サルとアブラムシに関して
先日、霊長類学者の伊澤紘生氏がテレビに出ていたが、伊澤氏といえばサルの社会に「ボスザル」はいないということを明らかにした方である。
つまり、従来いわれていたような「ボスザル」という社会全体を統率するものは存在せず、時々のいざかいで上位に立つサルはいても、そのサルが常に群れを仕 切っているわけではなく、もっと気ままにサルの群れは生きているというのである。そして、「ボスザル」の概念は人間によって餌を与えられる環境下で経常的 に餌取りで優位な地位というものが存在することから発生したもので、自然界のサルとは異なるというものである。
この考え方は当初は異端視されたらしいが、今では世界的に認められ、各地のサルに関する施設でも「ボスザル」の呼称を廃止して「一位ザル」とか「αサル」 というようになったそうだ。しかし、一部の観光サル園では「愛着」のある「ボスザル」の呼称を廃止するのに抵抗もあるようだ。
やはり、自然の生き物は自然の中で考えていかないと適切でないことがここでも明らかになった。シロアリの世界でも同様に、少なくとも生態研究やシロアリ対策においては、蟻道や巣から引き離された裸のシロアリによる試験はやめるべきだろう。

一方、産業技術総合研究所の深津武馬主任研究員らのグループは、エンドウヒゲナガアブラムシという昆虫の植物適応が、体内に存在する特定の共生細菌によっ て規定されていることを明らかにした。これはある生物が特定の植物を食べて生きるのに、いわばそれに適応できる性質は共生微生物によって形成されうること を示した世界初の報告だという。
つまり、このアブラムシにおいてはカラスノエンドウとシロツメグサの2種の植物に適応している個体は異なる共生細菌を体内に保有していたそうである。
植物はそれぞれ特異な化学物質を体内に蓄積して昆虫の餌にならないようにしたり、また、特定の昆虫に餌を提供することで繁殖の助けにしているが、これに適 応する昆虫は植物の化学物質をうまく処理する仕組みを持っている。そしてこの仕組みが共生微生物によって支配されているのである。
ということは、シロアリも餌となる樹種の違いによって共生微生物を変化させ、「体質」を変えているのかもしれない。
実際、例えばアメリカカンザイシロアリでは、同じ樹種ですら近接する異なる材にはコロニーは移動しにくく、被害は材の接合部で途切れることが多い。もちろ ん、採取した個体を無理に別の樹種の飼育箱に入れればやがてはもぐりこんで生活する。しかし、樹種や材木の違いは彼らにとっては大きな意味がありそうであ る。
逆に言えば、「体質」を変えることに成功すれば、シロアリはかなり毒性の強い木材や場合によっては薬剤処理された材ですら加害可能となるはずである。毒性があるはずのヒバや豪州ヒノキが加害されるのはこういうことなのだろう。
そしてこの「体質」の分野では、シロアリを裸にして研究する必要もあろう。
2004/4