額田の発明家、加藤源重さんのこと

先日テレビで私の町のすぐ近くの旧額田町に住む発明家の加藤源重さんのことを放映していた。
加藤さんは若い頃工場で事故にあい、右の手のひらの半分が失われて指がない。しかし、加藤さんはちゃんと箸で食事ができるし、シャベルで作業もできるし、 鉄棒もできる。それは加藤さん自身で義手を作ったからだ。また、働きに出ている奥さんの代わりに洗濯をするのに、片手で干せるようにクリップを改造した。 ちょっとした工夫でこれほど便利になるのにメーカーは今までまったく気づいていなかった。
加藤さんのところにはこれを聞きつけた人たちが自分用の補助用具を作って欲しいと全国から泊り込みでやってくるという。
加藤さんは義手をつけた手で工具を操り、そういう人たちのためにすべてオーダーメードで器具を作る。他に二つとないものばかりである。そして材料代程度しか報酬を受け取らない。
加藤さんが他のいわゆる発明家と異なるのはこのことである。つまり、商品を作ろうとしない。あくまで依頼者のための個別の使用価値を生み出すのであって、 交換価値を付与しないのである。もちろん一部の発明品は商品化できるし、すでにされているものもある。しかし、加藤さんにとってそれは重要なことではな い。どれだけ依頼者の要望にこたえられるかということが重要であるという。

私も最近ある器具に工夫を加えることに成功し、駆除現場で薬剤量を圧倒的に削減できることになった。これは仲間たちと昨年一年かけて工夫を競ってきたことだが、最後までうまくいかなかったたった一つのことが解決でき、すでに商品となっている器具よりも優れたものができた。
我々の仲間内では一つの発見をすると、それを同じように使用するのでなく自分の都合のいいように手を加える。そしてそれが新たな発見につながる。加藤さんの番組を見てつくづくそう思った。

大量散布からピンポイント駆除に移行する時代で、駆除の器具が相変わらず大型タンクの車とピストル型ノズルというのでは矛盾する。そういうスタイルにふさわしい道具が使われなければウソである。
私がこの業界に入って初めて著名な先輩技術者と出あった時、実によく工夫された道具を持っているものだと感心したことがある。他の分野で使う道具をうまくシロアリ探知に使っていたり、道具を見せてもらっただけで「ああ、こうすればよかったのか」と驚きもした。
さらに、最近付き合いの始まった若い技術者の中にもノズルを自作している人もいるというが、こういうものの交流を通して駆除のスタイルが変わっていくことが望ましい。
人が違えば同じことをしているようでも個性が出る。生き物の生息の仕方やそれを取り巻く環境が多様であるので、それとの付き合い方も当然にも多様とならざるを得ない。場合によっては言葉の上でまったく異なることを言っていても、内容が同じこともしばしばある。
逆に言葉や方法を統一してもまったく違ってしまうこともある。「ピンポイントの駆除」といっても中身が違うこともあるし、「薬剤に頼らない」といっても床 下産業的にとらえるか、個別の事情や要望にこたえる立場でとらえるかの違いは大きい。帳票類や薬剤の統一などほとんど意味がないのにそんなことに意味を見 出そうとする人もいる。

加藤さんは道具を作るが、本質的には人と人の関係を作っているといえる。人のあり方よりもシステムやモノによりすがる御仁には是非見て欲しい番組であった。
2008/5