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サインは"V"
思わずこちらもVサイン
目はなくともこちらの顔を覚えたのか
この家、2度のピンポイント駆除で
ようやく玄関の羽アリをおさえた
そうしたらその2年後
はるかに離れた台所で頑張ってる
「ここなら文句無いだろ」というのか
そうだ、ここなら問題ない
再来年また見に来るから待ってろよ
壊れないようそっと移動して
今年の点検を終えた
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"調湿炭"神話の終焉
「床下環境改善」とはこういうことだったのだ
地表の密閉でシロアリの生息環境を改善した
炭は良質な保湿材でもある
この家では、炭袋のおかげで
部屋の半分の地表にシロアリが繁栄していた
さらに、密閉と適度な保湿は
ムカデなど多くの生き物にも「環境改善」だ
「生物多様性の保全」からしても万々歳だ
しかし、おろかな人間社会では
調湿炭がシロアリ対策だと信仰されている
それとも今話題の「ホメオパシー」か
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やるときは、やる。
「ヤマトシロアリは高所を加害しない」?
「ヤマトシロアリは巣がない」?
馬鹿にするのもいい加減にしろ!
ならばイエシロアリの真似をしてやろうか
どうだ、みごとな仕事だろう。
羽アリだってご覧のとおり。
しかし、あまりに立派な仕事をしたために
イエシロアリ同様に微量の薬で一網打尽
こんなことならいつもどおり
ゲリラに徹すればよかった トホホ‥
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仲間割れしてるバヤイか!
おい、そこの2頭!
こんなときに仲間割れするやつがあるか!
「幹線道路」が壊されたのだ
直ちに一丸となって敵と戦い、生命線を死守するのだ
我々は今、ミゾユーの危機にあるのだ
先輩たちの精神をフシューして守り抜くのだ
ハンザツに喧嘩するなら処分するぞ!!
---こうして、うって一丸となったために
駆除剤の効き目がよくなって
全員死んだとさ、めでたし。
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壊されてもふんばる
昨日蟻道が壊された
しかし、内皮までできているのだから
そう簡単に放棄しないのだ
我が同志諸君は一晩で2本とも修復した
しかし今日また不当にも壊された
都合よく直下には犬走りという安全地帯がある、
とりあえずそこに逃げ込んで割拠しよう
おいおいコンクリートドリルが来たぞ
‥‥犬走りに穴があいた‥‥大量の泡が‥‥
もう‥おしまいだ!
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初めて見る別世界
兵蟻に見送られていよいよ飛び立つ時
初めて見る別世界がまぶしい
本隊の生き残りのために
我々は喜んでここを出て行こう
万に一つの奇跡的生き残りにかけて
でも我々皆に生きる仕組みがあるから幸せだ
立派な羽根もつけてもらったし‥‥
どこかの国の高等生物界では
75歳以上は身ぐるみ剥いで姥捨て山だそうな
血も涙もない生き物とはこのことか
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みんな動かなくなった
おい、みんなどうした!
動いているのは俺だけか
羽アリまでも眠るように動かない
10日前に人間が近くで薬を使ったようだ
だが、ここには薬は入っていないはずだ
そして我々の全活動エリアが止まった
一体どうなっているのだ?
もがくも仲間は1頭もいない
俺の体もだんだん重くなってきた
浴室の大本営はどうなった‥‥
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まさか頭上に餌があるとは
せっかく見つけた産卵場所なのに
変なものが上のほうにできた
我々の餌のような臭いもするが
土で覆われていて中は見えない
毎日、陽が昇るたびにバダバタうるさい
ある日、太っちょの人間が這ってきて
その土の覆いを壊したものだから
餌が床下中に散らばってしまった
ああ、もったいない。
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黒胸散白蟻?
よく見るとなんだかおかしい
黄色い胸の羽アリだけでなく、
黒い胸の羽アリが混ざっている。
中国には黒胸散白蟻がいるというが、
混じっているとはどういうことだ。
次に出たら必ず捕まえてやるから
胸を洗って待っておれ
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小さな擬職蟻
小さな容器で生き延びたせいか
みんな体が小さい。
しかし、それでも擬職蟻だ。
立派な羽根の元がついている。
この茶色いのは何者だ。
落翅虫とも色が違う。翅根もない。
「おい中島、教えろよ」
磯野カツオでなくても、
つい叫びたくなるものだ。
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卵を移動せよ
人間が覗いてるぞ!
積み上げた卵を至急移動せよ。
手の空いているものはみんな手伝え!
