私はその人に最もふさわしいシロアリ対策として「化学殺虫剤を使用せず、シロアリの生息部分のみ無機系の薬剤を最低限の範囲で使用する駆除」を提案した。 その人は私の提案を検討していただくことになり、その後打ち解けてシロアリの話から家屋の構造などいろいろな話をした。 話が終わって帰る段になり、道具をしまうついでに私はその人に作業のしくみを説明しようと不用意に作業車のハッチを開けてしまった。 これが私の犯したミスだと気づいたときにはすでに遅かった。その人は突然顔をゆがめて苦しみだしたのだ。 どんなに安全性の高い処理をしようとしても、少量とはいえ車の片隅に有機薬剤を積んだ(あるいは過去に積んだことのある)作業車は、化学物質に過敏な人にとっては毒物の塊なのだ。 私は自分がまったく事情を理解していなかったことを思い知らされたのである。頭ではわかったつもりでいても何もわかっていなかったのである。 今もなお化学物質に過敏な人は増えつづけているようだ。たとえ駆除に赴く先の家に問題がなくても、近所にそういう人がいるかもしれない。作業車が風上にあるだけで体に異変が起きてしまう可能性もありうる。 交通事故では「自動車は走る凶器」といわれるが、化学物質過敏症が増える昨今では有機殺虫剤を積んだ作業車は「走る毒物」となりうるのだ。いや、車だけではない。道具や作業服まで気をつけるべきなのだ。 2001/9
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