シロアリ塾のはなし
先日、全国からシロアリの好きな人たちを集めてシロアリ塾を開いた。
小雨が降る中、北は宮城県、西は愛媛県から集まってきた人たちのなかには、シロアリ対策関係者だけでなく、建築関係、パルプ関連、主婦など多様な顔ぶれだった。
集まっていきなり近くのイエシロアリ散策を行った。被害のある神社をまわり、切り株の巣をつついて「お土産」としてサンプルを採取し、めいめい巣の中に手を突っ込んで、兵蟻に咬まれながらもその温度を肌で感じた。
おりしも某週刊雑誌が温暖化と結びつけてイエシロアリの北上を報じていたが、巣の温度を肌で感じた人々は温暖化とはまったく関係がないことを理解できたと思う。つまり、イエシロアリは平均温度が4℃以下であっても適応できるのだ。
数年前にも、富山でアメリカカンザイシロアリ被害の発生を温暖化と結びつけて地元新聞は報じたが、まったく的外れだった。
また、シロアリ業界では近年ヤマトシロアリの羽アリが少ないと嘆く向きもあるが、羽アリの発生を知るのが主に顧客からの連絡によるものということを考えれ ば、不況による各家庭の経済的な事情により羽アリを見ても業者に連絡しない傾向が強まっていることも考慮されなければならない。

シロアリ塾では、主な講師となった星野氏(東海白蟻研究所)は最初から最後まで、終始一貫、徹頭徹尾、徹内徹外しゃべり続け、それでもほとんどの参加者は朝の4時までこの話しに参加した。
その間中、参加者はめいめいに飼育箱のシロアリをのぞいたり、シロアリの糞を眺めたり、家屋での被害写真や新築家屋のカビ写真などにも見入っていた。
宿の1室には尾屋氏(オヤシロアリ技研)が和歌山から持ってきた掘りたてのイエシロアリの巣が置かれ、さらに飼育箱やら資料やらで雑然としていた。
現場での観察とやりとり、そして先輩技術者からの生きた言葉を通じた判断力の継承、そして何よりもシロアリへの興味、こうしたものがシロアリとシロアリ対 策を知る上での核心部分である。教科書的な知識のつめこみは現場では通用しない。技術者の語る現場のエピソードの一つ一つにこそ信頼できる知識がある。
エピソードは先輩から後輩へ、さらにその後輩へと受け継がれ、思考の伝播が実現する。
一方、件の週刊誌の記事には相変わらず、イエシロアリが「水を運び、乾燥した木材を湿らせて食す」などと書かれているが、これこそ現場から遊離した概念か らの推論である。しかも、業界団体の最近の「防除士」試験問題でさえこうした表現があるようだ。実際はイエシロアリでもヤマトシロアリでも乾いた木材をい きなりかじって食べるのであって、わざわざ湿らせて食べるのではない。そして、どちらのシロアリも確実に水を運ぶというのが事実である。

シロアリ塾はこうして参加者をシロアリ漬けにして終わった。次回も開催する方向で検討しているが、形として今回と同じかどうかはわからない。
結果としてシロアリと人がつながり、技術者や興味のある人々がつながることができれば成功である。
参加者の多くが「次回も参加したい」というのだから、規模が大きくなってしまうのは目に見えている。そうなると我々だけでは対応できない。どうするかが我々への宿題となった。
2004/10