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ホウ酸・ガラス繊維とシロアリ


ホウ酸はガラス製造の原料の一つですが、ここではそういう関連で両者について述べる のでなく、最近急速に建材などに使用されているものを代表するものとして述べます。


 高濃度のホウ酸を新築時に大量に吹き付けて「○○年保証」という「シロアリ予防」があるようです。  たしかにホウ酸は直接口に入れなければ人間への影響はないといえます。しかしこのやり方がシロアリ対策として適切であるかどうかについては、かなり疑問が生じるところです。

ベタ基礎上のホウ酸に意味は無い 消費者には無駄な負担

 現在の多くの住宅はベタ基礎です。これは一体打ちの継ぎ目のない一枚板です。
 明治の頃、台湾でシロアリを研究していた大島正満博士が提唱した「防蟻コンクリート」と意図せずに一致するものです。
 地下での土壌性シロアリの活動は、木材の有無よりも環境の形に沿って拡大するものです。目がないシロアリは当然にも周囲を認識できません。また、土壌の中には多様な微生物や化学物質があるので単純に臭いで誘引されません。
 ベタ基礎の直下で生き残ったシロアリは形に沿って活動すると、ベタ基礎の外周部でようやく垂直方向への動きが生まれるのです。もちろん、ベタ基礎には配管が貫いている部分もあるし、長い間には亀裂なども生じるかもしれませんので、個別にそれへの対策は必要です。
 しかし、ベタ基礎では一般に建物内部にいきなり垂直にシロアリは侵入しないのです。
 しかも、ヤマトシロアリでは新築などの環境変化後、多くの場合5年前後で活動は落ち着き大きな動きはなくなります。
 そういう部分に高濃度のホウ酸が何十年効果があると言っても、存在する意義があるのでしょうか。ホウ酸自体は変化せずに「効いている」かもしれませんが、ベタ基礎の下のシロアリには何も作用しないのです。
 まして水に弱い合板をびしょびしょに濡らしてまで処理する意味があるのでしょうか。
 保険会社はベタ基礎が多いので喜んで引き受けるでしょうが、結果として消費者はムダな負担を強いられるものとなります。

木材表面のホウ酸はシロアリを阻止できない

 ホウ酸処理の推進団体では「予防」が目的だと言っています。なぜ駆除で使用しないのでしょう。
 私達は20年前から、依頼者の要望や事情に基づく選択肢の一つとして、駆除でも予防でも工夫しながらホウ酸を使用してきました。
 駆除現場では確実にホウ酸を吹きつけた部分にヤマトシロアリの蟻道が復活するのを何度か確認しています。しかも復活した蟻道のほうが太くてシロアリが元気なものもありました。
 もちろん駆除できた場合もあります。比較的勢力が弱いヤマトシロアリでは、土壌に厚い薬剤層をしっかりと作った場合には、処理していない付近の土壌から蟻道が伸びた形で死滅していました。処理後もしばらく生きていたのでしょう。だから、これまでも文化財のホウ酸処理の土壌処理では表面散布でなく、土壌と混合する形で処理されたのです。
 だから、木材への吹付け部分だけで蟻道が阻止できない(イエシロアリならなおさら)ことは、ホウ酸を使ってきた者の一致した認識なのです。
 そもそも土壌性のシロアリが蟻道を延ばすのは、地下活動で生じる余剰土の排出も兼ねていて、コンクリートや木材に沿って積み上げるのです。必ずしも木材を食べるためではありません。蟻道がいったん出来れば後に続くシロアリはホウ酸が処理された木材に触れずに活動するのです。そして、かりにホウ酸処理部分に被害がないとしても、伸びた蟻道が運悪く建物内部の建具や紙類に到達すれば被害が生まれます。化粧合板の表面まではホウ酸処理しないでしょうから、家具との隙間や敷居、襖などに被害の可能性があります。
 以前の話ですが、屋根裏の構造材まで工場の加圧注入で薬剤処理するハウスメーカーで、ある家では築1年半でバルコニーにイエシロアリの被害が、別の家では築3年で玄関上がり框にヤマトシロアリ被害がでました。どちらも薬剤処理された構造材にはほとんど触れておらず、ベタ基礎外周部から接合部に沿って蟻土を詰め込みながら侵入したものです。
 このイエシロアリ被害の場合、おそらく当時ベタ基礎外周部に薬剤処理しただけでは侵入を阻止できなかったと思いますが、ヤマトシロアリの現場では、玄関まわりに適切な判断がされれば被害は防げたはずです。新築時にシロアリ技術者が関わる意義がここにあるのです。そうであれば、高濃度のホウ酸を大げさに散布しなくても、もっと少ない措置で有効な対策ができるし、現にできています。

