消えることも効果の一つ

 当事者はそんなつもりではないとは思うが、少し以前にニュースとなった某家具会社経営陣の骨肉の争いは、結果として、会社のコマーシャルになったように思える。
 最初から粗大ごみのような安物家具を売る販売店が目立つ中で、件の家具会社の経営陣では、会員制で高級品を売る「路線」と会員制を緩和して広く販売する「路線」が対立したというのだから、たとえ会員制をやめても品物自体はそこそこいいものというイメージを受け取ってしまう。ぼんやり生きてきた私などは、会員制だったことも知らなかったし、あの名前では栄養ドリンク剤のメーカーしか思い浮かばなかったのに、しっかりと名前が覚えられた。
 しかも、政府から補助金をもらいながら閣僚に献金するような企業に比べれば、はるかに好印象である。
 人のうわさも七十五日というが、あの程度のゴタゴタで終われば、結果としていいコマーシャルといえる。さっと出てきて、さっと消え、好印象だけが残る。これに越したことはない。

 じつはこれ、効能にはうたわれないが、殺虫剤にも必要な要件でもある。
 殺虫剤は駆除すべき昆虫がいなくなれば自然の中ですみやかに分解されるべきで、近年の化学殺虫剤にはそういうものも多い。
 持続性を持つものは予防的に使用されるが、必要なだけ効果が持続すればいいのであってそれ以上は必要ない。

 シロアリ対策では、戦後の業界の拡大と共に、薬剤の性質に頼って力ずくで押さえつける方式が一般的になり、駆除でも予防でも必要以上の持続性を持つ薬剤を使うことになってしまった。だから、持続期間が長ければ長いほどいい薬剤で、早く消えることが薬剤の欠点だと思う人は関係者の中でもまだ多い。

 シロアリ自体はわずかな要因で死滅してしまう極めて弱い昆虫であって、目の前にシロアリがいるとすれば、それらは与えられた環境下で、彼らにとって運良くそこに適応できた成功者である。つまり温度や湿気などの必要な課題をすべて解決した集団である。

 ヤマトシロアリは、もともとその土地に由来し、建築にともなう環境の激変の中で微妙なバランスを得て生き抜いたものであって、湿気に発生したり、隣からやってくるものではない。
 集団は多様で、ピンポイントで独立したものもあれば、割合広く連合しているものもある。
 あるいは、小さくても強く活発な集団もあれば、大きくても弱くおとなしい集団もある。
 被害が広く存在し、過去の猛烈な活動痕を残しながらも、現状では狭い部分にしか活動が見られない場合もある。
 建物全体、床下全体に満遍なくシロアリがいることはごく稀であって、本当にシロアリがいて殺さなければならない部位はどの家でも限られているものだ。
 だから、これらを駆除するのに必要な薬剤量はそれほど多くないし、活動部分の周囲を予防しても大した量ではない。そして、駆除されたり死滅したりした場所では、薬剤の有無にかかわらず長期間シロアリの空白状態となる。
 日本の国土の約8割を占めるヤマトシロアリの地域ではこれがシロアリの特徴である。

 ヤマトシロアリが最も活発に活動するのは、新築やリフォームから5年前後で、環境変化に対応して生き抜こうという必死の活動期である。この期間の動きを止めることができれば、その後は環境のバランスができて生き物はあまり動かなくなる。
 したがって、新築時に薬剤で予防する場合、薬剤としては5年程度効果が持続した後に消えてなくなるのが理想だと言える。
 もちろん数十年単位で見れば多少は生き物も動く可能性もあるが、環境変化にともなう動きとは大きく異なるので、適当な間隔で点検していれば対応できる。

 そもそも薬というものは概念として条件的であって常時必要なものではない。
 飲み薬なら目的の疾患があるから飲むわけで、たとえ長期服用の薬でもそれ自体の効果は短く、必要がなくなればいつでもやめられる。1回飲んだら5年も10年も効く薬はない。
 ところがシロアリ対策の分野では、無目的に長く効くのがいいことのように思われている。

 知り合いからの情報では、防蟻処理が施された基礎外断熱でもヤマトシロアリの侵入が確認されたという。
 建材メーカーではこうした「防蟻」断熱方式がいくつかあるようだが、基礎断熱でシロアリの侵入の条件となるのは、断熱材の性質だけではないことがあまり重視されていない。
 近年目立つのは、基礎断熱でない普通の基礎の基礎巾木(外周の仕上げモルタル)や増築部分との接合部からの侵入である。つまり、縦方向に接合部が地下から連続する形自体がシロアリの侵入のきっかけとなるわけである。
 基礎巾木について言えば、たとえ基礎本体との間に剥離がなくても、基礎本体の型枠の跡として残る段差や基礎の角に埋め込む樹脂製の部品との隙間が侵入路となりやすい。
 多く使用されている発泡タイプの断熱材は、その硬さがシロアリのかじる行為を助長するようで、一旦かじられると加害のスピードが加速するようだ。たとえ断熱材に薬剤が混入されていても、シロアリ集団全体に影響がなければ、個体が大量に死んでも侵入は止まらない。
 前記したように、新築直後から5年ほどはヤマトシロアリでも集団が強大化、先鋭化しやすく、研究機関の試験で使用される少数のやわなシロアリではないので強引に侵入しようとする。基礎断熱の場合、おそらく基礎完成直後(まだ建物の土台が設置されない状態)から侵入するはずで、だからこそ築5年内外で羽アリが出たり、胴差などの高所に被害が出るのである。

 現代のベタ基礎という継ぎ目のない一枚板状の基礎を持つ建物では、強大化したヤマトシロアリが建物に侵入するのはほとんどすべてが基礎外周部からであって建物内部ではない。
 すなわち建物内部方面に「30年保証」などという薬剤を大量に散布してもまったくムダであって、消費者に意味のない負担を強いるだけ。そんなことよりも、駆除経験のある技術者が現場で適切に判断して、その家にあった対策をすすめることこそが肝要である。
2015/6