ポパイとシロアリ

 Yoututeでは昔テレビでよく見たアニメ「ポパイ」が見られるが、その中にシロアリ(のような虫)がポパイの家を食べてしまうというストーリーがある。
 「Insect to Injury」という話で、塀から家具、果ては建物のすべてを食べられてしまう。最後はホウレンソウを食べて超人となったポパイがすべて鉄で家を建て直して終わるものである。
 このストーリーは1956年に出来たカラー作品で、これはこれで面白いのだが、筆者が子供の頃に見たシロアリのストーリーとは異なる。
 当時はまだモノクロだったが、筆者の記憶には殺虫剤を撒いても効かないシーンもあったし、建物だけでなく大砲や軍艦、果てはホウレンソウの缶詰までも食べられたのである。Youtubeでは残念ながらそのストーリーは見つからなかった。
 シロアリ被害の実態から言うと、大砲まで食べられてしまうモノクロ作品のほうが鉄の家なら食べられないというカラー作品よりもリアルだと言える。
 実生活では食べられない材料を使ってシロアリ対策はできない。なぜなら、木材と木材・植物加工品(紙、繊維など)を使わない生活はありえないからである。
 前記カラー作品の最後のシーンでは、ポパイが鉄の家の鉄の椅子に座ってシロアリが困っているのを見てにこやかにいつものパイプを取り出したところ瞬時に食べられてしまったので、あわてて鉄のパイプをくわえるというオチがついている。
 現実の被害では、かりに建物が無傷でも、畳、建具、カーペット、壁紙、書類、書籍など被害を受けるものは無数にある。事例は少ないが可能性を言うなら金属でも孔が開けられる場合もあるし、結露しやすいので水源にもなる。
 1956年というと日本の高度成長がいよいよ日程に登る時期だが、家をすべて鉄で作り変えるなどという発想は、物量に物を言わせて第二次対戦を勝ち抜いたアメリカらしい発想である。
 アメリカでは長い間巣の駆除という発想がなく、薬剤の大量散布という力ずくの方法に頼ってきた。近年になってようやく巣を駆除する方式が生まれたとはいえ、それは目標を定めない毒餌の大量設置であって、あたり一帯の目標外のシロアリの絶滅につながるものである。力ずくの発想はまったく変わっていない。
 日本の木造建築ではヤマトシロアリには割合寛容だった。木材を密閉していないので早期に発見できるし補修も容易である。また、伝統的に木材の使い方として下が硬く上が柔らかなので、致命的な被害にはなりにくかった。
 イエシロアリは天井裏の柔らかい木材まで一気に加害するので建物の倒壊につながるが、我が国には根本巣を駆除する技術があるし、巣の探知に適した建物構造でもある。
 ただ、最近の建物では柱や土台に平気で芯のない集成材が使われ、しかも吹き付け断熱などで密閉してしまう。材の柔らかさによりシロアリ被害や腐朽のスピードを早め、密閉によって対応を遅らせ、結局建物の寿命を縮めてしまう。材の再使用もできない。これでは壮大な産業廃棄物を作っているようなものである。
 ポパイの鉄の家の水準とあまり変わらないが、業界優先と理屈の多さが「近代的」特徴といえる。

 ちなみに、Wikipediaではポパイがホウレンソウを食べる前はタマネギを食べて超人となっていたと書いてあるが間違いである。筆者はホウレンソウを食べるに至ったストーリーを見てよく覚えているが、タマネギではなくニンニクである。当時の日本語吹き替え(声・浦野洸)もニンニクだったし、画像も明らかにニンニクだった。たぶんWikipediaを書いた人は実際のものを見ていないのだと思う。
2013/2