乾材シロアリには液でも粉でも有効でない

 乾材シロアリではどうでしょうか。
 毎年通って定期駆除しているアメリカカンザイシロアリの現場がありますが、当初は駆除部分の周囲の野地板や構造材などに羽アリ対策の意味でホウ酸を吹きつけてきました。かなり濃い液でしたが、塗布した翌年にその材から生きたままの羽アリ(落翅虫)が見つかりました。
 これは羽アリが木材に潜り込む方式によって納得できました。つまり、羽アリが羽アリとして木材をかじるのは餌としてではなく、いち早く木材の中に身を隠すためです。表面から一定の深さまでは木を食べずに木粉として排出するのです。
 この木粉は駆除の経験者なら誰でも目にするもので、駆除での重要な目安です。
 しかも、屋根裏は乾燥しているので、水溶性の液剤は深く浸透しません。
 したがって、ホウ酸液剤の現場吹付けでは予防にならないといえます。
 またかつて、被害の少ない方面の小屋組で化学薬剤を加えた微粉末を羽アリ対策として撒粉器で広く吹きつけたことがありました。これは故山根坦さんの発案で、小笠原の父島でもダイコクシロアリ対策で行ったこともあります。
 乾材シロアリの羽アリは材の上をかなり長時間歩きまわります。そこで材の表面の粉で死亡させられるという原理です。結果としては、散粉した方面でも新たな被害が見られました。外壁下地板とその直下の胴差の天端です。散粉はなかなか均一にできないのです。かりに一時的にうまく散粉できても建物の振動などで変化します。
 そのうえ、散粉してあると後から点検して侵入点を探すのが難しくなるし、粉のために作業自体が大変です。しかも、リフォームで天井裏などを改装する場合大量の粉剤が舞うことになります。
 したがって、粉剤の吹き付けも乾材シロアリ対策には適しません。

防腐は構造によって実現すべきもの

 防腐という意味ではどうでしょう。ホウ酸には確かに強い防腐性能があります。ただ、日本の家屋でこれまで梁や柱などが腐ることがあったでしょうか。ベタ基礎で床組材が腐ることがったでしょうか。雨漏りや水漏れがなければ腐りません。露地の床下ですら、カビはあっても腐りはそれほど深刻ではありません。
 防腐は薬剤ではなく構造によって実現することが最も自然です。
 もしもホウ酸による防腐を考えるとすれば、比較的雨漏りのしやすい外壁周囲、あるいは組み込み式のバルコニーなど雨漏りのリスクのある構造なら意味もあります。高濃度で処理すれば少々雨で流れても低濃度で防腐できるはず。構造的にどうしても必要ならそういう所に処理すればいいのです。

欧米方式は必ずしも先進ではない

 高濃度ホウ酸処理の推進側は「欧米ではホウ酸処理が当たり前」といって、いかにも日本が遅れているかのような言い方ですが、アメリカの方式は必ずしも先進的ではありません。「技術がなくてもマニュアルで」という部分が先進的なのです。ヨーロッパはさらに水準が低くて、ヤマトシロアリの仲間しかいないのに、アメリカ式の大量散布を導入しています。
 日本の一般住宅で広がらなかったのは、とくに必要ではなかったからです。文化財で早くから使用されたのは、シロアリ以外の甲虫対策やカビ対策で意味があったからです。
 アメリカ式発想の代表格として毒餌システムがあります。同じように毒餌で駆除すると言っても、アバウトに多数の餌場を設けるアメリカ式と比べて、伝統的な誘殺方式のように、目標を見極めた技術者がたった1個設置する餌場のほうが確実に駆除につながるのです。
 アメリカの「シロアリ探知犬」も、大手床下産業が宣伝するはるか以前から紹介されているのですが、日本で広がらないのは、犬よりも人間のほうが判断力はダントツに優れているからです。