湿気もいいし、温度もいい
せっかく安全な場所だと思って
数日前から積み上げたのに
いきなり照明を当てるとはひどい。
しかも、安いカメラで腕も悪いから
なかなか終わってくれない。
やっと終わったと思ったら
またもとの場所にもどされる。
戻すなら最初から移動するな!
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我らはパックマン
ポリスチレン断熱材は齧り心地が良い
齧っても齧っても飽きない。
栄養があるかどうかなんて知ったことか
齧ること自体が楽しいから齧るのだ。
だから、誰かが齧りだすと、
後に続いて仲間がやってくる。
込み合ったところでは
勝手な方向に齧るものもいる。
30センチのトンネルも
1週間もあれば貫通だ。
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瞬時の妖精
脱皮前の一瞬
直後の一脱ぎで羽アリとなる。
湿った羽根が収まる4本の翅鞘は長く伸び
複眼も一人前に色づいている。
まるで幕間で着替える女優のように
下着姿をかえりみず俊敏に動く。
外界では
ツツジの開花も勢いを増し、高気圧も張り出した。
いよいよ出番、時は今。
兄弟姉妹よ、我に続いて脱皮せよ!
死に向かって旅立つ我らに失うものなにもない。
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「下等」のすずなり
自分たちだけうまいものを食べさせてもらって
こんなに太ってしまった。
羽アリになるのにかなりのエネルギーが必要だから
まあ、やむをえないことだ。
それに「高等シロアリ」と違って我々は「下等」だから
ほとんどのものに羽アリになるチャンスがある。
「高等」な差別社会より
「下等」な平等社会の方が素晴らしいのだ。
そのうえ、羽アリの飛び出し時期も割合自由だ。
「下等」はいいぞ。これより「下等」はないのだから。
ところで、万物の霊長が住まう「高等」な世界では
「高級」と「低級」の中身が混乱してるようだが。
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集団防衛
どういうわけか泥線が拡がってしまった
誰が最初に拡げたのかわからないが
拡がってしまったものは守らなければならない。
周囲にはカマドウマやジムカデが徘徊する
彼らの侵入を絶対許さない!
しかし、どこかの政府のように
他人の尻馬に乗って、かなたの地にまで出兵はしない
あくまで「専守防衛」だ。
「専守防衛」‥‥。
昨今はこの言葉さえも「古く」なったのか。
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個体集中部の群れ方
こういう写真はあまり載せたくない写真だ
しかし、たまにはこういうものを載せて
「キモイ」と、いう人の顔を想像するのも一興だ。
群れているのが「キモイ」なら
都会のヒトの群れを覗き込んだデータラボッチも
たぶん「キモイ」と思うだろう。
ヒトの群れは種々雑多な色合いだが
シロアリの群れはほぼ均一だ。
どれほど群れようと、
ヒトのように大声を上げるものはいないし
犯罪者もいない。
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これはヤラセ写真です。
あるイベントでシロアリを展示した
ヤマトシロアリとネバダオオシロアリだ。
「ヤマトとネバダを喧嘩させたら」
と、誰かが言った。
ネバダの兵蟻はヤマトを束にして挟む。
ネバダの職蟻がヤマトの群れに突っ込む。
ヤマトの兵蟻は近づいたときだけ大顎を開き、
あとは逃げ惑う。
しかし、現実にはこういうことにはならない。
たとえ壁一枚隔てて隣り合っていてもだ。
まして、クワガタムシをや‥‥。
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このときだけは性格が変わる
「ヤマトは兵蟻も逃げる」とK氏に言われたが
このときだけは別人、いや別虫だ。
「死を賭して群飛を貫徹する」
これが我々のスローガンだ。
職蟻もいつもと違い、
ガンガン食べて群飛の道筋を作る。
「イエシロみたいだ」といわれたくない。
我々にも元来こういう側面があるのだ。
群飛が終われば、
また、いつもの我々に戻るだろう。
いつもの控えめな分散型に。
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お前は何者だ!
いくら乗りやすいからといって勝手に乗るな!
