環境と人間の変化は、シロアリも含む昆虫対策における困難な状況を生み出している。 環境の変化としては高気密住宅の普及があげられるが、こうした家屋の室内で乾材シロアリや穿孔性甲虫類が発見された場合、思うような駆除ができなくなることも予想される。 いくら安全性が高いといわれる薬剤でも居住者の不安や抵抗感が強く、充分説明したつもりでも処理後に居住者の健康を害する可能性がある。実際人間の感覚や気持ちの問題は数値の説明で解決できないことが多い。 愛知県で1996年に起きた「シロアリ防除」による健康被害では、居住者が気分が悪いと訴えたにもかかわらず某大手業者は「安全な薬剤」だからと大量散布 を続けた。しかも放置しても問題のない他の昆虫の食害痕にまで油剤で薬剤処理していったという。私も後で調査したが、ほとんどが不必要な処理といえる。そ の結果居住者は入院し、その建物に入ることができなくなっただけでなく、同様に薬剤処理された近隣の家にも入れなくなってしまった。 2005年には上記大手業者に100万円以上の見積を出された埼玉の方からの依頼で私が出張調査をした。土蔵のある大きな建物だから全体に薬剤散布すれば 確かに大変な金額になろう。そして大変な量の薬剤を散布することになる。しかし、調べてみると確かにシロアリ被害はやたらにあるがすべて古く歴史的に蓄積 されたものばかりで、現状としてシロアリは見当たらない。だから当面なにもする必要はないですよということで帰ってきた。 もしもこの家で全体に散布したなら、ひょっとして愛知県の場合と同じことになったかもしれない。建物は何度でも修理できるが、健康は二度と元に戻らないのだ。 こうしたなか、数値上でいかに安全といわれる薬剤でも使用できない状況は着実に拡がっている。 2003年に薬剤はあまり使って欲しくないという三河のある農家でホウ素系薬剤を使ったピンポイント駆除をしたが、その翌日居住者から「工事の後気分が悪くなった」との連絡を受けて驚いたことがあった。 実際には別の原因であることが後でわかったのだが、居住者は薬剤に神経質になっている。しかもこういう現場に限ってシロアリが元気だから困る。 その家では玄関付近を中心にかなり広くヤマトシロアリが生息していた(ベイトシステム推進派が喜びそうな現場だ)。ピンポイント駆除なので被害の進行は一 度の処理で止まったが、集団全体はまだ生きている。羽アリの群飛はしばらく建物内外で続き、居住者は途中で「もう全体に薬剤散布してもいいですよ」と音を 上げ始めたが、「せっかくここまで薬剤散布に頼らずにきたのだから」となだめ、定期点検を堅持して数年かけてようやく羽アリもおさまった。 一方2006年に依頼があった知多半島の家では、はじめから薬剤を使わないということで駆除を行った。当初他業者が自然薬剤の処理を勧めたが居住者がこれを拒否した経緯もある。調査すると、ほとんどが床下の蟻道による単純なヤマトシロアリ被害だった。 そこで私は粒子バリアと食塩水の組み合わせで駆除することにした。かなり勢いのある集団だったので、駆除後約2ヶ月で蟻道の約半数は粒子バリアを大きく迂 回して復活し、再びそれを駆除した。その後また2ヵ月後に数ヶ所の蟻道が復活し、これも駆除した。こうして半年近くかかって動きをほぼとめることができ た。 以上の2つの駆除例は割合元気のいい大きな集団のヤマトシロアリの駆除だったが、ヤマトシロアリではごく小さな集団による被害も多い。 県内西部のある現場では勝手口の敷居が被害にあっていて、調べるとたった1本の束に蟻道を延ばし床裏の断熱材を通ってそこに到達したものだった。他には まったくシロアリの動きはない。それならその蟻道と被害部のシロアリを駆除すれば済む話だ。居住者は化学物質に過敏な体質で一般的な薬剤は使用できないと いう。家を建てた工務店はアメリカ式ベイトシステムを勧めた様だが、これこそまさにムダというもの。何十万円もかけてやるようなものではない。 私はシロアリのいる被害部には天然石鹸液を、蟻道直下の立ち上がり部にはピレトリンMC(この居住者は天然除虫菊の蚊取り線香は許容できる)を極端に薄く 溶いたものを、計300ml程ピンポイント使用して駆除した。建築後約15年間でこの程度のシロアリの動きなら、これから先もこの程度である。心配なら定 期点検すればよい。 そもそもヤマトシロアリは一度駆除された場所に戻ってくることはない(中途半端な駆除は別だが)から、粘り強くピンポイントで駆除すればシロアリがいない 状態に持っていくことは可能である。それはこれまでの我々の定期点検の経験で実証されている。そして駆除するのに薬剤の持続性はほとんど必要ない。ただ、 最近の専門薬剤の中にはシロアリの生態にうまく適合している製剤が多いので、状況が許せばこれらをうまく使うことは使用薬剤総量を減らすことにつながり安 全性の向上に寄与できる。 2008/9
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