大量散布方式の温存 不要なものを使わないほうがはるかに安全

 結局、この高濃度のホウ酸処理は、薬剤の大量散布という旧態依然としたやり方を「安全な薬剤」という衣に包んで生きながらせることを意味するのです。大量使用は必ず使用規制につながります。

 これからのシロアリ対策は、マニュアルや薬剤に頼るのでなく、必要な所に必要なだけ処理をする方式こそ求められています。


ガラス繊維は、「耐蟻性が小」でもなければ「大」でもない

 以前、各種木材と並べてガラス繊維(グラスウールとして)の「耐蟻性」を「小」だと発表した研究者がいましたがそれは間違っています。グラスウールを木材や発泡系断熱材と同じようにかじることはありません。しかし、かじられないというわけでもありません。つまり、木材などと同じ基準で「耐蟻性」を語れないのです。
 どういうことかというと、断熱材のグラスウールにはよくシロアリ被害が見られます。それはウールの両側に貼り付けられたフイルムと紙の部分がよく食べられるからです。しかしグラスウールそのものの中に木材と同じようなトンネルや蟻道ができることはありません。
 木材と接する部分に蟻土が詰め込まれて、グラスウールの一部が侵食される現象はヤマトシロアリでもあります。
 イエシロアリでは、木材部分から吹き出た蟻土がグラスウールを支えに壁の中で発達し、グラスウール自体もシロアリが必要な分だけ巣に置き換わるようなこともあり、ガラス繊維を切り取っていることは確かです。
 それでも発泡系断熱材のようにグラスウールの中に四方八方蟻道が延びるということはまずありません。
 また、従来のグラスウール断熱材は壁の中にそれほど圧縮されて入っていません。したがってわずかな振動で表面のフイルムや紙の部分も動きやすく、蟻道も構築しにくいので、壁材と接触して動きのない面ほど多く(あるいは最初に)被害を受けます。
 したがってグラスウールやガラス繊維一般でいえば、「耐蟻性」は「小」でもなければ「大」でもないのです。つまり、ある程度までのシロアリの規模や活性で はほとんど被害にならない材質といえますが、一定の条件下ではかじりとられたり巣に置き換えられることもあるということです。これは金属類、貝類、人骨、  硬質プラスティックなども同じで、かじられることがあるからといって物質そのものがシロアリに弱いとはいえないのです。
 もちろん、発泡系断熱材のようにシロアリにとって適度な硬さで、かじる行為を材質自体が促進するようなガラス材料ができればそれは「耐蟻性小」といえます。
 織り込まれたガラス繊維のシートの被害の可能性についていえば、これも織りの密度やシロアリの状態に左右されます。
 ホームセンターなどでFRP用に売っている薄いガラス繊維は少し強力なイエシロアリ集団ならかじって通過します。
 これに対してシロアリ対策用のものは織り込みが密で、特殊に薬剤が塗りつけてあったり、片面が厚くコーティングしてあったりするので、よほど強力な集団で なければ短期に貫通突破はできません。だから、設置方法を工夫して定期点検と組み合わせればシロアリ対策に利用できます。

基礎の断熱材としては問題が予想される

 最近「発泡系断熱材がシロアリに弱いから」と基礎断熱に圧縮したガラス繊維を利用する方法ができましたが、これの推進者たちは「シロアリはガラス繊維を食べない」と一面的に思っているようで今後の推移が危惧されます。
 圧縮されたガラス繊維はグラスウールよりもシロアリにとっては動きのない空間が得られますので、場合によっては通過される可能性が出てきます。
 しかも基礎断熱として設置する場合、下端は地面に接触させるので、当初は撥水性があるとはいえやがては毛細管現象の作用(断熱材と基礎の接合部も含めて)で水を引き上げる可能性もあり、この点からも問題が出ます。
 なおガラス繊維ではありませんが、発泡ガラスを基礎断熱材として使用するとシロアリがかじれないので対策として有効という見解もあります。
 たしかにそれ自体はかじって通過できませんが、ヤマトシロアリが接合部を通過して2階まで到達した事例がすでに出ています。この場合、専門家でなく工務店(工務店・建築士はシロアリ対策では素人)が勝手に設置したことが致命的な問題です。