以前「シロアリ駆除のおまじない」という文章をこの閑話に書いたが、今回はその続編である。 昨年シロアリ調査した現場でベイトシステムに関わる現場があった。 ベイトシステムというのは毒餌によってシロアリを駆除するといわれるもの。 調査したのはヤマトシロアリのみ生息する山間部の地域で、建物は築6年。 居住者は、基礎断熱方式でシロアリが心配だからと新築後2年でアメリカ式ベイトシステムを導入。建物の周りには何ヶ所もベイトステーションという餌の入った筒が埋めてある。 しかし、調査依頼は「シロアリがいるから心配」ということだ。 現場には本宅以外にも畑や小屋もある。シロアリがいたというのは本宅の東側から3メートルほど離れたところに置かれた物入れ用の木箱で、筆者も生きたヤマトシロアリを確認できた。もちろん本宅と木箱の間にもベイトステーションが埋められている。 ということは4年間ベイトステーションを設置していても数メートルの位置のシロアリは元気に生きていたことになる。また、調査時では確認出来なかったものの、薪が積み上げてある小屋にもステーションが埋められていながらシロアリがいることを居住者は確認している。 つまり、「シロアリを巣ごと駆除する」「革命的なシステム」と宣伝されてきたアメリカ式ベイトシステムは、4年間もシロアリに何も影響を与えなかったと言えるのである。 こういうことはこの現場以外でもある。 岡崎市内の土間床式の家(コンクリートを高く流して直接床板を張る方式)でも、建物周囲で2年間ベイトシステムを設置してきたにもかかわらず、ベイトステーション付近の基礎断熱材(基礎外周の地面に接して設置)では、元気なヤマトシロアリが見られ、幼虫まで活動していた。幼虫がいたということはすなわちそこが巣になっていたことを表している。 アメリカ式ベイトシステム以外でも「置いておくだけでシロアリがいなくなる」といってホームセンターや生協などで市販されている箱型のベイトについては前回書いた。 これなどはシロアリの知識がない一般消費者が設置するものだから、まったく駆除にならない。 ある家では敷居の古い被害部分に箱型ベイトが粘着テープで貼りつけてあった。しかし、技術者から見れば噴飯もの。なぜなら、そういう場所はシロアリがすでに放棄していなくなっている場所だからだ。食べさせなければ効かない毒餌をシロアリがいない所に設置しても効くわけがない。 これをおまじないと言わずしてなんと言おうか。 こうした状況の背景にはいくつかの要素がある。 なかでも最も重要なことは、消費者の側に正しい情報が伝わっていないことだ。 建物の機能も同じだが、消費者にはある理屈を提示されるとついそれに納得してしまい多面的に考えられない傾向がある。 シロアリの「好むもの」でシロアリを集めて、それに毒餌を入れれば巣の中心まで持って行って巣全体が死滅すると言われれば、とりあえずは「なるほど」と思ってしまいがちだ。 でも、目のないシロアリがそれをどうして見つけるかということ、雑多な要素が入り混じった土の中で匂いや誘引物質が伝わるかどうか、あるいはその土地に適応しているシロアリが外から持ち込まれた「好むもの」を好むかどうか、餌に到達する前に競合他者(他の昆虫や菌類)が占領していないかどうか、かりに餌にたどり着いても毒餌が本当に巣の中枢に運ばれるか、というようなことについてまったく考慮されない。 そしてかなりの人達が、家の周りに無駄なものを埋め込むことに貴重なお金を費やしてシロアリ予防だと信仰している。 一方、消費者だけでなく相当数の「シロアリ防除業者」もまたそういう情報に疎く、まともな判断ができないので、理屈を盲信して漫画的な行為に及びぶ。 ある業者はコンクリートの床下にベイト剤を転がしておき、居住者に対して「シロアリが食べに来ます」と説明した。別の業者は「シロアリが伝達しやすい薬剤を木片に塗って床下に置けばシロアリが食べます」といった。もっとひどい話では、イエシロアリ被害に対してアリ(いわゆるクロアリ)用の毒餌(「○○コロリ」のようなもの)をたくさん置いておけばよいと説明した業者もいたという。昨日今日できた業者ではない。昔からシロアリ対策をやってきた業者である。 以前どこかで書いたと思うが、マニュアル式のベイトシステムに手を染めると業者の質が急降下してしまう傾向にあるようだ。 そして米式ベイトシステム推進派はこうした無知に乗じて商売をしているのだ。 ある研修会で某メーカーからベイトシステムの駆除事例が発表されたが、ひどいものだった。 発表では、このメーカーの餌材はシロアリがよく食べることが強調され、現場でベイトボックス内のヤマトシロアリが死滅して、以降ボックスにシロアリが侵入しなくなったとされた。 しかし、ボックス内のシロアリが死滅したことと建物内のシロアリとどう関係があるのかについては何も話されなかった。そもそもその家にシロアリがいたのかどうかも定かでない。 しかも、スライドをよく見ると、無毒の餌に引き寄せられたシロアリの色合いがすでに不健康な白色に見える。 もともと何らかの原因で弱っていた可能性すらあるのだ。 そもそも、ヤマトシロアリ地域で建物の外のシロアリを殺す必要があるのかという問題意識が必要だ。 発表する側にはヤマトシロアリ対策とはどういうものかという根本部分がわかってなかったし、研修会に集まった業者からも何一つ疑問は出なかった。 かりにこれで「納得」した業者が現場でベイトシステムを行えば、ボックス内のシロアリがいなくなれば「駆除完了」となってしまうわけだ。そしてすぐ近くに元気なシロアリがいたとしても「効果抜群」となるのだ。 消費者としてはこうした「おまじない」に貴重な財産を費やすのは、シロアリ被害以上に悔やまれるものになりかねないので注意が必要である。 (注) ここでいうアメリカ式ベイトシステムとは、アバウトに多数の毒餌筒を埋め込むマニュアル式のものであって、ブリングシステムと呼ばれるものを意味しない。ブリングシステムはイエシロアリに対する伝統的な誘殺法を引き継ぐものであり、駆除すべき巣をあらかじめ調査し、技術者の判断によって直接毒餌に誘導するもの。 2012/1
|