イギリスの研究者がクワガタムシの好む臭いを調べたところ、ショウガの臭いに最も強く反応するという発表をした。そして、これを利用すれば巣を壊さずに幼虫の生息数がわかるかもしれないと報道された。 興味ある話である。ただ、ショウガに反応するというのは他の地域のクワガタも調べたのだろうか、外国の物はどうだろうか、という疑問もわく。 シロアリでは木材に対する好みは結構多様で、一つや二つの試験ではおそらく大まかな傾向は分かっても確たる結論は見えてこないと思われる。 なぜなら、現場でよく目にするが、同じ樹種の接合部、例えばヒノキの土台の接合部で被害がピタリと止まっているのである。決して同じように食べていない。土壌性のシロアリでも乾材シロアリでもこういう現象としては同じである。 かりに、このよく食べた方のヒノキ材とそれを食べたシロアリを使ってシロアリの嗜好性の試験をしたとすると、「ヒノキはよく食べられる材」ということになる。 逆によく食べなかった方の材を使ったとしたら、「ヒノキはあまり食べられない」ということになって別の樹種との嗜好性の順位が入れ替わるかもしれない。 しかも実際に現場で土台を食べているシロアリは地下とつながり、水も持ち込み、環境を整え維持して土台を食べているのだから、研究者がそうした状態を再現するのは非常に難しいことになるのでさぞ大変だろうと思う。 これは嗜好性だけでなくシロアリと水分との関係でも同じである。現場の水分環境に適応して生きているシロアリではなく、個体を集団から切り離して乾燥に対する反応をシャーレの上で調べて得られた結果というものは、一定の条件での説明材料の一つにはなろうが、現場のシロアリ被害を説明することはまったくできない。 ところで、これまでの「防蟻資材」の試験にはひどく安易なものがみられたが、そうした試験ではシロアリの状態、素性、集団のバランスなどはまったく評価されず、ただ試験材料が加害されたかどうかだけの結果となっている。中にはわずか500以下のそれも蟻道も作ることもできない裸のシロアリが使われていることもあった。 シロアリは非常に弱い生き物だが、環境に適応したときは非常に強い。 建物時に基礎工事などで土壌が掘り返され、多くのヤマトシロアリは分断され死滅する。しかし非常に運のいい集団が基礎の下で生き延び適応して建物に侵入する。 彼らは彼らにとって都合のいい環境を維持しながら木材に到達する。到達した木材は彼らの活動のバランスの中でかじられるのである。木材の含水率は彼らの持ち込む水によってどうにでもなってしまうし、どうにでもならなかった集団は死滅している。逆に言えば目の前の木材をかじっているシロアリはすべて成功者で、個別の環境と一体となっているのである。 食べている材がヒノキであろうがヒバだろうが、はたまたポリスチレンフォームであろうが、そうした形で一つのバランスを作っている。しかも前記したように同じ樹種でも食べ方が異なるように体質(個体の体質なのか集団の体質なのか分からないが)に微妙な個性を持たせている。つまり同じシロアリと言っても非常に多様なのである。 シロアリの嗜好性や木材の含水率の試験というのは、こうした多様で特殊なものを想定して行われないと、その結果と現場の実情との間に矛盾が生じてしまう。 事実そうして炭の液の「防蟻性能」の問題がうまれ、「断熱材を密着させるとシロアリが通過しない」という試験結果の問題が生まれたのである。 利害にかかわらない人にとっては、たとえ事実と合わない結論を出してもあとから訂正することもできる。ところがこうした試験結果は一旦産業と結びつくと独り歩きして消費者の貴重な財産を侵害してしまう。 空気が循環するソーラーハウスの問題はこの典型である。 素人であるにもかかわらずソーラーハウスの創始者がいくつかの過去の試験結果をつなぎあわせて「乾燥しているのでシロアリが生息できない」と断言した文書を書いて家を売りだした結果、現実には被害が広がった。 個々の試験結果は事実であろう。しかしそこからシロアリの生態は類推できないことが分かっていなかった。個々の試験論文には「この結果と現場のシロアリの生態と同じであると断言するものではない」などとと親切な注意書きが明記されてはいないのだから、こうした素人が読めば「ヤマトシロアリは乾いた木材を食べない」と思うのも無理はない。 昨年相談を受けたソーラーハウスの現場では、築20年で建物の数ヶ所がヤマトシロアリに加害され、とくにトイレのヒバの土台は接合部がかなり消失している。 これもある種の試験結果では、「ヒバには毒性成分があるのでシロアリは加害しない」あるいは「加害されるかもしれないが表面の化学成分が低減したことが原因だ」という意味の結果が出ていたが、現場の実態をまったく説明できていない。 つまりこの家の居住者は「乾燥した環境下ではヤマトシロアリは生きられない」という結論と「ヒバは加害されない」という結論に翻弄され、わずか20年で多額の修繕費の出費を余儀なくされたのである。 この家では土台がヒバだったから構造材の取替までは必要なかった。しかし同じタイプの家でも土台が集成材の家では、築10年や15年で数メートルにわたって土台が消失している家もある。 こうしたことに対して、間違った文書で家を売ってきた工務店はもちろんだが、試験結果から間違ったシロアリの生態を類推する文書の横行を許した側にも責任があるのではないかと思う。 これは過去のことだけではない。今もなおいくつかの試験結果の都合のいい解釈を根拠に「シロアリ対策は万全」などと主張する危うい家が売られている。 こういうことと比べれば、「クワガタムシがショウガに引き寄せられる」という研究発表に、なんと平和な世界であろうかと変に納得した。 2011/1
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