シロアリ駆除のおまじない

今年は駆除現場でへんなものを見た。それは羽アリが出た家の中の何軒かで浴室の入口の扉枠に小さな箱がいくつか貼り付けてあったことだ。
「何のおまじないですか」と聞くと、シロアリがいなくなる毒餌だといい、羽アリが出たから貼ったという。しかも生協で買ったというのだ。
もちろん当然のことながら「それではまったく効きませんからすべて撤去してください。無駄なお金を使いましたね。」とアドバイスした。
ヤマトシロアリではとくにそうだが、羽アリが出た後の穴のあいたままの木材部分にはまずシロアリの活動はなくなっている。羽アリを出した後のシロアリというのは、どの種類でも一様に潮が引くように活動を減退させるものである。
逆に、羽アリの出る前の活動旺盛な時期、とくにイエシロアリのように木材表面に蟻土が吹き出て、取っても取っても蟻土が増えるような木材表面にはこういう 毒餌を仕掛けるのも一つの手段としては必要なことである。以前基礎断熱(内断熱)の断熱材表面に透けて見える蟻道を壊したらシロアリがいたので私も似たよ うなものを自作して貼りつけたことはある。
そもそも毒餌というのは、シロアリに食べてもらわなければ効くはずがない。だからいないところに貼り付けても効かないのは当たり前。それとも貼っておくだけで今流行りの「波動」とか「マイナスイオン」といった怪しげなものが出てシロアリが退散するとでもいうのだろうか。
江戸時代の百科事典である「和漢三才図会」には、シロアリの項目に「ハアリとは 山に住むべきものなるに 里にいずるは己が誤り」と書いた札を柱に貼っておくと被害を免れるという意味の説明が書いてあるが、なんと21世紀の今日でも似たようなことが行われているのだ。

いや、こういう市販の毒餌の存在は以前から知っていた。それは「地面に埋めておけばシロアリがいなくなる」と宣伝されているものだと理解していた。そして 現に植え込みの根元などにそれが無造作に置いてある家にも遭遇した。もちろんこれらはよほど運がよくなければシロアリは入らないだろうが、また入ったとし ても家屋内部のシロアリに影響するかどうかとも別の話ではあるが、それなりの物として扱われていた。
しかし、浴室の入口に貼ってあるというのはまさに噴飯もので、「なんですかこれは」と言うや二の句が継げずに一呼吸おいてから「何のおまじないですか」と聞いてしまったのである。驚いたことに説明書にこういうやり方が載っていたからさらにあきれた。
ある家では羽アリが洗面室の窓から出ているのに浴室の扉枠の古い被害部に貼ってあった。私が外壁をはがして「これが羽アリの原因となった直近のシロアリ被害です。羽アリの出方と被害部がピッタリ一致するでしょう。」と説明してようやく納得していただいた。
要するに、こういうものを素人が適当に設置してもほとんど無駄になるといっても過言でない。しかも、それらの薬剤(一応薬剤だから)の廃棄についても素人任せで、環境への影響も心配される。
とにかく、あれが効く、これが安全、あのシステムが、というようなことを考えるよりもまず、ちゃんとした技術者に相談すれば、無駄のない処方を得られるというものである。
2008/7