羽アリの停止は必ずしも駆除の完了を意味しない
羽アリのシーズンである。
シロアリにおける羽アリの群飛は本サイトの別項に示したように、本質的にはコロニー生産力と環境受容力の矛盾を解決するための行動である。人間社会で言えば会社のリストラ策のようなものである。
それは環境の大きさ以上にコロニーが成長したときに群飛する場合(自然飽和型群飛)と環境の急激な変化に対応するために群飛する場合(変化対応型群飛)とがある。
建物が新築された直後やリフォームなどの後に群飛するのは、環境が大きく変化したことへのシロアリの適応行動である。 多くの場合、あるいは従来の家屋での駆除の場合、羽アリの原因となるコロニーの位置をキャッチして駆除するのだから、ターゲットに薬剤が適切に処理されれば羽アリが停止するかたちで駆除が完了する。
しかし、これが諸事情により中途半端な処理になった場合、一部が生き残っていわゆる「再発生」となる。もちろん、これもシロアリの動きをよく観察して推理していくことでとどめを刺すことが可能である。
逆に言えば、羽アリの原因となっているコロニーの存在位置が把握でき、そこに適切な処理ができる程度によって駆除の成否が決定されるわけである。これは、現場の状態や技術者の技術水準、あるいは家屋構造が大きく左右する。
密閉空間が多い、穴が開けられない、部材の撤去もできない、床下がないなどという家からの群飛が今後は多数予想されるところだが、住み手にもそれ相応の覚悟が必要となる。

ところで、羽アリが出てもこれを駆除せずにおいた場合、毎年羽アリが出続けるかといえばそうではない。とくにヤマトシロアリでは数年またはたった一度の群飛の後、ぱたりと羽アリが出なくなることがよくある。
とくに、新築後間がないころにヤマトシロアリの羽アリが見られるのは変化対応型の群飛であり、ときとしてそのままシロアリ集団が消滅することもあるにはあるが、多くの場合、新しい環境に新しい形で適応したことを意味する。
実際、複数の家屋では事情により駆除ができない状態が続いているが、入居時または改修直後に羽アリが出てからは一度も羽アリが出ていない。しかも、シロア リの存在と活動はいつでも確認することができる。つまり、集団の成長期の特徴として羽アリが出なくなったのである。そしてそのままではおそらく一定の段階 で再び飽和状態となって羽アリが出ることになるはずである。
イエシロアリでは生殖階級を含む独立可能な形で分断されないかぎり、分断された小集団による変化適応型の群飛は起きにくい。イエシロアリで新築時に敷地内 から群飛が起きるとすれば、それはもともと敷地内に適応して生きている巣があることを意味し、群飛後に集団が消滅することはありえない。

近年では特定のシロアリ集団を意識しないいわば遠隔操作的な「駆除」が一部で行われるが、こうした場合の駆除効果の判定に条件や種の違いを無視して「羽アリが出なくなった」ことを指標とするなら、場合によっては後で困ったことになりかねない。

2005/5