すなわち、シロアリ用毒餌剤が素人用にホームセンターや通販で市販され始めたのである。これはベイト(毒餌)がいくつか箱に入った駆除剤で、説明書どおりに家の周りに埋めておけば「シロアリがいなくなる」ということになっている。 たしかに薬剤の大量散布ではない。使用者も薬剤にほとんど曝露しない。臭いもない。一部のものは容器も土壌中で分解する。一見いいことずくめだ。 だが、どのシロアリを殺しているのか誰もわからない。あるいは、殺せているのかどうかもわからない。売る側は「結果としていなくなった」事例を根拠に売りまくる。マニュアル式ベイトシステム派のやり方や考え方を極限まで典型化した形態である。 以前マニュアル式ベイトシステム派同士の競合の中で、器具だけの販売が取りざたされたが、やはりついにこうした安易な形となった。要するに、このベイト剤 は、既存のベイトシステムに見られる「形だけの専門性」もかなぐり捨てた、開き直ったベイトシステムといえよう。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」、薬剤さ え売れれば「跡は野となれ山となれ」、これまた薬剤大量散布の思想だけは立派に維持されている。 しかし、問題は当面2点ある。一つは、目の前で進行するシロアリ被害に対応できないにもかかわらず、消費者に駆除可能のように思わせてしまうことであり、もう一つは、やみくもなベイト剤設置がもたらす土壌や環境への影響である。 ヤマトシロアリのような分散型シロアリでは、庭先のシロアリが家屋内部のシロアリとつながっているとは限らない。むしろ別集団と見るのが生態的である。だから目の前の家屋の被害にはまともに対応できないのだ。 アメリカでは、すでにこうしたベイト剤を売るメーカーと連邦取引委員会との和解文書で、この薬剤だけで被害には充分に対応できないので専門家の関与を勧めるという点で合意して、この主旨を商品に明記するとされている。 さらに、問題とされなければならないのはシロアリ被害に対応できないことだけでなく、他の生物や生態系への影響である。 ベイト剤の主成分は脱皮阻害など成長抑制を行う薬剤である。売る側はこれを根拠に脱皮を行わない人間には安全だと主張するが、たしかにその場では人間には 影響はない。しかし、土壌中にはシロアリ以外にも無数の脱皮によって生きる生き物がいる。また、昆虫以外でも甲殻類なども脱皮によって生きているので、エ ビ、カニといった水生生物にも多用されれば影響が出ないとも限らない。 成長抑制剤として農薬分野やカの駆除などでかなり以前から使用されているメトプレンという薬剤がカエルの奇形に関与しているという指摘がすでに出ているし、これらの成長抑制剤が哺乳類にも「環境ホルモン」的に作用するという主張も見られるようになった。 ふりかえってもみれば、これまでの薬剤がほとんど例外なく、登場したときには「安全」を標榜して大量使用され、後にその「危険性」が指摘されるというパターンで消えていっているが、これがあいかわらず続いているようだ。 だから消費者としては、「安いから」「手軽だから」と飛びつくのは大いに問題のあるところだ。 実際、私が「シロアリが心配だ」と相談を受けて調査する家のかなりの数は、「何もしなくてもよい」あるいは「数年に一度床下を点検すればよい」と判断される状態のものであるが、こうした状態で素人判断で市販ベイトを設置するのは、かえって無駄で高い買い物となる。 2004/9
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