「肥満となっております」

ある日、あるきっかけで血圧を測ったら異常に数値が高かった。「もしも天井裏で脳卒中になったら困りますし、‥」という客の一言に押されて医者に見てもらった。
幸いにも糖尿病でなかったし、血糖値も許容範囲内だった。
医者(私の従兄)が言うには、ご飯の食いすぎで運動が足らんそうだ。
そういえば毎食2杯は食べているし、ラーメンやお好み焼きなどは大体ご飯のおかずとして食べる。しかも夕食後にサスペンスドラマの俳優のやつれ具合を「心配」しながら饅頭を食べるのが好きだ。まさに典型的な肥満の食生活といえる。
隔年で開いている高校のクラス会でみんなに聞けば、男女ともに多くはその手の薬を飲んでいるとのこと。
仕事で体を動かすせいか、多少とも遅咲きの肥満だったことで少しほっとした。たいてい岡林の「友よ」で解散するのだが、別の意味で「友よ」と叫んでしまった。

とにかく血圧を測りだした。最近では平均血圧(数値の差/3+下の数値)も重要とのことで、Gnumeric (Excelよりぐんと軽快) に計算式を入れて記録し、これを薬をもらいにいくたびにプリントアウトして医者に見せることにした。
そうすると面白いもので、途中で記録をやめるのもかっこ悪いし、数値が落ちないのもかっこ悪いので、自然に食生活が変わってきた。通常はご飯のお代わりを しないこと(たまにはする)、ゆっくり食べて満足を得ること、寝る前に食べないことを守り、出張の日を除いて1日に1回以上は記録できてしまっている。
酒を飲むと一時的に数値が低下するが、数値偽造と思われたくないのであまり酒を飲まなくなった(もちろん飲むときは飲む)。
こうして以前穿いていたズボンがゆるくなり血圧も体重もそれなりに落ちた。先日ある雑誌の取材で顔写真を撮られ、出来上がった雑誌を見たら、自分でも驚くほどやせていた。以前から会うたびに「だまされたと思って」とへんなやせ薬を私に勧めていた元工務店社長も驚いていた。
とにかく50過ぎというのは哺乳類としての一般的寿命を超えているのだから、いろいろ病気があるのは当たり前だが、先進国病としての栄養過多や運動不足は 社会構造や産業構造ともかかわっている。したがって、こちら側の摂生だけで解決しにくい面もある。実際、子供のころは脱脂粉乳も含めて「残さず食べる= 善」と教えられた。だから今でもコンビに弁当は必ずキャベツやパセリまでも残さず食べるし、出されたものは残さない。
ということで、なってしまったのだからしょうがないので、こういう場合は旅館の仲居さん風に「肥満・高血圧となっております」と表現するのがいいように思う。
旅館などの食事のたびに「これは天ぷらとなっております」などといわれると、そのたびについ「なっていないでしょ、天ぷらでしょ。じぁ、なったのはいつ?昨日からなの?腐ってないの?」といいたくなる(例の「つぶやき女将」の店ではこれでいいかもしれないが)。
天ぷらは誰がどこから見ても天ぷらなのだから「天ぷらです」というのが自然だが、肥満の場合は好き好んでなったのではなくて、普通に生きてきたらそうなっちゃったというのだから「肥満です」でなく「肥満となっております」がいい。
仲居さんの「なっております」の意味するところは、「私が天ぷらを作ったわけでもないし、万が一天ぷらでなかったとしても私に責任はないのですよ。一応世間で言う天ぷらということになっているのでご了承ください」という意味合いがあるようだ。
ついでにいうと「お部屋のほう、ご案内します」の「ほう」も、「私がご案内するのは会社が指示したお部屋のほうであって、"わぁ広い"とかなんとかいってお部屋だと思い込むのはお客様自身ですから」といっているにちがいない。
あの耳障りだった「千円からお預かりします」の「から」はさすがにあまり聞かれなくなったが、「なっております」と「ほう」はやたらに目立って耳障りである。
ことばの言い回しはその人の意図しない内心まで表現する。
たとえば、話しはじめに必ず「正直言って」という人はだいたい正直ではないし、「要するに」を連発する人ほど話がまとまっていない。「逆に言えばね」は ちっとも逆でないし、「簡単に言えば」も結構小難しい話だったりする。某議員センセの「一言ご挨拶」は一言で終わったためしがないし、「お時間を拝借」は 聞く側が時計を見てイラついても気がつかない。
正直に言うことや要約すること、逆にいえない、一言が長いことなどにコンプレックスがあるから多分そうなるのだろう。しかも本人にあまりこだわりもなく他 でも言っているからとつい使い続けてしまう。肥満になるのとよく似ている。「千円からお預かりします」は「千円からいただきます(といって釣を返す)」な ら正しいのに、言葉を無批判に受け入れるのでそれに気づかない。
「おあいそ」は店から客に言う言葉なのに今では客から言っているし、「抜き差しならない----」とか「独りよがりの----」という本来卑猥な言葉も今では普通に使っている。そのほかにもあるがあまり続けるといけないのでやめる。

先日基礎断熱の家で1階台所の天井裏に大きな被害を発見してこれを駆除したが、天井裏の点検口が被害部からは離れた場所にある。だからとりあえずはこの天 井裏を移動して近づかなければならない。そして運良くダイエット中だったので難なく天井を移動できた。75キロの体重だった1年前だと多分道板なしでは難 しかったかもしれない。
アメリカカンザイシロアリを定期駆除しているお宅では、天井裏の移動のために材の補強を行った。それでも軒先の狭い部分をくぐらないと奥の被害箇所にいけない。その部分の通過はかなりアクロバットな体勢で移動するので誰もついてこない。
イエシロアリはもちろんだが、乾材シロアリが広がる中では天井裏の細かな仕事が多くなるはずだ。集権型のイエシロアリでは、場合によっては重要ポイントだ けの処理ですむ場合もありうるが、超分散型の乾材シロアリでは例外なく処理・確認する必要があるので、「肥満となっております」では困ることになろう。

2008/12