私の上唇はお前の居場所ではないぞ。
お前は一体何者だ。
我々よりも足が1対多いではないか。
頭を振っても離れない。しつこいやつだ。
シロアリと共生する生物を「蟻客」というが、
客なんだからちょっとは遠慮しろ。
我々の体液を吸う連中とは違うようだから、
まあ、大目に見てやってもいいが。
あんまり目立ったことをすると、
また、某テレビ局から「シロアリだ」と
間違って報道されるぞ、トビムシみたいに。
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脱ぐ気はあるけれど
複眼も成長し、翅鞘も膨らんだ
体の中ではもう羽アリになっている
後はこの殻をどうしたら脱げるか
周りでみんながはやし立てるけれど
なかなか脱ぐチャンスが‥‥
そのうえ、ケースの外からは
シロアリ愛好性文明猿の視線がきつい
「ネバダからはるばる日本にまで来て
何で脱ぐところを見せなきゃいけないのよ」
と、いいつつ、体の震えが止まった
いよいよそのときが来た
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もうじき一人前
幼虫というのはシロアリの中で一番きれい
なぜなら、まだ木を食べていないから
先輩たちから加工食品を受け取っている
僕らもやっと一人前のヤマトシロアリになれそうだ
そばにもっと小さいものがいるが
これはついさっき生まれたばかりの1年生
以前どこかのテレビで
トビムシをシロアリだと言い張っていたけど
よく見ればぜんぜん違う
ナカジマシロアリでは
1年生には「エンゼルウイング」があるそうだけど
何に使うかわからない
でも、‥‥とりあえず、欲しい
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伊藤卵
私はヤマトシロアリの卵
伊藤さんちの床下で生まれた
だから名前は伊藤卵(いとうらん)
巣が暴かれたので職蟻が私を運ぶ
大きな体の副女王がうろうろするから邪魔だ
そのうえ私たちを平気で蹴飛ばしていく
私たちを見たことがないという人間は多い
でも少しこだわる人ならそれほど珍しくないはず
孵化して最初の幼虫までは宝石のように透明で
シロアリのなかでは一番美しいもの
「ふつうの女の子」から復活されたあっちの蘭さんは
結構お歳をめされたようですね
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私は誰?
アメリカカンザイシロアリ?
糞が似てるからといって
乾いたところにいるからといって
間違えてはいけない。
誰が最初に言ったのか知らないが
我々を「湿材シロアリ」と呼ぶとは何事か
湿った所にいようと乾いたところにいようと
それは我々の勝手だ。
「乾材シロアリ」などといわれる連中でも
湿った所にいるものもいる
いいかげん 色眼鏡で見るのはやめてくれ
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羽アリの憂鬱
最終脱皮を終えたヤマトシロアリの羽アリはまだ白い
前胸も黄色くなく、幼い頭部の複眼は戸惑いを隠せない
自分がまだどういう行動をするかも知らないのか
ウエディングドレスを着たまま当てもなく彷徨する
この日 近隣のコロニーでもまだ群飛はない
巣内のあわただしさは増してきたが
群飛孔から頭半分出しては すぐひっこむ
彼ら彼女らが羽ばたいたのは8日後だった
山の道いっぱいに羽アリの陽炎が立ち昇った
死への旅立ちである
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決死の旅立ち
一旦羽アリとなったからには
風があってもなくても飛ばなくちゃいけない
できるだけ遠くに飛ぶために、高い場所に登る
しかし、そんな場所を探す猶予はない
手短な草が滑走路となる
一陣の風に吹き飛ばされないよう
しっかり草につかまる
ほんのわずかな風どまりに一斉に飛び立つ
このうち何頭が生き延びるか
ほとんど希望はない
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「アメリカ式」?
他のシロアリは糞を再利用して蟻道を作るのに
このシロアリはアメリカ式に大量廃棄する
こう感想を述べたのは
このシロアリの被害の多い部落の住人
確かにうまい表現だ
でもよく見ると たまには蟻道も作るし
巣の一部に利用する
自然界ではおそらく
半枯れの樹木を間引くのに一役買っているのだろう
イエシロアリのような正規軍としてでなく
分散したゲリラとしてだ
「アメリカ式」を信仰したがるのは
どうやら怠惰で傲慢な人間だけのようだ
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泥線の建設
泥線、この集団的被覆は活動の生命線
一粒の材料をくわえて来ては糞で接着する
途方もない繰り返し 地味に徹する労働の成果
搾取者のいない世界の能動的行為
眼はなくとも 誇りに満ちた眼差し
一人は万人のために 万人は一人のために!
と、思っているかどうかはわからない
30センチも建設するのに1日もあれば充分
しかし 雨にあたれば流される
敵に襲われれば撤収する
運良く環境に恵まれた時にだけ
堅固な蟻道となり 統合生物の「体」となる
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ああ、職蟻のカメラ目線
巣を暴くとはひどい
われわれが一体何をしたのだ
そんな表情の職蟻
兵蟻は相も変わらず虚勢を張って吼えるのみ
もうあきらめるしかないか
かつての栄華は木っ端微塵に砕かれた
女王たちとも離れ離れだ
自慢の蟻道も 堅固な防水層も
もはや再建の見込みもない
涙の果てるまで泣こうにも
眼がないのだからしようがない
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