外壁の吹き付け断熱は避けたほうがいい

 最近の木造の建物で吹き付け式の断熱材が多く見られるようになった。しかし、これによって居住者が困ったことに追い込まれるのではないかと危惧される。
 ある現場(築16年)では基礎外断熱から侵入したシロアリによって被害が出たので、断熱材の地際部分を帯状に切り取って駆除した。ところが羽アリがなかなか止まらない部分があった。それは玄関の上のバルコニーの角て、基礎断熱経由の経路が途切れても生きていた。
 そこはバルコニーの防水の不備によって雨漏りがあり、しかもその状況が点検できない構造だった。
 玄関の天井に点検口をつけて調べると、吹付けてあった発泡系の断熱材に細かな蟻土の吹き出しがあって、これをはがすと元々の木材が殆ど食べられてヤマトシロアリの巣となっていたのである。桁は約1メートルにわたってまったくなくなっていた。火打梁もスカスカだ。幸いにも柱が芯持ち材だったことからバルコニーそのものの沈下にはつながらなかったが、もしもこれが集成材や辺材だったとしたら柱も部分的になくなっていたはずである。(参照頁)
 この場合、被害部分の位置を推測して点検口をつけたから被害が具体的に把握できたのだが、一般的な天井裏の点検口から眺めるだけではこうした被害を把握できない。
 木材が全て露出していれば遠くからでも異常はわかる。しかし、吹き付け式の断熱材によって木材の表情がわからないのでひどくなるまで被害を察知できない。
 この現場はシロアリ被害と雨漏りによる腐りの両方あったので、シロアリ被害とのかかわりであえて点検口を設けたのだが、かりにシロアリ被害がなかったなら、もっと広範囲に腐るまで放置されていたかもしれない。
 一般的な木造住宅(いわゆる在来工法)は、柱と土台で家を支える構造である。つまり、柱と土台が傷まないようにすれば家は長くもつのである。そして、かつては柱や土台が露出していて、腐りにしろヤマトシロアリの被害にしろ異常は早期に発見できていた。外壁は「ちょっとめくって見る」ことのできる杉板やトタンだったし、天井裏や床下でも柱や土台は点検できた。
 しかし今では柱と土台がどんどん見えなくなっている。外壁は固定式の外壁材となり、室内側も柱は見えない。そして天井裏や床下でも、吹き付け断熱材によって柱はまったく見えなくなってしまった。中には床下の立ち上がり全体に吹き付け断熱をして一切の木材が見えない家もある。
 しかも始末が悪いのは、設置型の断熱材と比べると吹き付け型の接着力が強すぎることである。傷んだ木材に手当しようとして断熱材を撤去するのが非常に大変だ。不規則にボロボロと掻きだすように取るしかない。その上静電気で体に纏わりついたりして掃除も大変。
 将来の建物の解体時に分別は無理だ。万が一どこかから水が入った場合、この接着性の良さのために長期に水が溜まってしまい腐りを誘発する。
 一方、シロアリは発泡性の断熱材に一旦入り込むと木材被害よりもはるかに速く進行距離が伸びる。基礎外断熱と外壁の間にとくに遮断する構造がないなら、新築直後の侵入は、これまでの被害からヤマトシロアリでもおそらく築後数ヶ月で軒桁や胴差に達していると思われる。築7年で胴差に甚大な被害が出た事例はこれを証明するものだが、当初はかなり例外的と思っていた。しかし、似たように事例が続いたことで、むしろ似たような環境では似たような被害が必然的だといえるようになった。だから、羽アリがバルコニー付近から出た場合、まずもってその接合部の胴差や桁の被害を疑えと仲間内では言っている。そしてこれらの被害は床組材の被害と異なり容易に補修できないことで居住者に多くの負担を強いるし、場合によっては訴訟沙汰になる可能性も大きい。
 たしかに建物が設計通りに作られてその後長く変化しないならそれでもよかろう。しかし、地盤や風向きの変化、台風、地震などで建物は変化するし、そうした変化を契機に雨漏りや生物的劣化につながる例は多い。そもそも家が変化しないと考えるのは不自然だし、現に最近の台風や水害を見れば当然にもこうした建物の変化を予定しなければならない。

 障害を持つ私の息子の通う施設では新しい建物の新築工事を予定していて、私も親の一人としてシロアリ対策も含めて設計に意見を出させてもらった。そしてやはり設計者は壁から天井までの吹き付け断熱(しかも柱が集成材)を予定していたので、それを変更して天井裏だけの吹き付けとし、壁は従来通りの設置型の断熱材にしてもらった。これなら天井裏または床下から柱が点検できる。

 ともかく、これから家を建てようとする皆さんには吹き付け断熱を避けるよう忠告したい。
2012/12