装飾的な色合いとなったが今ほど白くない。
白い壁はカビが目立つが黒い壁は目立たない。当たり前だ。しかし、わざわざカビを目立つようにしておいてカビ取り剤を使用するのはおかしなことだ。そして目立つカビを殺せば、他のカビが増えて悪循環となり、生物バランスを崩す。
ホテルのように毎日掃除し、客も一時的にしか入ることのない浴室なら白い壁にカビ取り剤もよかろう。でも必ず掃除され、乾燥されるとは限らない民家には合わない。とくに近年のように家族の入浴時間がまちまちだとカビの生育には好条件だ。
台所も没個性的にどこでも白いが、料理をしない家庭を除けば必ず汚れるので、またまた何らかの手軽な洗浄剤のお世話になる。汚れたりかびたりするのが許容されない民家はのんびりと住むのに向いているのだろうか。
新築当初はたしかに手入れを怠らない。わずかな埃も見逃さない。「ビールが飲めるベランダ」で恥ずかしげもなくビールを飲んでいるうちはまだ手入れも行き 届いている。しかし、10年もたつと家への情熱を失う。吹き抜け天井の横架材の上の埃もそのまま。ビールの飲めるベランダは物置になり、白い壁は確実にす すけてくる。
すなわち本当にいい家とは、家に対する情熱を失ったときにこそ住みやすさを感じられる家だ。これは多くの居住者の住まい方に接した上での確信である。
あれこれの数値がどうのとか、あれもできます、これもあります、空気が回ります、というようなおしゃべりとは別のところに実は日本人は生きているのではなかろうか。寒ければ着ればいいし、暑ければ汗を流せばいいのだ。
カビが生えないようにするよりも、カビが生えてもいいようにしたほうが楽ではないか。

シロアリ対策の世界でも似たようなことがある。シロアリを寄せてしまうような構造にしておいて、過剰なガードをするマッチポンプの家だ。しかし、見る人が見れば余計な出費であることは明瞭だ。
設計上のシロアリ対策というのは重点があるわけで、重点さえおさえた設計をすれば、たとえ侵入されてもさほど困らない。
シロアリの侵入を神経質にガードしたり、漫然とその土地のシロアリを殺し続けることよりも、気の向くままに点検できる構造のほうがどれほど理にかなっているか。
2003/4