地祭りと訴訟

 中古住宅を買った人が不動産業者を訴えるというニュースが入ってきた。
 原告はシロアリがいないということで家を買ったのに、入居後にシロアリが出たことが訴訟の理由。
 原告は一昨年に住宅を購入し、昨年5月に「床下部分の木材にシロアリが巣を作っていることが判明」したという。5月ということは、おそらく羽アリが出たことが発見のきっかけだろう。
 場所は長野県、つまりヤマトシロアリだけの地域。不動産業者はリフォーム後に原告に引渡し、「売却前にリフォームした際、シロアリが巣を作りやすい水回り部分に羽アリはいなかった」と、あらかじめシロアリがいないことを確認済みとのこと。

 原告はシロアリの存在を確認し、不動産業者はいないことを確認したとそれぞれ主張する。
 双方の主張が事実だとすれば、約1年間でシロアリが現れたことになる。しかし、これはありうることである。しかもそれほど稀でもない。
 どういうことかといえば、当初から直下の地下にヤマトシロアリはいた。しかし、リフォーム時点では、建物に関与しない形で小規模に生きていたか、あるいは目視では見つからない形で生息していた。だから「シロアリはいない」という報告書が出てもおかしくない。
 ところが、リフォームによる振動または環境変化が地下のシロアリにある種の信号として与えられ、いわば「寝た子を起こす」状況になってしまった。
 こうなるとヤマトシロアリは必死になって今までにない動きをし、短期間で個体数と活動量をいっきに増加させる。活動量の増加(つまりトンネルを掘る量の増加)で多くの排出土が蟻道・蟻土として地表に持ち上げられ、生殖活動も活発化して羽アリも出てくるのである。柔らかい木材なら1年で目視できるほどの被害にもなる。
 目視で生息が見られなかったとすれば、リフォーム時に「予防」感覚で薬剤散布しても、おそらく羽アリの群飛は止められなかったと思われる。
 こうした環境変化直後の羽アリ群飛は、ヤマトシロアリでは新築直後でもよく起きることだが、多くの新築家屋はベタ基礎のため建物の外周部に出てしまう。外周に出るものなら、多くの場合、放置しても構わない。だが中古住宅のリフォーム直後の室内だと駆除の必要がある。

 昔の人はなんとなくこういうことがわかっていた。つまり地面を掘ったり、住宅を建てたりすると、必ず意図しない何かが動くと考え、そういう行為のたびに「地祭り」をしたのである。
 最近ではあまり聞かないが、敷地内に不用意に杭などを打つと、年配者から「金神(こんじん)さんの頭を打つぞ」と言われたのもそういうことである。
 シロアリだけではない。環境の変化は多様である。たとえば畳が新しくなればヒラタチャタテのような微細な虫が目立つかもしれないし、木材が新しくなれば木材穿孔性の昆虫が目立つかもしれない。自然というものはそういうもので、人間が変化させただけ反応する。

 ヤマトシロアリについて言えば、健全な地面には生息するものだし、生息すべきものである。
 あるサイトでは「シロアリマップ」なるものが出ているが、集団の大きなイエシロアリやまだ面として広く生息していない乾材シロアリのことならマップの意義があるのだが、よく見てみたらヤマトシロアリも含むものだった。意味無いじゃん。
 マップ上にはやたらと生息ポイントが印してあったが、それが普通なのであって何も異常ではない。「まだ地面が健全なんだなあ」と感心したぐらいだ。
 日本の建物はすべてヤマトシロアリの上の建てられるのである。だからといって、シロアリを根絶やしにするのは間違っている。個別に予防的な薬剤処理をするとか、構造的な工夫をするとか、定期点検するとか、何らかのシロアリ対策をすればいいのだ。

 今回問題となった中古住宅のような場合、リフォーム後にシロアリなど生き物の動く可能性について購入者にあらかじめ説明があったなら、訴訟にまでは至らなかったはずである。

2014/1