換気扇・調湿材が効かない湿気

 私の顧客で毎年床下に結露する家がある。築20年ほどの木造軸組の割合本格的な木造住宅である。
 床下には3台の換気扇が回り、北半分には床下調湿材が敷いてある。
 床下の南側半分は露地のままだが、木材が黒くかびている割に土は割合乾いていて結露はない。
 結露は換気扇や調湿材のある北側に集中し、木材の下面にはびっしり水玉がついているので、間仕切り基礎の人通口を通るたびに背中が濡れるほどである。
 かつてはグラスウールの床下断熱材があったが、垂れ下がり部から結露水が滴り、断熱材を押さえる木材は炭のようにもろく腐っていた。今では発泡ウレタン の床下断熱材が設置してあるが、その表面には今でもずっしりと結露している。奥の和室(換気扇あり)はあまり湿気が多いというので、床を剥いで防湿コンク リートが設置してあるが、この部屋でも多量の結露が断熱材やプラ束にある。
 私はこの家に11年も通っている。つまり定期点検は11年目に至っているわけだ。最初はヤマトシロアリの相談で、それほどひどい被害ではないが各所に蟻 道があり、なかには調湿材を利用した蟻道すらあって、当サイトの「俗論と手を切ろう」のページにその写真を掲載している。
 建物に関わっていたシロアリは最初のピンポイント駆除(薬剤使用量は処理液で約2リットル弱)で完全に消滅し、その後床下全体でまったく動きはない。土 台の一部に腐り(褐色腐朽)が見られるが、最初の時点から今日に至ってもほとんど拡大が見られないのでそれなりにバランスができていると思われる。
 和室の床板はもちろん洋間の床板もすべてムク材で合板はまったく使われていないので、湿気による劣化(ふわふわになるなど)はない。
 この家の湿気にかかわる状況を概観すると以下のようになる。

・結露の原因は床下にあるのでなく、主として背後に山を背負ったこの土地の外気によるものであること。
・通年湿気は強いが、結露は1年中あるのでなく夏場に偏ること。
・カビは全体にあるが、木材腐朽菌は部分的であること。
・土台の腐朽は部分的であり10年以上ほとんど拡大していないこと。

 床下換気扇は当初タイマー運転だったが、それでは1日の大半の空気を止めてしまうため、終日運転に切り替えた。そして壊れたら元の格子の風窓に戻すこと にしている。そして結論として、この湿気で劣化するものは交換可能な断熱材の押さえや一部の根太掛であり、しかもその進行は非常に遅いのだから、定期点検 を続けるならこれ以上床下の湿気対策を考える必要はないと提案した。

 合板や集成材に頼る家でなく、分別のある木材の使い方や構造の家なら湿気にはきわめて強くできている。そもそも木材の腐りというのは湿気があれば必ず腐 るわけではなく、そこに木材腐朽菌がいるから腐るのである。腐朽菌の活動がわずかな状態で安定していれば、いくら湿気があっても腐らない。
 実際この家よりもはるかに乾燥している床下で床組み材の大引がドライバーが簡単に突き刺さるほど腐っていた家もある。しかもこの家では大引の腐りには偏りがあり、1本おきに腐っていたり、それに接している土台がまったく腐っていなかったりである。
 木材腐朽菌類も生き物である以上彼らなりに環境に適応した結果の分布であって、とくに木材腐朽菌類が活発な一部地域を除けば湿気と木材があれば必ず腐るのではないことは多くの床下の事実が示している。
 逆に床下換気扇があろうが基礎パッキンがあろうがベタ基礎であろうが素材や構造しだいでは腐る可能性があるといえる。だから、万が一腐っても大事なとこ ろが腐らないように、あるいは湿気によって早期に劣化しないように、構造と材料の検討を行うことこそが本当の意味での湿気対策といえる。機械や薬に頼るの はあくまで補助手段に過ぎない。
 もちろん木材の腐りがシロアリを誘引するなどということは一般論としてはないし、万が一シロアリがいても駆除すれば終わりであって、腐りとは異なる分野であるので、くれぐれも混同なきようお願いしたい。

2009/8